ファットリア神楽が農薬を使わない理由
農薬・化学肥料を使わない農業をしていると、農薬反対派のかたから、「私も農薬は反対です。モンサントが~」と同士を見つけたかのように話しかけられることがあります。
世の中で何かをする、またはしない、と公表した時点で、主義や主張を含んだメッセージになりえるんだ。とあらためて気づいたので、ここで、ファットリア神楽がなぜ、農薬と化学肥料を使わないかについてお話しておきたいと思います。
それは、僕が幼稚園生の頃、遠い昔にさかのぼります。
そのむかし、駄菓子屋さんでシャボン玉の液を買って遊んだことのあるかたならご存知かと思います。こういう容器に入って売られていました。
当時、ローリーエースという子供向けのドリンクが売られていて、ヤクルトやピルクルと同じような容器に入っているのだけど、子供の時の僕にとっては、酸っぱいヤクルトよりも甘いローリーエースが好みで、いつも冷蔵庫を開ければ入っており、毎日のように飲んでいました。
そして、そのシャボン玉遊びをしている日、今くらいの初夏だったような記憶があります。
傍らにおいたローリーエースを飲みながら、僕は母親の横でシャボン玉を吹いて、遊んでいました。
そこまでは長閑なむかしの思い出の光景です。
ところが、ローリーエースとシャボン玉液、似た形の容器。
その状況から予期される出来事が起こりました。
そう。シャボン玉液を一気飲み。。
口から泡を吹いた。という表現がありますが、シャボン玉液を一気飲みすると、比喩ではなく、文字通りに口から泡が噴き出ます。
となりで慌てている母の顔と、シャンプーが鼻から入った時のようなツンとした苦い味がのどの奥で広がる、焼けるような感覚は、今も結構、鮮明に覚えています。
僕のおっちょこちょいな性格はその頃からあまり変わらず、農業を始めた今も、畑仕事の途中でいつの間にか手袋がなくなっていたり、収穫したはずの野菜が畑にそのまま置きっぱなしになっていたり、直売所で値札シールを100枚のところを1000枚打ち出して慌てたり。
一方、プロの農家さんは、作付けの管理や施肥管理全てにおいて、それはもうきちっと管理されていて、経験則による勘と細やかな数値管理を駆使して、まるで工業製品のように品質の揃った野菜を大量に生産されています。
これはいくら科学の力を借りているとはいえ、並大抵の努力ではなしえない業です。
中でも農薬の管理は非常に重要で、農薬の原液は劇薬でもあるので、鍵のついたロッカーに保管して、農薬ごとに500倍希釈、1000倍希釈、作付けの前にしか使用できないもの、収穫の21日前、3日前は使用不可のもの、等それぞれの薬剤の使用方法を守らねばなりません。
当然、それぞれの作物に応じて、使用できる農薬の種類や回数、いつ使用できるかも異なります。
そして、万が一それを間違うと、たとえ健康被害が出なかったとしても、商品の回収など、販売していただいているお店にも多大な迷惑がかかります。
そんな扱いが難しいものを、たとえ子供の時のことといえ、シャボン玉液とローリーエースを間違えて飲んでしまうようなものに管理は不可能。さすがに農薬をポカリスエットと間違えて飲むことはないだろうけど、そのリスクの大きさを考えれば、僕にとっては、正直怖いというのが本音です。
今の農薬開発の技術はとても高く、一度散布すれば、根や葉から成分を吸収し、3週間の間、その作物の葉や実は虫に食べられない、しかも3週間経てば、自然に分解されて、人間が食べても安全。
それだけ安全性を保てているため、有機農業でも使用可能な農薬は50種類以上もあり、有機農業は農薬不使用と思っていた僕は、初めてその事実を知った時はびっくりしました。
農薬はきちんと調べれば、それほど管理に不安を覚えるようなものではないのかもしれない。
というのは頭では理解しているので、農薬に関して、僕は中立的な考え方ではあるんだけど、三つ子の魂百まで、というように、やっぱり使う気にはならないのです。
化学肥料に関しても、ネギやとうもろこし、茄子など、肥料をしっかりやらないといけないといわれている作物は、化学肥料をやらないと育ちは遅いので同じ面積で作っていても、収穫量に大きな差が出ます。
でも、やはり施肥管理を失敗すると、つるボケ、樹ボケといって、やはり思うような収穫量は出せない。さらには、畑に多量の栄養分が残ってしまうと、その後に作付けにまで影響を与えかねない。高額な化学肥料を使ってもきちんと管理しなければ、宝の持ち腐れ。
それなら、成長は遅くても、収穫量が少なくても、その分、収穫に追われてしんどくならないから、いいよね。
と、あんまり頑張らない、ファットリア神楽は思うのです。
こんなゆるい農家ではありますが、出荷している野菜はきちんと育てて、自信を持ってお売りできるものだけに厳選しておりますので、ご安心してお買い求めくださいね。