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弾ける雨音③
第十五話
(ヒロ)
雨空は一瞬で寂しさの色を映し出した。
彼女が隣にいることを忘れて、
この世界の中で独りになる。
母親からの着信。
ここ最近無かったほどの前向きな明るい気持ちが持てていた俺は、久々にきた母親からの電話で浮かれてしまったのかもしれない。取って早々に母親は弟が俺を必要としているから早く帰ってこいとだけ口にした。
それだけ、だった。
気づいたら、ツーツーとした機械的な電子音のみが耳を騒がす。一瞬でも何かを期待した自分を呪いたい。胸の奥に抱えきれない重さがのしかかり、脳が沈んでゆく。
俺は何を期待していたのだろう。あるわけないのに。
堂々巡りの沈んだ思考から抜け出すのに、どのくらい時間が経ったのだろうか。ふと気がつくと、家を通り過ぎた道まで来ていた。
何も話さずここまで来てしまったこと呆れていないだろうかと横を見ると、彼女は一人でいる時のあの”無”の瞳をしていて、何故かちょっと安堵する。
彼女といると、どこか落ち着いた。
ふわっと思考が軽くなる。
しばらくして俺の家を通り過ぎてしまったことを伝えて謝ると、そうなの?!と彼女は驚いた表情をした。そして、平気だよと言いながら明るい笑顔をこっちに向けて「雨の散歩も悪くないね!」と言う彼女。
心の空には晴れ模様が少しずつ広がっていく。
作り笑顔だとしても、そのおかげで救われるのだから俺にとっては全部本物の彼女だ。
きっとこの時なのだろう。
後に戻れない心の一線を越えてしまったのは。