茜色のグラデーション②
第八話
(ユリ)
カタン、と小さな物音が聞こえた。
瞼がゆっくりと開く感覚を感じる。
二度ほどまばたきをして、辺りをぼーっと見渡した。
ここは…
数秒で記憶が蘇る。
あー、やってしまった。
高校入学の時もらった腕時計を見ると、もうすぐ8時。
大きな羞恥心と後悔が押し寄せる。
「おはよ」
声の方へ振り返ると、君がいた。タクトというあの茶髪青年は用事があって帰ったらしい。ということは、ここに君一人だったというわけだ。申し訳なさと少しの怖さで萎縮してしまう。
「ごめんなさい、すぐ出ます」
いつの間にか背中に置かれていた膝掛けを返すと急ぎばやにカフェを出ようと試みた。だけど、君は「送るよ」と有無を言わさず、カフェの出口へ向かう。
困った。
未だ素性の見えない君に送られることにちょっとした怖さがあるけれど、善意で言ってくれたのだとしたらやはり断りづらい。結局、君と一緒にカフェを出ることになった。
温まった体に冷たく吹く風が当たる心地よさ。深呼吸をすると、脳のモヤがスッキリと晴れ渡っていく。空を見上げると、煌めく星たちが一面に広がっていた。役目を終え休む田園に囲まれた雑音の少ない道。自転車を引く君の隣を歩いていた。
ふと気づく。
カフェを出てから二人の間には沈黙だけ。私は沈黙が苦手なはずだ。それなのに、不思議と居心地が良い。
ふわっと私の感情を撫でて包み込んでいく。
初めての感覚に対する照れと戸惑い。これは一体なんだろう。今までに経験してこなかった感情の乱れない空間。そんな環境にいる自分がなんとなく嬉しかった。