
note27 : ふわりケセランパサラン
さっき冷蔵庫の前に座ってドライヤーをしていた時は瞼が重たく、アイスを食べるか課題をやるか迷った挙句寝る選択をしたのに、いざ布団にはいって目を瞑ると頭が冴えてきてしまった。
こーゆー日はすんごく悔しい。
今日は早く寝れそうだ
じゃあ明日は少し早く起きれるかな
そんなことはなくて。
早く寝ても起きるのは遅いんだけど、そもそも早く寝ることが大学生になってからあまりできない。
日付を超える前に寝たのはいつが最後かな。
眠れないし、本でも読もうと思って最近読み返している「いたいのいたいの、とんでゆけ」を手に取る。
何回読んだかはもう忘れてしまったけど、10月になると読みたくなるのは毎年この本。
寝るために消した電気を付けようとしたら、何回リモコンを押しても電気がつかない。
さっきまで動いていたでしょ????
なんと最後の一撃を寝るための消灯で使い切ってしまったみたいで、私は本を読むことを断念した。
今日はなんだか面白かったな。
と振り返るか、想像を働かせてメンヘルの国にでも行くかをするしかなくなる。
今日は朝イチでグロスを塗った瞬間にケセランパサランが口についた。
そこら辺の糊くらいのベタベタさはあるのでぴったりと張り付いて、ケセランパサランは飛ぶ能力を失った。
せっかく初秋の澄み始めた朝の空気に心地よく乗っていたのに、得体の知れないベタベタに捕まって、体は引き裂かれてしまった。
最後の力を振り絞るように、取っても取っても唇にはケセランパサランのカケラが残る。
最後の1カケを取ってさよならをすると、なんだか少し申し訳ない気持ちになる。
私がグロスじゃなくて、マットリップを塗っていたら、あのケセランパサランの命を奪うことはなかったのだ。
横断歩道を渡りながら、ケセランパサランの儚い命に想いを馳せていたけど、改札を通るともう学校のことやらなんやら違うことを考えていて、私の唇だけでなく、頭の中からもケセランパサランはいなくなる。
今日はお弁当がないからリュックが軽いな。
駅のホームの定位置に着こうとした時、目の前をもう1匹のケセランパサランがふわっと通過する。
私は
もう2度もくらうものか...!
と、さっきまで命の儚さに小さな嘆きを注いでいたとは思えないような敵意を示す。
ケセランパサランはそんな私の敵意をさらりと受け流して
憂鬱な顔をする人間たちを後ろに置き去り
夏の終わりと共に雲が少しかかる水色の空に向かって飛んでゆく。
電車が来る。
スピードを落としながら私を迎えに来る。
私はそのケセランパサランをもう目で追うことはできなくて、振り返らずに電車に乗り込み、憂鬱そうな顔を作ってドアの横に立つ。
揺れる車内でスマホの画面を消して、真っ黒に映し出される自分の顔を眺める。
そこには私しかいなくて、白くてふわふわした何かは跡形もなく消えていた。
グロスは相変わらずペタペタしていて、今日も一日踏ん張っていかないとなあと、憂鬱な集団の箱の中1人、
ふわりと心を動かしている。