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夏の不思議体験~死神とすれ違った瞬間~

あれは10年以上前のことになります。

その頃、私の中では断捨離ブームでした。
数日かけて片付け
お昼前に近所のコンビニで
粗大ゴミに貼るシールを買い、
家に向かっていた時です。

家まで30mもない距離。
右側には大木のある公園、
道路を隔てた左側には
大きめの施設の塀が続いていました。
そこにも木があったので
両側から蝉の大合唱が聞こえていました。

暑さのせいか、
自然と下を向いていたことに気付いた私は
差していた日傘を持ち直しながら、
何気なく顔を上げました。

すると、視界が急に開けたような感じがしました。


やって来た静寂

しーん…

まるで、漫画の静寂の場面に出てくるように
辺りは静まり返っていました。
住宅街とはいえ、
近くには大きな通りに面した商業施設も
クリニックもあります。
それなのに、
何の音もせず、車も通らず、人の姿もない…

今思えば、
あれほどの蝉の大合唱が
テレビのリモコンの“消音“を押したように
聞こえなくなったのは不自然でした。
ふと、
時が止まったらこんな感じかなぁと思いました。


静寂の後に現れたおじいさん

その時です。

左前方から
おじいさんが歩いてくるのが見えました。

銀色のような長めの白髪
黒の長袖に黒の長ズボン
背中を丸めるような前傾姿勢

うつむいているので顔は見えませんが
なぜか、
私はそのおじいさんから目が離せませんでした。

だんだん近づいてくると

小柄ながら西洋の老人のような雰囲気
前傾姿勢なのに滑るような軽やかさ
銀色の髪、肌の異様な白さ、黒の洋服のコントラスト

それらが際立ってきました。それと共に、私は少しずつ足元からザワザワする感じがしていました。

何かあるな』とは思いましたが、家はもうすぐだし
今さら、道路を横切り反対側を歩くわけにもいかず
そのまますれ違うことにしたのです。


この決断を後悔することに

ザワザワする感じは徐々に強くなり、
私の中のセンサーが最大限に発動して
『顔を見てはいけない!』
と自分に言い聞かせていました。
何かはわからないけれども、

顔を見てしまったら
目を合わせてしまったら
取り返しがつかなくなる…


そのおじいさんとすれ違う瞬間には
ザワザワなどという言葉では
到底足りないくらい、

先の鋭い
ギザギザした何かが
刺さるような感覚
でした。

そしてザーッと音がして、

髪の毛が逆立つという感覚

初めて体験しました。
その瞬間、

心臓をギューっとつかまれるような感覚

になり息ができなくなりました。


あ、これ死神だ…


直感した言葉に
生身の私と意識の私で答え合わせをした感じでした。

暑かったはずなのに
まるで氷水を浴びせられたように、
全身が寒く、冷や汗が背中を流れました。

このままでは絶対にいけない』と分かるのに
1ミリも動けないような気がしました。


なんとかしなければ

今でこそ出かけるときには
身を守るセットを持ち歩きますが、
当時は持っていませんでした。

その為、
その時は亡くなった祖母をはじめ
あらゆる神仏にご加護をお願いし、
知っているお経を必死に唱えました。

長かったような、短かったような…

あまりにも苦しくて、限界だと思った時です。

急に体の力が抜けるような感覚
勢い良く新鮮な空気が肺に入ってくる感覚

それらが同時に押し寄せて
激しく咳き込む自分に、ハッと気づきました。
するとそれが合図だったように
周りの景色も時間も再び動き出すような、
そんな感覚がありました。


振り返るとそこには

あ、助かったんだ…』
と思いつつ、安心はできませんでした。

死神だと確信した以上、
すれ違った行方が気になります。
呼吸を整えつつ、意を決して振り返ってみました。

えっ?

すぐに振り返ったはずでしたが
公園にも、歩道にも、道路にも、塀の前にも
誰一人いませんでした。


あれ以来、死神だと確信するものに会っていません。
あの時、なぜ私の前に現れたのでしょうか?



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