猫舌を克服した猫
筆者の知人が飼っている猫は、飼い主といっしょに鍋料理を食べるらしいです。猫が鍋! 驚きです! 今回は猫舌を妄想します。
耐熱性能はみんな同じ
なぜ猫舌の人は熱いものが食べられないのでしょうか? 舌の耐熱性能が低いのでしょうか? そうではありません。口の中は粘膜でできていて、その上を粘液と唾液で保護しているので、比較的熱さに強いのです。ですから、熱湯は無理ですが、熱い料理でも、熱いスープでもなんとか食べられるはずです。それなのに、何を食べても「熱っ!」という人は舌の使い方が下手なのだと考えられます。舌の耐熱性能はどんな人でもほぼ同じなのです。
ポイントは舌先を隠す
口の中で真っ先に食品の温度を感じるのは、最も敏感でもある舌先の部分です。猫舌ではない人は、熱い料理や汁物を食べる時に舌先を上図のように舌の歯の裏側に密着させて隠しています。そうすることで口先から息を吸い込みやすくなり、口の中の食べ物を冷ますこともできます。逆に、猫舌の人は真っ先に舌先で熱い物を迎えにいくので「熱っ!」っとなります。
舌の筋トレ
では、舌をうまく使える人とそうでない人はどこで分かれるのか、それは解明されていません。しかし、その答えに繋がりそうなヒントはいくつかあります。そのひとつに、猫舌の人が舌をうまく制御できないのは舌の筋力が不足しているからだという説があります。しかし、舌の筋トレなんてことはあまりしません。少なくとも物心がついてからは。しかし、乳児のころは違います。母乳を効率的に吸うには舌の中央部分で乳首を保持して圧力を加えます。さらに舌の根元部分を上下運動させることによって乳首から母乳を吸い出します。この動作が舌を鍛え、筋力アップに繋がっているのかもしれません。そしてもしそうなら、母乳を吸っていた期間の長短で舌の筋力が変わっても不思議ではありません。
そう言えば筆者が若いころ、サクランボの茎を口の中で、舌だけで結んでみせる友人がいました。彼は生後10年ほど母乳を飲んでいたに違いありません。
猫舌は日本人だけなのか?
熱いものが苦手なのは万国共通だと思います。国によって舌の耐熱性能が違うということもなさそうで、熱いものが苦手だという人は存在します。しかし、国際的な猫舌調査は実施されたことがなく、確かなことは分かりません。ただ、外国の人は熱々の料理を食べる機会が少ないので、「猫舌」だという認識はあまりないようです。
宮廷料理は熱くない
欧米料理は総じてフランス料理の流れを汲み、その影響を強く受けています。フランス料理は貴族のための宮廷料理だったので、食べやすくするために熱々ではなく、意図的に「温かい」温度帯で提供します。スープを見るとよく分かりますが、西洋料理のスープは底が浅くて間口が広い器(スープ皿)に入れるので冷めやすく、スプーンで少量をすくって口に入れるのでさらに温度が下がります。冷めるのを防ぎたいのなら、日本料理のように深くて間口が狭く、蓋つきの器に入れれば保温力抜群です。日本人は器に口を直接つけるので熱々の汁がダイレクトに流れ込みます。
家庭料理は熱々
日本料理は宮廷料理ではない生活料理なので、熱い料理を熱々に保つ工夫を大切にしています。
※日本には本膳料理や懐石料理などの儀式•行事料理と、京料理、大坂料理などのローカル料理はありましたが、伝統的な宮廷料理は存在しません。現在の日本料理はバラバラに存在していた日本の料理技術の集大成として明治時代に体系的にまとめられたものです。
アジアの料理は概ね欧米料理よりも熱いようで、中華料理や韓国料理には熱々の料理がたくさんあります。しかし、中国、韓国ともに日本のように器を持ち上げるのはマナー違反で、器はテーブルに置いたままで箸と匙を使って口まで運びます。当然、料理は冷めやすいので日本人ほど猫舌意識はないようです。
猫舌克服は進化の証拠
自然界では、ほとんどの動物は熱いものが苦手です。自然界には熱々の食べ物はありませんからね。
人は常時直立二足歩行に移行し、両手が空いたおかげで火を使って加熱する技術を会得しました。脱猫舌は火の使用に伴う副産物的技術なのですが、直立二足歩行から火の使用へと続く、進化の証拠とも言えるのではないでしょうか。
猫舌を克服した猫達は…
筆者の知人が飼っている猫は、「家族といっしょに食べているうちに熱いものを平気で食べるようになった」とのことでした。気になるのはその熱さですが、人がフーフーして食べるほど熱くはないが、それでも十分に熱いと飼い主はおっしゃっていました。
あちこちで聞いてみたのですが、このような猫は少数ながら他にもいるようです。どうやらこの猫たちは舌先を隠す技とは別の方法で猫舌を克服したと思われます。どんな方法か気になるところですが、簡単には分からないでしょう。なぜなら、彼らは自分達が進化したことを隠しているからです。毎夜、飼い主が眠ってしまうと、彼らは直立二足歩行をしているに違いありません。
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