文化と経済の好循環を目指して── 「Culturepreneur Collectives」を立ち上げます
はじめまして。このたび、「Culturepreneur Collectives(カルチャープレナー・コレクティブズ)」という団体を立ち上げることになりました、代表理事・編集者の石原龍太郎と申します。
団体名にもある「カルチャープレナー」とは、「カルチャー(文化)」と「アントレプレナー(起業家)」をかけあわせた造語です。日本の文化的資源を用いて、または文化を事業課題として新たな価値を生み出す人々のことを、私たちは「カルチャープレナー(文化起業家)」と呼びます。
今回は「Culturepreneur Collectives(以下、CPC)」という団体が何のために、誰と、何をしていくのかについてご紹介します。
日本文化が未来の希望になるために
みなさんはいまの日本に、希望を感じるでしょうか。気候変動による異常気象や加速する少子高齢化など、山積する社会課題。日本発のGAFAは未だ出てこず、製造・メーカーも中国に圧倒されている。音楽や映画などのエンタメ分野では韓国が存在感を増し、ほぼ唯一盛り上がりをみせているのはインバウンドの観光だけ。その観光でさえも、かつて無いほどの円安により、「良いものが安く買い叩かれている」状況にあります。
コロナ禍を経てさまざまな歪が表層化し、すでに手遅れな分野もあるいま、一体何に希望を持てば良いのか──。
私たちが考える日本に唯一残された希望、それは「文化」です。生活文化であれ伝統文化であれ、日本が高度経済成長期以降蔑ろにしてきた「日本の文化」は、いまかつて無いほどに海外から高く評価されるようになってきています。かつてドナルド・キーンやオイゲン・ヘリゲルらが著書で記した「wabisabi」や「zen」などに代表される精神性や、健康で長寿な生き方としての「ikigai」、自然との共生などの思想といった「日本文化」そのものが、いま日本を訪れる観光客たちの日本への関心の大きな引力となっているのです。
今のままだと、日本は観光大国を目指すというヴィジョンが語られています。しかし、観光大国になり観光客が増えていく未来というのは副作用もあります。円安の環境の中で、観光大国を目指すと、観光客が一部の地域に集中し、オーバーツーリズムで地域が消費され、疲弊していきます。日本での体験も、安く買い叩かれていくでしょう。
大事なのは、外国人が日本に興味を持ち、訪れてくれている間に、日本を「見せ物」として体験して面白いものにすることにとどまらず、日本との接点を通じて、これからの世界におけるライフスタイルのヒントになる思想や文化に共感し、尊敬されるような「文化大国」を目指すべきである。そのためには、日本文化が持つ価値を現代の文脈に沿って再解釈し、世界に発信し、事業化していく文化起業家、すなわち「カルチャープレナー」が必要である。
日本の文化といえば、アニメや漫画のイメージが強いと思います。しかし、最近は、和食や酒、抹茶に代表されるお茶、仏教や日本庭園、手仕事としての工藝など、外国人目線で言うと幅の広い日本文化との接点が生まれていています。
それぞれの分野で個別に活動している起業家はいますが、海外目線で見た時には、これらのカルチャープレナーが面となって、お互いにノウハウを共有しながら一気に海外に出ていく。そういう面としての日本文化の海外ブランディングが必要だと思います。そのために、私たちは分野を横断して、日本の文化を海外に発信していく意思を持った起業家をネットワーキングし、ノウハウを共有し、支援していきたいと思いCPCの設立を決めました。
文化起業家同士の「連帯」を
CPCがやることは下記の3つです。
1,Community
まずは、コミュニティ。ここでは不定期で場を設け、海外志向のあるカルチャープレナー同士の連帯を生むネットワーキングや、分野を横断した知見共有などを通じて、日本文化の価値を最大化し国内のみならず海外へ届けるための場をつくることを目的としています。
これは、複数人のカルチャープレナーたちと話をしてきて一番多かった声です。分野や世代にごとにゆるやかなつながりはあり、中には友達のような関係もある。一方で、活動の細かい部分までは知らないというのが現状のよう。CPCが設ける場では、そういった深い部分の知見共有やディスカッションを行うことでつながりから連帯を生み、点から面として盛り上げていくようなコミュニティを形成していきたいと考えています。
このコミュニティ活動に賛同いただき、コミュニティ活動に関わっていただく予定のメンバーは現時点で下記の方々です。一言コメントと共にご紹介します。(暫定、五十音順)
・大河内愛加(Dodici):ファッション
個人・renacnatta / cravatta by renacnatta
・河野涼(hyogen、JAPAN MADE):工芸
個人・JAPAN MADE
・立川裕大(t.c.w.k、伝統技術ディレクター):工芸
個人・AMUAMI・ubushina
・宮下拓己(LURRA° / ひがしやま企画):食
個人・LURRA°
2,Research
次に、国内市場ではなく海外市場への文化資源の輸出を目的とし、主に海外からの視点を主軸とした「日本の良さ」の構造化・可視化を通じ、日本文化の海外ブランディングのヒントを探るためのリサーチ機能を持ちます。
海外から日本文化が注目されている、ということは多くの人がなんとなく知っているでしょう。しかし、具体的に何がどのような見られ方/捉えられ方をしているのか、彼らが求めているものは何かといったより詳しい部分は意外と知りません。
短期的には、世界中の都市に住む文化発信に関心の高いリサーチャーをネットワーキングしつつ、各国における日本文化翻訳・発信の機会の共有や、各国のトレンドリサーチや、現地のキーパーソンのデザインリサーチ等を通じて、海外視点からみた日本文化を客観的に捉えつつ、どのように日本文化を海外に発信していくかという知見をシェアしたいと思っています。
中長期的には行政と連携をして街に海外視点でのものづくり文化を実装したり、官庁に対するロビイングや政策提言を通じ日本文化の海外輸出・ブランディングに活かしていくシンクタンクのような機能を担っていきたいと思います。
リサーチに関しては、私が所属している戦略デザインファーム・BIOTOPEの代表でありCPC発起人の一人で理事でもある佐宗邦威や、日本の職人の技術を活かした商品の企画販売など様々な事業展開を行う和える(aeru)で活躍後、現在はロンドンを拠点に活動されている田房夏波さんをはじめ、ニューヨーク、パリなど海外に住むデザインリサーチャーの方々と共にさまざまな角度から進めていく予定です。
3,Media
Mediaでは読んで字のごとく、上記2つを統合し社会に発信していく機能です。主にこのnoteを中心に、コミュニティに関わってくれるカルチャープレナーの紹介やディスカッションのレポート、リサーチのプロセスなどを細かく発信していきたいと思っています。
また、定期的なレポートの発刊はもちろんのこと、日本各地を周り、そこで生活を営む人々の姿や広く知られていない民藝・工藝をはじめとする文化の様相をまとめたZINEのような冊子もつくりたいなあと妄想しています。そしてゆくゆくは、かつて柳宗悦の活動の軌跡を記した日本民藝地図の現代版として形を作り、今に残る日本の文化を海外へ発信することで、TOKYO, OSAKA, KYOTOだけではない日本の魅力を伝えることもしていたいと考えています。
個人的なはなし
CPC立ち上げの経緯と、活動内容は上述のとおりですが、もうひとつだけ個人的な思いを残します。
私は群馬県渋川市(旧子持村)という、伊香保温泉のふもとで生まれ育ちました。実家は130年以上続いた豆腐屋で、祖父が三代目。早朝から豆腐や油揚げ、厚揚げをつくり、おからは祖母がうの花や白和えに調理し、地域の物産店や学校給食に卸しているような小さな豆腐屋です。私は物心ついたときからそんな祖父母の姿を見てきて、いわゆる「職人」的な存在に大きなあこがれを抱くようになりました。
そんなあこがれを抱きながら、歳を重ね、さまざまな人や情報に触れていくうちに「いいものをつくっているからと言って、お金が稼げるとは限らない」というとても残酷な、そして至極当然な現実を知ります。
幸い、実家の豆腐屋は祖父母や先代・先々代の人柄もあってか地域の人々から愛されていたため「まったく稼げていない」状態ではありませんでした。しかし、いわゆるマーケティング的な戦略も予実管理もほぼ無い、言ってしまえば「家族経営の街の小さな豆腐屋」なので、この令和の時代まで100年以上も続いたのはとても幸運だったんだろうなと思います。
一方、長い歴史を持ちこだわり抜いた良いものづくりをしていたとしても、後継者不足や経済的な理由から暖簾を下ろす職人さんたちは、日本にたくさんいます。
それはあまりにももったいないことだと、私は感じます。良いものをつくっている人が適切な評価を受け、金銭的・社会的な価値を享受でき、その人の生活が豊かになり、地域が豊かになり、ひいては日本全体が豊かになっていくためにはどうすればいいんだろう。そんなことを、ことあるごとにずっと考えてきました。
前職であるForbes JAPANで仲間たちと一緒に2018年に立ち上げた「30 UNDER 30 JAPAN」も、「実力に比して報われづらい若いクリエイターやアーティストと経済との交差点をつくりたい」という想いから生まれた企画です。
私は現在「BIOTOPE」という戦略デザインファームで働いており、普段は編集者という視点立場から企業や行政と共にMVVをつくったり、サービスやプロダクトのブランディングを戦略レイヤーからご一緒したりする仕事をしています。そんな日々のなかで、BIOTOPE代表の佐宗がとあるイベントで発した「カルチャープレナー」という単語が心に残り、何度も会話を重ねていくなかで、CPCという団体として活動をしていこうとなったのです。
「文化」とは、捉えどころがなく非常に曖昧で、解釈も多様で、長い時間軸と人々の営みを包含する強力で繊細な言葉です。そんな言葉をテーマとして掲げることへの責任と、それ以上にわくわくし、希望が感じられる未来に向けて、牛歩の歩みではありますが、少しずつ活動を進めていきたいと考えています。
文化起業家、リサーチャー、企業や団体の方などで、もし私たちの活動に少しでも興味を持ってくださるがいればぜひ下記フォームよりご連絡ください。まだまだ生まれたばかりですので、色々と模索しながら楽しく、そして大きなうねりを一緒につくっていけたら嬉しいです。
※石原、佐宗、宮下と知り合いであれば直接連絡をしていただいても構いません!
Forbes JAPAN12月号「Culturepreneur 30」特集もぜひ御覧ください。