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わたしの大切な兄の話【インド映画】#BRO

#BRO(2021年、テルグ語映画)
Simply South、英語字幕で。

※以下、内容・結末の重要な部分に触れています

ドバイの港湾地区で働くマーダヴァ(ナヴィーン・チャンドラ)は母からの電話で子供の頃から患っていた妹スッブ(アヴィカ・ゴール)が亡くなったことを知る。葬儀のために実家に戻ったマーダヴァは、長く離れていた両親とうまくコミュニケ-ションをとることができない。彼は妹の高額な治療費で逼迫する家計を支えるために、両親の決断で学校を15歳で辞め、ドバイに出稼ぎに行っていたのだ。それから18年。実家に帰ったのは2回だけ。自分の未来を捨てて身を粉にして働いてきたのに、結局それは何にもならなかった。身の置き所なく、父のオンボロなワゴン車で一人ドライブに出た彼は、車の中に人影を見る。それは死んだはずの妹スッブだった…。


この映画に関連してYouTubeで公開されている予告編や挿入歌を見ると、だいたい観る前からどういう話かは想像がつく。少年時代と青春時代を突然取り上げられた生真面目すぎる主人公が、ちょっとわがままな妹の幽霊と共に過ごすうちに、失っていた子どもの頃の無邪気さや楽しさを思い出していく。物語に意外と言える展開はあまりないから、ひねりを求めると物足りないかもしれない。だけど、予告編の最後に”In a beautiful fairy tale”と出る通り、ファンタジックな可愛らしい映画だった。まあとにかく、このMVを見てよ…

映像が光に満ち溢れていて瑞々しく、美しい。青い空、田園地帯の緑。咲き乱れる花々。徐々にほぐれていく兄の表情を見て屈託なく笑う妹のかわいらしさ。普段はちょっと気難しげな顔をしているナヴィーン・チャンドラの圧倒的(妹に振り回される)お兄ちゃん感と、屈託のないアヴィカ・ゴールの圧倒的(兄貴を振り回す)妹感…何この可愛すぎる兄妹…私には兄も妹もいないけども、この映画のお兄ちゃんと妹、最高かよ…と思わずにいられなかった。物語は妹を思う兄の歌で始まり、兄を思う妹の歌で終わる。もうほんと、兄妹賛歌極まれり、な作品なのだ。

二人の周りを固める家族の様子もいい。とくに、自分の決断が息子を傷つけたことを知っていて深く悔やんでいる(でもそれを口に出せない)父親がとてもいい味を出している。物語の後半で、彼が息子の一世一代の恋路を成就させようとするエピソードがあるのだけど、テルグ映画らしくルンギをたくし上げる仕草をするところなんて、ニヤッとさせられるいいシーンだった。

とはいえ、主人公は病弱な妹の治療費を稼ぐために学校にも行かせてもらえず外国に出稼ぎに送られ、ひたすら家族のために働き続けてきた青年でもあるので(一方で妹は大学まで通っている)、いい話に落とし込まれていても、彼自身が失ったものの大きさを考えると、やっぱりちょっとひっかかりを感じないわけではない。ただ、インドの事情として、実際にこのように若者が出稼ぎに送られるということは珍しくないのかも、とも思わせられる。地域にそういった仕事を斡旋する人物がいるのもなるほどだった。

主人公を演じているナヴィーン・チャンドラが本当にいい。推しですから贔屓してますけど、それでも。とくに最後、妹が姿を消したことに気づいてからの演技が圧巻…両手をぎゅっと握りしめて家の中をうろうろと歩き回って家族に妹がいないことを訴え(子供ってこういう行動するよね)、最後にそれまで抑えてきた感情を爆発させるように号泣し、家族の腕に抱かれる。もうおばちゃんはね…ここで一緒に泣いたよね…これがともかく悲しいシーンなんだけど、ハッピーエンドでもあるんだよね…ようやく彼がすべてを取り戻した瞬間だとも思えるから…

この作品、2021年の映画だということで製作されたのが実際いつ頃なのかちょっとわからないんだけど、ナヴィーン・チャンドラはその2年後にあのカールティク・スッバラージ監督の「ジガルタンダ・ダブルX」で極悪非道な警官を演じるわけだから、なかなか演技の振れ幅の大きい人。好きです。(真顔)

IMDb
https://www.imdb.com/title/tt15295220/?ref_=nm_flmg_t_17_act

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