女神様の銀行口座【インド映画】Lacchimdeviki O Lekkundi
"Lacchimdeviki O Lekkundi"(2016年、テルグ語映画)Simply Southにて。あのラージャマウリ監督の助監督を務めている方が監督した映画なんだそうだ。(最初にラージャマウリ監督への謝辞があった)
主人公は銀行でお客様係をやっているナヴィーン(ナヴィーン・チャンドラ)。世間では10年以上取引のない休眠口座を凍結するという話になっており、ナヴィーンの勤務先の銀行でも凍結対象となる口座をピックアップしているところである。そんな折、彼はギャング・マヘーシュ(アジャイ)に目を付けられ、その口座のリストを持ち出すよう脅される。マヘーシュの魂胆は、リストから高額の休眠口座を抜き出してその名義人の親族になりすまし、銀行から金を詐取しようというもの。ナヴィーンはその10%を分け前に受け取る取引をしたうえでリストの持ち出しに同意するが、問題は、そのリスト作りをしているのが、彼が憎からず思っている同僚のデヴィ(ラヴァニャ・トリパティ)ということだった。
デヴィを傷つけないようにと思いつつリストの持ち出しに成功したナヴィーンだったが、マヘーシュがそのリストから選んだ休眠口座の名義人は実在の人物ではなく女神の名を掲げた寺院の信託口座だったことが判明し、彼の目論見は失敗に終わる。マヘーシュと一緒に金儲けをたくらんだナヴィーンの立場も危うくなる、かもしれなかった…。
物語はその後、デヴィが女神様に憑りつかれたり憑りつかれなかったり、銀行のお偉いさんが実は悪事に加担していたり、ナヴィーンはそのあたり気づいていてうまく立ち回っていたということが判明したり、なんやかんや起こりながら(←インド映画なので)最終的にはハッピーエンドになるのだけど、主人公の造形(そこらへんにいる普通の男子が頑張る)とか、ヒンドゥー教の女神様が重要な鍵になっていたりとか、脱線気味なコメディパートがあったりとか、テルグらしい映画だなあという気がする。
銀行員なんだけどちょっと倫理観低くねえか…?と日本からツッコミを入れたくなる主人公なのだが、そのあたりを問う作品では一切ない。金儲けをすること自体は、誰も傷つけない限りにおいては、それが犯罪であっても、映画の中では痛快なことなのかもしれない。ナヴィーン・チャンドラが演じているのは彼のキャリアの中に時々登場するボーイ・ネクスト・ドア的な、「性格全般ズボラでだらしないが、好きな女の子のためには頑張る」男子である。長所と短所を比べたらギリ長所(=ナヴィーン・チャンドラであること)が上回ってセーフ、って感じなので、主人公としてどうなのよ…という気もしないでもないが、彼の諸々の短所は笑いを誘いこそすれ決してネガティブな描かれ方ではないので、インドニキたちの共感を得やすいのかもしれない。
ヒロインのデヴィも、自分大好きでなかなか虚栄心の強い女子として存在しているのだが(SNSでいいね!の数が自分より多かったからという理由で友人を遠ざけたりする)、決して皮肉って描かれているわけではないのが面白い。いつも自己肯定感が高くて前向きなので、その虚栄心自体が実に可愛らしい。演じるのがラヴァニャ・トリパティなので、そりゃ自分大好きにもなるわ…と納得なのだった。
映画の出来としては、まあまあ楽しめるといったところで、たとえばテルグ語映画を観たことない人(とかラージャマウリ監督作品とかしか見たことない人)がインド映画第一作目としてこれを選んだらマズイかもしれない。音楽はキーラヴァ―ニ先生であるが、それを差し引いてもちょっとね。
なお、主演の二人はかつてラヴァニャの映画デビュー作"Andala Rakshasi"(2012)でも共演しており、あの時は無頼なアーティストタイプの男と無垢すぎる少女の組み合わせで不幸な結末を迎える恋人同士だったのだが、本作では幸せな未来が見えるところが実に良かった。