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いまどきの名前じゃない二人【インド映画】Bhanumathi & Ramakrishna

"Bhanumathi & Ramakrishna" (2020、テルグ語映画)バーヌマティ・ラーマクリシュナという有名なテルグ映画の女優(故人)がいるらしいのだが、このタイトルは「バーヌマティ」という女性と「ラーマクリシュナ」という男性の名前を指している。映画の中で「いまどきラーマクリシュナ(バーヌマティ)なんて名前の人間いない」というようなセリフがあるのだけど、そんなに古風な名前なんだろうか。

93分というインド映画としてはかなり短い作品で、ストリーミングサービス(aha)上の公開のみ(英語字幕あり)。インド映画でおなじみのダンスはない。

予告編でストーリーの大筋は語られている。
ハイデラバードの広告代理店で働く30歳のバーヌマティ(サロニー・ルトラ)は、そろそろ結婚してもいいかと思っていた交際5年目の恋人(同じく30歳)に、「優しくて、思いやりがあって、しかも24歳」な女性を好きになったと告白されてフラれた。その彼女の職場に、テナリ出身の33歳のラーマクリシュナ(ナヴィーン・チャンドラ)が入社する。彼はバーヌのアシスタントとして真面目に仕事に取り組むが、英語ができずやや不器用で、バーヌを苛立たせる。彼女はラーマクリシュナを凡庸な男だと考えるが、彼と机を並べて仕事をするうちに、徐々に彼の人の好さに親しみを感じはじめる。親から結婚を急かされているという話も自分と似ていたし、33歳という年齢を理由に見合いを断られた、という話はさらにバーヌが彼に親近感を持つきっかけになった…。


バーヌことバーヌマティは最初なかなか嫌な女として登場する。用事があれば恋人に深夜を問わず電話をかけるが、相手からの電話は自分の都合を優先してとらない。職場では同僚に冷たくあたる。本人のモノローグにもあるが、「ドラマチックなことは嫌い」。自分で決めたように物事が進まないと苛立ち、相手には常に上から目線。ただ、そのうち感情を揺り動かされたり傷ついたりするのが怖いためだということもわかってくるので、彼女のつっけんどんな態度もだんだんと可愛く見えてくる。ラーマクリシュナと関わりながらゆっくりと表情が柔らかくなっていくところがとてもいい。

"Sarabham"でいいコンビだった
サロニー・ルトラ&ナヴィーン・チャンドラの再演が嬉しい

一方でラーマクリシュナは見るからにもっさりした、地方出身の男子。地元では両親と同居しているし、親が薦める縁談に素直に従う。バーヌのルームメイトが恋人同士で同棲していることを知って困惑したりもする(「結婚してないのに…」)。ただ、考え方が古いだけの男というわけではなく、優秀な働く女であるバーヌを憧憬の眼差しで見つめるし、産休に入る同僚の仕事を頼まれなくても引き受ける柔軟さもある。自分の価値観を素直に刷新していくところが魅力的だし、かといって親密になりつつある相手にすぐに触れたり距離を縮めたりするような世慣れたことはしない、奥ゆかしさも変わらずもっている。
ストーリーもキャラクター設定も、お国はどこであれ、いかにもありそうな…なんだけど、この主人公二人がそれぞれに変わっていく―お互いがお互いを変えてゆく―ところが繊細に描かれていて、私はそこがすごくいいなと思った。

物語の後半で、バーヌのことを慮って行動したラーマクリシュナの行為に彼女が激怒してしまい、せっかく仲の深まった二人の間に亀裂が入ってしまうのだけど、このラーマクリシュナの行為(バーヌに成りすまして元恋人にメールを送る)がいまどきの情報セキュリティ&モラル的にヤバいので、このあたりはちょっと物語に強弱つけるためだったにしても作劇上どうかなあと思わないでもなかった。この少し前にバーヌがラーマクリシュナの個人情報を深掘りしたらしいエピソードがあるので、実のところお互い様と言えるかもしれないんだけど。私がこの作品にマイナスをつけるとしたらここの部分。

ただ、そのマイナスなエピソードを乗り越えて迎えるラストがなんだかすごくよかったのだ。テナリに帰ってしまったラーマクリシュナを追いかけて彼の実家を訪れたバーヌが、ぎこちなく言葉を探しながら彼に話しかける。いつもだったら強気で上から目線な彼女が、自分に背を向けるラーマクリシュナにどうすればよいかわからないまま必死に言葉を紡ぎ、最後はどうしようもなくなって涙する。ここでのバーヌ=サロニー・ルトラがけなげで、とても愛らしくて、私は大好きになってしまった。
それまで奥ゆかしさが先立ちすぎて(というか自分が彼女と不釣り合いだと思って)恋心を押し殺していたラーマクリシュナがようやく彼女と向き合う流れも…というか君おそすぎやろ!と思ったけどもね、私は…まあでもそんな彼だからバーヌは好きになったんだけどもね…
ここでまた「若い子のほうがいいんじゃない?」なんて憎まれ口を言っちゃうんだよなあ、バーヌ。それに対してブンブン首を振って否定するラーマクリシュナ。お互いが自分にとってどれだけ大切な存在かを確かめあうラストがとてもよかった。

一番盛り上がる場面のはずだけど、背景の音楽も静かでとにかくいい
静謐で穏やか、幸せなシーンだった

「ジガルタンダ・ダブルX」の極悪なラトナクマール警視からナヴィーン・チャンドラ組に加入した者としては、ナヴさんがまさかこんな素朴な男子像を演じているとは思いもしなかったよね。いちいち可愛いよ…休み明けで実家から戻ってきて皆に地元の銘菓を配るラーマクリシュナ…うちの職場にも癒し人員として欲しい。(激多忙な時はイラっとしそうだがこの子おそらく仕事はできる子である)
旧作をいくつか観てみると「庶民的な男の子」もお得意分野なのだろうなということはわかってきたのだが、この作品は格別に良きものである。ナヴさんのフィルモグラフィーを調べた時からこの作品を一番観たかったし、期待以上の作品でもあったので、とても満足だった。

この作品の監督兼脚本家のSrikanth Nagothiは、2023年に"Month of Madhu"という作品を撮っていてここでもナヴィーン・チャンドラを主演に据えている。"Month of Madhu"、楽しみになってきた…。

ラストシーンに流れるこの曲もとってもよかった

どうでもいいのだがバーヌとラーマクリシュナのデスクの間にあるハードディスクの上に金魚鉢があるのだが(カメラワークの都合上たまに省略される)、私は心配になっちゃったよ…あれ事故ったら大変なことになるよ…

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