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【詩#15】《寄せ書き》
1.真夏の罅
青すぎて眩しすぎて痛いくらい
そんな真夏の罅に
わたしのこころは挟まっていた
友よ
いつからわたしを閉じ込めたか
出会わなければ君がいなくたって
生きていけたのに
君よ
いつからわたしは追いかけたか
真夏の青すぎる空にすれ違えば
もう君はここにいない
青すぎて眩しすぎて痛いくらい
そんな真夏の日々に
わたしはまだ懐かしくなる
けれど
そんな真夏を見守ることしかできない
今のわたしには
2.おはよう
おはよう世界
カーテンを開けよう
おはよう母さん
朝ごはんを食べよう
おはよう父さん
ネクタイを締めよう
おはよう道の鳩
今日はなにがあるかな
おはよう街路樹
もう少し散らないでおくれ
おはようバス停
今日は風が冷たい
おはよう駅の雑踏
すれ違うマフラーのぬくもり
おはよう校門
今日も元気だよ 鞄は少し重いな
おはよう友達
昨日のテレビおもしろかったね
おはよう先生
宿題のプリントやったよ しわくちゃだけど
おはようおはよう
明日もこう言えますように
おはよういつかのわたし
今のわたしは幸せです
おはようあしたのわたし
今のわたしは幸せです
3.冬の家路
きらり きら きらりと きらり きらきら きらら
めざすまちはしろく
しんしん しんしんしん しんしんしんしんと...
めざすいえはやさしく
ひらひら ひらひらと またひらひら ひらと...
だんろのひはわずかなしゅんかん
そしてまた きらりときらり きらら きらきら
4.わたしへ
絶望の中にいるわたし
希望なんて見えなくて当然
灰色の心 どうせなら真っ黒にしてしまおうと
そう思っていたのに
なぜだかわたし
希望を見出してしまった
灰色の心 少しずつ白く 青く 明るくなって
不思議に思うのでしょう
わたしへ伝えたいことがあります
真っ白なもの あとは黒くなるだけ
真っ黒なもの あとは白くなるだけ
わたしにはわからないでしょうけど
わたしへ伝えたいことがあります
海は青くて広いもの
空は果てなく高いもの
わたしでもわかってくれるでしょう
5.寄せ書き〜そしてあなたへ
埃をかぶったアルバムを後ろからひらけば
僕の青春時代がそこにはあった
少し滲んで 頑張らないと読めないくらいの
文字こそが僕の青春時代だったよ
卒業の日が近づくと
朝の鳥も なんだか少し落ち着かないみたいで
なにも言わないで 歩いていたけれど
僕だって落ち着いてなかった
いつもの日々が始まるふりをして
いつもの日々はもう終わろうとしている
そんなくりかえしの朝に
くりかえされる朝日はのぼる
真っ白なアルバムに寄せ書きを求めて
また
真っ白なアルバムに寄せ書きを求められて
やがて僕の青春時代が埋め尽くされていく
あれから もう何年経っただろう
滲んだ文字の横に確かにある空白は
真っ白だった頃の名残
その余白を埋めていくのは
これからのあなたです
わたしへ伝えたいことがあります
僕にその余白は埋められません
だから
わたしが埋めてください
僕が生きるいまを名残と思える日が来ることを
信じています
これこそが僕からあなたへの
空白の寄せ書き
僕の青春時代はまだ終わってはいないから
6.朝日の教室
ただここにあるのは
朝日だけだった
もう誰も来ることのない春のこの朝の
朝日だった
ここにわたしは立って思い出してみる
そういえばあの春の日も
たしかに朝日はあった
いまよりも雲にかくれていたけれど
めぐればあの夏の無言を
抱えながら朝日はいたことを
知っているのは誰もいない
いまのいままでわたしすら忘れていたこと
あの秋をあたためていた朝日が
いることがいつの間にか当たり前となって
あえて何も言うことはなかった
あえて何も思うこともなかった
あの冬というには最近すぎる
朝日のない雪の日はまるで未来
朝日眩しい雪晴れはまるではるか未来
くりかえし くりかえす この今を そして未来
そうしてわたしはいま
誰もいない朝日の教室にいる
この春の朝の教室にいる
くりかえし くりかえすこと
この春が いつかあの春になるとき
思い出すこと
ただここにあるのは
朝日だけだった