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【詩#12】《ある一日の叙景詩》
1 朝の叙景
まだ月のみえる頃だが
ほのと明るみ
鳥は鳴いている
冴え切った空気を
まといながら
沈んでゆく月を追いかけ
地平へと消えてゆく
もう姿は見えなくなって
声だけが遠くにみえる頃
真っ黒な空に
かすかな青がひかる
もう月はみえぬ頃だが
黎明の冷たさは
すべてにある
2 昼の叙景
ただ青いだけの空ではなかった
ただ果てしないだけの空ではなかった
日差しは寒く厳しく
それでいて暖かさのなかに
やさしさがある
雲ひとつなき空のために
たくさんの風が大地を駆けている
まだ青いだけの空ではなかった
まだ果てしないだけの空ではなかった
青くて眩しい空だった
果てしなくて眩しい空だった
3 暮れてゆく叙景
紫紺の空に灯る
家からの匂い
あたらしくて
なつかしいもの
一番星を指さしている
子どもたちの影
いつかの
わたしたちもそう
しずかすぎる街を
ヒールの音がする
しずかすぎる家で
ビールの缶をあけ
深い群青の夜に
かすかに匂い立つ冬
高くすみわたる空に
オリオンのひとかけら