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【詩#17】《朝の海へ》

——春合宿'24によせて
〔原題:星と酒〕


序詩、春はまた青く

    歌と歌い人たちとの時間
    それは僕の青春のすべて

この春はまちがいなく
僕の青春だった

色褪せる日がいつか来ても
この星と海は
またこの春は
僕の青春だった

    歌と歌い人たちとの時間
    それは僕の青春のすべて

写真にはときが閉じ込められている
——あの朝の海の
動画にはうたが閉じ込められている
——あの朝の海の

これからうたうのは
まだ鮮やかな青春の......

I.うみねこの鳴く空

うみねこよただいま
もう
あの時のお前たちではないだろうが

うみねこよ父は
もう
この海を訪れることはできないだろうが

うみねこよ僕は
もう
二十歳の空を駆け抜けてきたのだ

うみねこよただいま
あの日
この場所で撮った写真がある

うみねこよ僕よ
これからも
この場所から生きていこうと思う

II.海の向こうにある街よ

海の向こうにある街よ
それは駆けてきた僕たちの青春の名残
砂を持って去ってゆく波
砂を持ってきてくれる波

   海の向こうにある街よ
   それはまだ眩しいこれからの僕たちの夢
   まっさらな鏡となってひかる海
   ひびわれた鏡となってゆらぐ海

海の向こうへ叫ぼう
声は波となって
また波は声となって
海の向こうにある街よ

III.朝の海へ

まだ寒い春の風を追いかけて
僕たちは朝の海へ
まだ出ない声を交わしながら
これまでの空を抱えた
これからの空も抱えた
僕たちは朝の海へ——

どこからか来た木々に
僕たちの時をもたれて
いつからかある漂流を
拾いながら歩いて
捨てながら歩いて
僕たちは朝の海へ——

影だけを見ていた
決して闇に沈むことのない
決して波に飲まれることのない
影だけを見ている
僕の横には確かにいる
僕たちは朝の海へ——

そうして僕たちは
新しい春を迎える
やがて月は白み
やがて日は昇る
いつかこの海の向こうにある街よ
僕たちは朝の海へ

IV.歩幅

僕には僕の歩幅
君には君の歩幅
彼には彼の歩幅
彼女には彼女の歩幅

僕の歩幅は細かくて多い
君の歩幅は広くて少ない

彼の歩幅の足跡は見えない
彼女の歩幅の足跡は見える

僕には僕だけの歩幅
僕という生き方
君には君だけの歩幅
君という生き方
彼には彼だけの歩幅
彼という生き方
彼女には彼女だけの歩幅
彼女という生き方

歩幅のそれぞれに生き方がある
見える分だけそこにある
見えない分だけその奥に

V.星と酒

   あまねく春の星を
   ひとり立ち尽くす
   ひしゃく座が
   こんなに綺麗に見えたのは
   いつだったか

ねむり、しずまりかえったいえたちのなかに
まどにひかりをやどすやどがある。
ねむりのなか
かすかに、そしてたしかに
いのちはもえている。

   あまねく春の星を
   目が回るほど追う
   ひしゃく座が
   もうあんな角度に見える
   そんなにも夜は過ぎ去ったか

うたげのさけは、いのちのじょうねつで
うたげのこいと、ともにもえつづける。
いのちのなか
ひそかに、そしてつよく
ひとをひとたらしめている。

   あまねく春の星と
   置かれて春の酒を
   ひしゃく座は
   誰もみていないうちに
   静かに地平線へ帰ってゆく

めをさます、そのときに
わたしはいきていたことをかみしめる。
さけもこいもなかったが
たしかにひとであった。
これまでのそらをかかえて。

   ひしゃく座は
   これまでの空を
   これからの空も...

   ——朝の海へ


[原題/副題]
I.〔原題〕あの日 この場所で
〔副題〕1日目昼、12年越しの海ほたるにて

II.〔副題〕2日目昼、岩井海岸の向こうの工場を望む

III.〔副題〕4日目朝、岩井海岸

IV.〔副題〕4日目昼、帰途に就いて

V.〔副題〕3日目深夜、一人で夜を眺めて


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