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【詩#3】《旅居》

I.  朝よ

街をさえずるすずめたちに
私は凛と闊歩をすすめる
いまは
ようやく訪れた朝だ

おやすみなさいをくり返して
月白を何度もふりかえる
いまは
ようやく訪れた朝だ

そして迎えた旅立ちの朝よ

II.旅居

見慣れた街を遠ざかり
高い秋の空の漂うを
追いかける
もう
こんなところまで来ていたか
はじめての空
はじめての道
はじめての風
それでいて懐かしい
ここは旅居の
ふるさとか

見慣れぬ街を生きていく
おだやかな秋の川の鏡を
のぞきこむ
もう
こんなところまで来ていたよ
はじめての木々
はじめての人々
はじめての家々
それでいて懐かしい
ここは旅居の
ふるさとだ

III.すずしい夜に

ながれる川の闇に耳をすませる
みえない虫の息をじっとみつめる
いろづく山の葉へ予感を注ぐ

孤独な月の湯に来ても
静寂とともに酒を交わし

わたしも限りなく愛するだろう
あなたたちが
絶えずわたしに注いでくれるように

IV.終点:日常

この電車は
旅居号
「ふるさと」発
「悔恨の滝」
「霧がかる夢 」経由
「日常」
行きです

途中停車駅は
「悔恨の滝」
「涙の跡地」
「霧がかる夢」
「山」
「喧騒のビル灯り」
「さえずりの街」
「日常」
です

この電車は各駅に止まります
決して慌てず
それぞれの時間を
踏みしめてお戻りください

幼年時代を抱える
全ての方にお伝えします

途中涙や後悔といった
冷気を浴びることがあるかもしれません
この電車は
終点日常に
必ず到着いたします

所要時間はあなたです
そして同行の方々です

間もなく出発いたします
この電車は
旅居号
「ふるさと」発
終点
「日常」行きです

それでは、
出発進行

V.少年のうた

少年たちは
満月を隠しているたゆたえる雲
おぼろげに
いずれはすべての旋律を歌う

少年たちは
川の流れの急流と浅瀬
はげしく おだやかに
愛すること そして 愛されること

少年たちは
夕暮れを吹き抜ける田園の風
さびしさが
すなおな永久のやさしさを持つ

少年たちは
時の流れの激動と安寧
ひそかに そしてたしかに
歌いつづけること 愛しつづけること


#私の作品紹介

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