英語を母語としない人にもわかる翻訳を目指して(英語翻訳者 バーナード・ファーレルさん:その6)
わかりやすい日本語原稿が、伝わる翻訳のカギに
行政には住民に対する情報は、住民がわかる言葉で書いてほしい。
なぜかわからないけれど、日本では新しい制度を作る国家公務員だとか、行政の賢い人たちは難しい言葉を使って、文章がややこしい。
本人たちはすべてわかっているからいいけれど、一般の住民からすると何が書いてあるかわからない。
だから、元になる文章は難しくても構わないとしても、住民に届くものは住民が読んでわかるように書いてほしい。
制度を何回も改正すると、ますますわからなくなってしまう(笑)。
「田中さん」はMs.? それともMr.?
日本語で困るのは、例えば「田中さん」と書いてあると、どう英訳する?
「さん」だと男性か女性か、読むほうにはわからない。
英語では男性・女性で表現が変わるし、代名詞がheかsheか、文章全体に繋がってくる。
日本だったら身内の場合に「田中に連絡してください」なんて言うけれど、英語ではありえませんよ。
ちゃんとMissとかMs.、Mr.と言わないと非常に無礼です。
英語圏の人に「田中に連絡してください」のように言ったら、えらく怒られるよ。
他には複数と単数。
日本語で「子どもがいる」と言われても、何人かわからない。
英語だとchild(1人)かchildren(複数)か区別する。
翻訳でこういうことになると、例えば人の性別がわからないときはFACILにお願いして、できるだけ依頼元に確認してもらうしかない。
単数と複数の場合は、文章の中で想像できることが多いから、自分で判断することが多いですね。間違えるときもあるけれど、仕方ないと思う。
それから、英語の場合に困るのは、日本語の文章には主語がない場合が多いこと。
だって英語は主語がないと文章が成り立たない。
そんな時は、先にも言ったけれど、翻訳者の想像力を駆使して文章を読むということになるけれど、実際の状況がわからないからね。悩ましい。
翻訳の面白いところでもあるわけだけど。
内容を本当に理解しないと翻訳できないから、翻訳の仕事のおかげで日本の社会がわかってきた。
翻訳を通して、教わったことはいっぱいある。
「英語を母語としない人」のために英訳する
英語の翻訳の場合、他の言語の翻訳とは違う面があります。
特に、行政情報を翻訳する時に気をつけているのは、それを読む人の多くは、英語が自分本来の言葉ではないということ。
だからある程度、誰でもわかるシンプルな英語で訳す。
英語の文章を読む力がそれほどなくてもわかりやすいように。
自分の言語では情報がなくても、英語では情報があって、英語ならちょっと読めるくらいの人にもわかる。そんな英語で翻訳しようと。
FMわぃわぃの英語番組「Sound Waves」(注:ファーレルさんがパーソナリティを担当したラジオ番組)もそうだった。
ネイティブの人向けよりも、ゆっくりした英語で話していた。FMわぃわぃはコミュニティ放送だったので電波が届く地域は限られていて、その地域住民で英語圏の人はほとんどいない。
たぶん聞いているのは日本の人か、そうではない人でも英語が第二言語の人。普通の英語のスピードだとわからないだろうから、ちょっとゆっくりね。
翻訳もそういうふうに考えた。
英語が母語の人だけのためではなくて、英語はちょっとわかるという人にも読めて、理解できるように心がけて訳しています。
生活情報の翻訳はシンプルさを重視
私の英語能力からすると、それしかできないということもある。
先ほど、「こんなすごい翻訳ができたらいいなと思わせる人がいる」という話をしたけれど、自分はそこまではできない。だからシンプルな翻訳しかできない。
それが逆に、英語があまりできない人でも読めるように伝えることに繋がったのかもしれない。
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