2023年12月の読了本+感想
あけましておめでとうございます!
2023年はありがとうございました!
昨年は初めて小説を出版し、第一芸人文芸部ができ、文芸誌を刊行することも出来ました。応援してくださっている皆様のおかげです。
今年は書くペースを上げます。作品が新たな景色を見せてくれるでしょう。
これからの予定
1)『読者たちの夜会』
日時:2024年1月17日(水)
場所:ネイキッドロフト横浜
OPEN 19:00 / START 19:30
会場チケット 前売り¥ 1,500/ 当日¥ 2,000 (※要1オーダー500円以上)
【出演】
カモシダせぶん
エル上田(エル・カブキ)
キャメル花形
あわよくばファビアン
彼方さとみ(変ホ長調)
ぜひ会いにきてください〜! 詳しくは↓↓
2)『文学フリマ広島』
こちら第一芸人文芸部での遠征です。
と言っても、行くのは僕ひとり。中国地方の皆さま、ぜひ会いにきてください!
日時:2024年2月25日(日)
場所:広島県立広島産業会館 東展示館 第2・第3展示場
時間:11時〜16時
第一芸人文芸部 活動報告
1)stand.fm配信
毎週水曜日、22時からstand.fmの生配信で、今週読んだ本について語ったり、活動報告も行なっているので、ぜひ聴いてみてください!
次回(1/10日)の放送のテーマは文學界2月号に掲載される又吉さんの新作『生きとるわ』の第二回です。(1月3日はお休みです)
2)Amazon Audible『本ノじかん』 配信中
番組のパーソナリティを担当させていただいております!豪華なゲストと本や創作について、めちゃくちゃ語っているのでぜひ!
また番組では『クチヅタエ』という企画で、バイク川崎バイク(BKB)、しずる・村上、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、レインボー・ジャンボたかおのリレー小説を朗読連載中。
読んでくださっているのは、声優の白井悠介さんです!
登録30日間は無料なので、ぜひ聴いてください!
より詳しく、読書大学さんが書いてくれましたので、ぜひこちらも読んでみてください!
3)文芸誌『第一芸人文芸部 創刊準備号』の発売店まとめ
2024年1月31日まで、ラフォーレ原宿『愛と狂気のマーケット』に出店しているので、明治神宮での初詣や原宿に予定のある方、ぜひゲットしてください!
そのほか、書店のまとめ↓↓
2023年12月に読んだ本
1)『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈
成瀬最高ー!思わずそう叫んでしまいたくなる読後感!
次回作が楽しみで仕方がない。青春小説であり、滋賀小説でもある。
この本は、自分の小説と発売日が近くてよく本屋で装丁を見かけて気になっていた。
—————あらすじ—————
「静岡書店大賞」小説部門 第一位
ダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR 2023」小説部門第一位
「読書メーター OF THE TEAR 2023-2024」第一位
「中高生におすすめする司書のイチオシ本 2023年版」第一位
第一章「ありがとう西武大津店」が第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞
など続々受賞。
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
2023年、最注目の新人が贈る傑作青春小説!
—————感想—————
まず成瀬が主人公だと思ったら、最後の章以外は違ったのが衝撃だった。
周りの人から成瀬がどう見えているかを綴ることにより、成瀬が立体的に浮かび上がってくる。
一章、二章は成瀬と同じマンションに住む幼なじみ、島崎の視点から中二の成瀬を描き、四章は高校のクラスメイト・大貫の視点から高校生になった成瀬を描いている。
そして成瀬の輪郭がはっきりわかってきた頃、第五章で成瀬を描くのではなく、成瀬に一目惚れしてしまった男・西浦が登場するのがまた良い。
めちゃくちゃ応援したくなるし、成瀬の家にいく誘いを断ってしまうが、行け〜!行ってもっとどんな奴か教えてくれ〜という気持ちになった。
そして最終章。主人公は成瀬。この本で初めて三人称で描かれている。
地の文は成瀬だったり、成瀬ではなかったりするわけだが、その天真爛漫で真っ直ぐなキャラクターを筆者自身も一人称で全て断定的に書くのは避けたかったのではないか。初めて描かれる弱い成瀬には、そういう面があるのも知れて嬉しかったし、成瀬は成瀬で喜怒哀楽やってたんやな〜と思った。
なんと言ってもこの物語は、成瀬のキャラクター設定が素晴らしい。
島崎曰く
「いつだって成瀬は変だ」
「成瀬は幼稚園に通っている頃から他の園児と一線を画していた。走るのは誰よりも早く、絵も歌も上手で、ひらがなもカタカナも正確に書けた。誰もがあかりちゃんはすごいと持て囃した」
「本人はそれを話にかけることなく飄々としていた」
「しかし成瀬は学年が上がるにつれて孤立していく。一人でなんでもできてしまうため、他人を寄せ付けない。意図的にそうしているわけではないのに、周囲からは感じが悪いと受け取られてしまう」
「5年生になると明確に無視され始めた」
中学になった成瀬は島崎に告げる。
「島崎、私はこの夏を西武に捧げようと思う」
「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」
ここから西武の前に毎日立ち、地方のワイドショーに毎日映り込んだり、M-1を目指して戦うことが始まるわけだが、喋り方がいちいち面白い。
「そうだ」「構わない」
「そんな質問をするということは、西浦は私が好きなのか?」
おもしろすぎる。
M-1を目指すシーンは、漫才を発案し、これでもないあれでもないとネタを考えて叩くシーンが出てくる。めちゃくちゃよく書けていると感じた。改良するたび、本当にウケそうな漫才に仕上がっている。
また滋賀が百人一首の一番歌「秋の田の かりほの庵 ( いほ ) の 苫 ( とま ) をあらみわが衣手は露にぬれつつ」 を詠んだ天智天皇が祀られていることから、「かるたの聖地」と言われていることも知らなかった。
滋賀が西武グループの創業者の出身地だということも、関西最後の西武が閉店したことも知らなかった。『でかける人を、ほほえむ人へ。』が西武のコーポレート・スローガンらしいが、この小説は確実に読む人を微笑ませてくれるだろう。
2)『不器用で』 ニシダ
末恐ろしい才能を感じた。
圧倒的表現力と、予想ができない物語の展開。マジで天才だと思うし、いずれ何かの純文学の賞を取るだろう。
五話からなる短編集だが、どの話もめちゃくちゃ面白かった。
ジュニアさんが絶賛した理由がわかる。
—————あらすじ(公式より)—————
鬱屈した日常を送るすべての人に突き刺さる、ラランド・ニシダの初小説!
年間100 冊を読破、無類の読書好きとして知られるニシダがついに小説を執筆。
繊細な観察眼と表現力が光る珠玉の5篇。
「遺影」
じゃあユウシはアミの遺影を作る担当な――。中学1年の夏休み、ユウシはクラスでいじめられている女子の遺影を作らなくてはいけなくなった。
貧しい親のもとに生まれてきたアミと僕とは同じタイプの人間なのに……。そう思いながらも、ユウシは遺影を手作りし始める。
「アクアリウム」
僕の所属する生物部の活動は、市販のシラス干しの中からシラス以外の干涸びた生物を探すだけ。
退屈で無駄な作業だと思いつつ、他にやりたいこともない。同級生の波多野を見下すことで、僕はかろうじてプライドを保っている。
だがその夏、海釣りに行った僕と波多野は衝撃的な経験をする。
「焼け石」
アルバイト先のスーパー銭湯で、男性用のサウナの清掃をすることになった。
大学の課題や就職活動で忙しいわたしを社員が気遣って、休憩時間の多いサウナ室担当にしてくれたらしいのだが、新入りのアルバイト・滝くんは、女性にやらせるのはおかしいと直訴したらしい。
裸の男性が嫌でも目に入る職場にはもう慣れた、ありがた迷惑だと思っていたわたしだったが――。
「テトロドトキシン」
生きる意義も目的も見出せないまま27歳になり、マッチングアプリで経験人数を増やすだけの日々をおくる僕は、虫歯に繁殖した細菌が脳や臓器を冒すと知って、虫歯を治さないという「消極的自死」を選んでいる。
ふと気が向いて参加した高校の同窓会に、趣味で辞書をつくっているという咲子がやってきた。
「濡れ鼠」
12歳年下の恋人・実里に、余裕を持って接していたはずの史学科准教授のわたし。
同じ大学の事務員だった彼女がバーで働き始めてから、なにかがおかしくなってしまった。
ある朝、実里が帰宅していないことに気が付いたわたしは動転してしまう。
—————感想—————
「遺影」「アクアリウム」「焼け石」「テトロドトキシン」「濡れ鼠」、どれも抜群に面白く、読み応えがある。
全く予想できない展開が続き、結末に毎回うならされた。終り方はもう芸術の域。
描写の細やかさ、他の誰かがしてそうな言い回しは使わないというこだわりも随所に感じられた。
そして最も読者の感覚に近そうな、共感を得られそうな「濡れ鼠」を一本目に持ってこない構成にも驚く。
僕なら五本揃った時点で、これを一本目にしただろう。
漫才でのツッコミの立場、クズ芸人としてのキャラクター、この本を読んだら相乗効果的に、それら全てに深みが増すと思う。
これからの活躍に期待しかない。
3)『レモンと殺人鬼』 くわがきあゆ
第21回 『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作!
自分の小説と発売日が近くて、ずっと気になっていた一冊。雪下まゆさんの装丁の訴求力がすごい。これは買ってまうわ。
『レモンと殺人鬼』というタイトルにも惹かれた。
———あらすじ———
十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。
しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。
被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、
妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。
———感想———
いやすごいなこれ。起承転転転転転転転結。お見事。完璧にやられました。読者を力業でねじふせるような至極のミステリー。
まずミスリードが巧みすぎる。
確定事項と、主人公・美桜の思い込みと、頑張って区別しながら読んだけれど、犯人たどりつけず。動機も予想のはるかに上をいっていた。
またビジュアルが想像できたのにも興奮した。
とくにグリル那見の裏口での出来事は頭から離れない。人生で想像したこともないようなシーンを見させてくれた。
登場人物の裏の顔や本心が物語中盤からしだいに垣間見られるのにもゾクゾクした。虐げられるがわより、虐げるがわの方に行きたい。むしろ不幸の星のもと生まれた家族だと思っていたけれど、そんなことなかっんだと気が付きながら迎えるラストシーンは、本質的な意味での救いがあったのかは分からないけれど、美桜にとっては良かったのだと思う。
4)『こちらあみ子』 今村夏子
『むらさきのスカートの女』でどハマりして、夏に購入していたのだがやっと読めた。めちゃくちゃ面白い。
———あらすじ(公式より)———
第26回太宰治賞&第24回三島由紀夫賞 W受賞
読む人のたましいを揺さぶる、芥川賞作家・今村夏子の衝撃デビュー作。
あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。
純粋なあみ子の行動が周囲の人々を否応なしに変えていく過程を、少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示したデビュー作。
短編「ピクニック」「チズさん」を収録。
解説:町田康、穂村弘
「いつか、たった一人の読者の手によって、ボロボロになるまで繰り返し読んでもらえるような物語を生み出すことができたら、どんなにか幸せだろうと思っています。そういう物語は、書く側が命懸けで臨まない限り決して生まれてこないのだと、今更ながら思い知った次第です。」── 今村夏子(太宰治賞受賞の言葉より)
———感想———
いわゆる地域の変な子、学校の変な子である主人公・あみ子。中学時代に好きな男の子・のり君にパンチされて歯が3本なくなってしまう。プロローグでその事実が明かされ、第一章から、あみ子の小学校時代〜中学時代を振り返り、どのようにパンチされるに至ったかが描かれている。
いわゆる“まとも”ではない、あみ子。周りとは感覚がズレており、人の気持ちがわからず、言動を全く理解をしてもらえない。給食のカレーは手で食べるし、亡くなった弟のお墓をアイスの棒で作ろうとする。
そんなこんなで仲間はずれ、いじめ、家族からの隔離を受けるが、本人はその状況さえよくわかっていない。
そんなあみ子はのり君に恋をしてしまい、ありのまま突き進む。常識だとかからは逸脱した行為ばかりだが、読み進めるにつれてあみ子を応援してしまっていたのはなぜだろう。主人公だから——そんな言葉じゃ表せない。自分の思うがまま行動するあみ子に、確かに憧れている自分がいた。
「好きじゃ」「殺す」「好きじゃ」「殺す」のやり取りは最高だった。爆笑してしまった。
収録されている『ピクニック』『チズさん』も最高だった。
5) 『選ばなかった冒険』 岡田淳
ある日。学校の階段からRPGの世界へ。
RPGの世界で眠ったらもともと居た世界にもどる。
もう一度寝たら、またRPGの世界へ。
そこには闇の王がいて……。
———あらすじ———
学とあかりは、保健室に行く途中、学校の階段から「光の石の伝説」の世界にワープしてしまう。そこは、学が昨夜夢中になってプレイしていたロールプレイングゲームの、闇の王が支配するダンジョンの世界だった…。
————感想—————
児童文学のカテゴリ。めちゃくちゃ楽しめた。子供はもちろん、大人が読んでも面白いしワクワクした。そして主人公の二人(学とあかり)どちらの気持ちもわかるので、かなり感情移入できた。
闇の王、兵士、モンスターを倒すため訓練を受けるシーンがあるのだが『音を立てない歩き方』は自分も本を片手に試しながら読んだ。足音消せるようになったかもしれない。
ハリーの正体は明かされるが、学とあかりのゲーム内での役割は最後まで明かされないのも余白があって良い。僕は学は最初にハリーと仲良くなったように優しさを気付きを、あかりはラストシーンや戦う意味を考えるシーンに象徴されるように俯瞰と確信を付く役割があるのだと考えた。
「ほとんどの者が殺す側か殺される側になっているのだ。
そしてこの世界にいる自分は、むこうの世界で自分が殺されていたり、だれかを殺していたりすることを知らないで、だれが好きとか話しているのだ」
この独白が良い。
僕が選ばなかった冒険を誰かが生きていて、誰かが選ばなかった冒険を僕が生きている。
そしていじめのシーンがすごかった。色々な小説・漫画・映画などでいじめのシーンは描かれていて、作家からしたらいかに対象を苦しめるのか大喜利みたいになってるけれど、『選ばなかった冒険』のいじめシーンは凄かった。すごく嫌。それでいて新鮮。
あとカレーシチューってなんだろ。ビーフシチューのことかな。
6)『文學界(2024年1月号)』
・『生きとるわ』 又吉さん
———あらすじ———
会計士の主人公・岡田は、大学時代、同じサークルに所属していた大倉、広瀬とスナックに集まる。会うのは5年ぶり。その日は、阪神がセ・リーグで優勝した夜だったが、テレビを見ない岡田はそんなことは知らないのだった。
しばらくして、話題は横井の話に。横井は岡田、大倉、広瀬をふくめ、色んな人から金を借りて行方不明になっていたのだが、なんと目撃情報があるという。
———感想———
いやーーー、面白い。又吉さんのこれまでの『火花』『劇場』『人間』の主人公は夢を追う表現者だが、『生きとるわ』は会計士。全くこれまでと作風が違い、こんな引き出しも持ってたのか、と驚かされる。
物語は金を貸したまま逃亡していた横井との関係をメインに、少しよそよそしさのある妻との関係、会計士としての仕事の話と3つを軸に進んでいく。(次号へ続く)
後半のふたつが横井の話にどう絡んでくるか楽しみで仕方がない。
横井と岡田、大倉、広瀬との戎橋でのやりとりは爆笑してしまった。この種の笑いを小説で味わったのは初めてだった。
スナックの常連・定さんとママのやりとり、横井の実家でのシーンもめちゃくちゃ面白かった。大阪を設定にしている効果が抜群に出ていた。
次号もめちゃくちゃ楽しみ。
・『無害ないきもの』 村田沙耶香さん
ドイツの文芸誌に掲載される用に書いた短編。
デストピア小説。めちゃくちゃ面白い。
———あらすじ———
人間は地球を無茶苦茶にした罪深い生き物だと教育を受けている子供たち。
外界と遮断されたドームの中で、ただ生きている。
子供たちは18歳になると別のドームに移動させられ、生殖し、ひたすら赤ちゃんを産まされる。
———感想———
このテーマと設定をこの文量に落とし込んだのすごすぎる。「肉」「緑」「主食」「液体」が癖になる面白さ。
残り数ページでここからどうなるんやと、ヒヤヒヤしたが、想像を超える秘密とラストが待っていた。こんな話を書けるようになりたい。
・そのほか筒井康隆さん、藤原麻里奈、DJ松永さんなどのエッセイも抜群に面白かった。