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ひとひらの魂

里山のふもとに大きな木がすっくと立って、影を落としています。
晩秋の木は、ほんの二三日まえまで、ひとつの静かな炎のようでした。
そんなうつくしい色づきも、さかりはつかのま。
木の葉は風もないのに、はらはらと散ってゆきます。
ひとたびこがらしが吹こうものなら、いっせいに舞い散って、親木の根もとに折り重なります。それがまた一陣の風に飛ばされたり、輪をなして舞いあがったりしています。
そのようすを高枝から見おろす一枚の葉っぱがありました。
色あせた葉っぱは先のほうから黒ずんで、おまけに虫くいの穴だらけです。なんともみじめな見てくれで、枝にしがみついたそのさまは、涙ぐましくさえうつります。
けれども葉っぱの心は充ちたりていたのです。
思い出されるのは芽ぶきの日。
ともすれば落ちかぶさる冬のなごりに気おくれがして、葉っぱはためらっていたのでしょう。
なかまたちの芽ぶきをよそに、かたく閉じこもっておりました。
それでもある日、春風のぬくもりにほだされ、薄紅色のやわらかい芽をちょっぴりのぞかせました。
葉っぱを包んだのは、まばゆいひかり。
あたりは輝きに濡れています。
日光がしたたっているのです。
「あれが太陽というものか」
金色の翼のような天のひかりは、すべてをひとしなみに照らしていました。
あのひかりに近づきたい。
葉っぱは願いました。それは迷いのない願いでした。葉っぱはその日から、ひかりを求め、ひとすじの思いで生きたのです。
若葉となり、青葉となり、思うさまひかりをあびた一枚の葉っぱは、こもれびを織りなす影のひとかけらとなりました。
またあるときは風に歌い、あるときは雨に微笑をささげ、いのちをたのしみ、生きることをよろこびました。そして心は、つねに太陽にあったのです。
秋が忍びよってきました。
紺碧の空が日ましに深くなるにつれ、求めつづけたひかりは淡く、かぼそくなる一方です。
葉っぱは黄金のように染まりゆく身のうつろいをみて、宿命をさとりました。
次なるいのちの芽ぶきのため、自分は土にかえるのだ、と。
そよ風にうながされ、葉っぱは枝をはなれて、ゆっくりと散りました。あこがれた天は、上に上に遠のいてゆくのでした。大地は冷たく、しめっていました。うすらぐ意識のなか、葉っぱはただひとつ、いのりました。
どうか、わたしを太陽に近づかせてください。

さらさら
かさかさ
なにか音が聞えます。
お百姓がひとり、熊手をつかい、落葉をかきあつめているのです。
やがて落葉の小山に火がともりました。
まっすぐなほそいけむりとなって、葉っぱのたましいは、澄みきった天の高みへのぼってゆきました。

たき火のそばには、燃えつきたかのような冬木立の姿がありました。

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