推しから推しの推しへ 読書感想文
フリッツ・ライバーの小説に出るヒロインは涼宮ハルヒが気に入りそうな者たちが多い。(たぶん既に誰かが言ってる)
本から本へわたりあるくイメージにあうとおもい、ヘッダー画像をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。
まえがき
シェイクスピア俳優の息子が書いた小説に「ジョン王」らしさが混ざってました。たぶん偶然なんですが、その小説の名は「クォーモールの王族」(フリッツ・ライバー著、浅倉久志訳『妖魔と二剣士』所収)といいます。
一種のPR広告ということでフリマアプリのアフィリエイト(妖魔と二剣士の検索結果)を貼ってみます。
別に「新発見」を喧伝するつもりなんてさらさらなくて、私はフリッツ・ライバーという作家が好きで、ライバーの小説から、彼に影響を与えたであろう作品へと飛び移って楽しんで、偶然の一致に過ぎないとわかりつつも興奮して書き散らした、ただそれだけです。
冒険小説より、あるいはシェイクスピアの雰囲気があるSF・ファンタジー・ホラーを探している人に、フリッツ・ライバーという名前が届けばなによりです。ちなみに、作家フリッツ・ライバーの父もまたフリッツ・ライバーといいます。
シェイクスピアとのつながり
先日『ジョン王』を読んで、ふと思ったのは、アンジュ市民と「クォーモールの王族」に出てくるクォーマルという王様は、うんと要約した果てにのこる構造の上では、同じような立場じゃないかということだ。
ジョン王: 王位を巡って、ジョンとフィリップが争ったのち和解したことは、アンジェ市民にとって好ましいものだった。
クォーモールの王族: 王位を巡って、ハスジャールとグワーイが争ったのち自滅したことは、クォーマル王にとって好ましいものだった。
和解か自滅かを除くと、あらすじが一致していると、いえなくもないだろうが、その一致は偶然の一致にすぎないだろう。
父ライバーには「ジョン王」でフォールコンブリッジを演じた記録(リンク先下部)がある。頭の整理がてら年表(後述)にしてみたものの、やっぱり偶然の一致な気がする。息子ライバーの「クォーモールの王族」執筆と、父ライバーの「ジョン王」出演のあいだに、因果関係はなさそうだ。
余談)手元のメモを読み返したら、「ジョン王」に出てくる私生児の行動も、二剣士の行動も大局に影響してない、とかいう上から目線なメモがあった。「ジョン王」論をもっと探したら面白いかも。
ただものじゃないヒロインばかり
短編集『跳躍者の時空』の解説によれば、息子ライバーは学校に上がるまでは劇団と一緒だったらしいので、シェイクスピア作品は息子ライバー(というか英語で書かれた諸々)に何らかの影響を与えているのだろう。
恐れながら表層だけさらってみた。男装した女性が男を手玉に取るという要素(筆者が読んだ範囲では『ヴェニスの商人』『お気に召すまま』)は、「ランクマー最高の二人の盗賊」(『妖魔と二剣士』所収)に共通してる。
そういう男女関係はもっと広い範囲で見れるものだろうとは思うものの。
男装ではないが、「クォーモールの王族」ではヒロインの一人イヴィヴィスが老魔女の仮面をつけて変装している(p308)。王族一同のキャラが濃すぎて、イヴィヴィスの変装のことを忘れてしまっていたよ。
なお、ライバーの未訳作品The Green Millenniumを読んだ殊能将之先生は「ライバー自身にも未来を予測しようなんて意図はゼロ。これはコスプレした半裸の女性と可愛い猫がいると幸せという、ほとんど妄想を描いた小説です」(web archiveより引用)と述べてらっしゃった。
ただのヒロインには興味ありません、この中に透明だったり、鳥人間だったり、ねずみだったりするのがいたら…、みたいな人だったのかしらん。ライバーという人は。
レンズマンとのつながり
話が飛んで、「クォーモールの王族」と他作品の意図的な一致は、演劇といってもスペースオペラに求めるべきかもしれない。
たとえば、空調経由で危険な薬物を送り込むという手口は、レンズマンシリーズにもある(『銀河パトロール隊』*1)。そして、ライバーは『放浪惑星』でエピグラフとして『第二段階レンズマン』を、薬物とは関係ない文脈だが、引用している。おまけに『放浪惑星』と「クォーモールの王族」の発表は同じ年ときた。
と、いったところでこじつけと変わらないけれども、推しの作品から推しが(を)推している作品に飛んでいくのは楽しいのです。
*1
2002年の東京創元社のKindle版を「ダクト」で検索すると該当部が出てきます「24 キニスン内部から穴をあける」
年表
1909, ライバー(シニア)「ジョン王」のフォークンブリッジを演じる(参照先はあくまでもブロードウェイでの公演だけをまとめたもの)
1910, ライバー(ジュニア)生まれる。
1936, H・P・ラヴクラフトからライバー(ジュニア)夫人宛の書簡。HPLは、今世紀の初め頃にライバー・シニアの芝居をみたこと、フォークンブリッジ役の演技が見事だったことを、セリフの引用も交えて述べている。*1
時期不明, ハリー・オットー・フィッシャーが「クォーモールの王族」の約3分の1を記して、ライバー(ジュニア)に送る。内容に二人の王子のフィナーレが書いてあったかは不明。*2
1937, 「銀河パトロール隊」がアスタウンディング誌9月号から翌年2月号にかけて発表
1950, 『銀河パトロール隊』出版
1964, 「クォーモールの王族」がファンタスティック誌1、2月号にかけて発表
1964, 『放浪惑星』出版(上記とどちらが先か不明)
*1, 書簡の一部は以下に所収。佐藤嗣二訳「フリッツ・ライバー夫人宛1936年11月2日付書簡」H・P・ラヴクラフト著 矢野浩三郎監訳『定本ラヴクラフト全集10 書簡編・II』国書刊行会、1986、p232――セリフの引用を含んだ状態の書簡は以下に所収。Ben J. S. Szumskyj and S. T. Joshi編, Fritz Leiber and H. P. Lovecraft: Writers of the Dark, Wildside Press, 2004, 13p ラヴクラフトが引用したのは、第5幕最後のフォークンブリッジのセリフのようだ。