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『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』振り返り対談|ディレクター×メインシナリオライター

2024年7月31日に、約6年9ヵ月運営を続けてきた『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(以下『マギレコ』)がサービス終了を迎えました。長年『マギレコ』をプレイし、愛してくださったユーザーのみなさま、本当にありがとうございました。

そこで今回はf4samurai取締役(COO)兼ディレクターの田口と、メインシナリオライターを務めた森の対談インタビューをお届けします。

開発期間を含め約9年にわたって『マギレコ』に携わってきた2人が、開発・運営中の思いやエピソードをお話しします。


『マギレコ』の土台を作った3年間
開発スタートからリリースまで

(左)f4samurai取締役・田口 (右)メインシナリオライター・森

田口
まずは長い間お疲れさまでした。開発着手からだと何年になる?


開発着手が2015年だったので、約9年でしょうか。

田口
森さんの入社も2015年でしたよね?


そうです。入社半年後くらいに当時立ち上がったばかりだった『マギレコ』にジョインして、最後まで携わらせてもらいました。

田口
スタート時のメンバーは僕たち含めて3人だけだったのに、最終的にこんなに大きなプロジェクトになるなんて感慨深いよね。最初は世界観設定やシナリオからスタートしたんだよね。


そうですね。あとは簡単なコンテがあったくらいです。「何案かネタを出して」って言われて、そのうちの1つが通ったのがきっかけで正式にアサインされることになった気がします。

田口
たしかに、コンペをやっていたね。森さんから見て、この9年間はどうでしたか?


とにかく長かったなと。開発も3年を過ぎた頃からだんだんと“新規開発”という空気が薄れて落ち着いてきた印象で、その頃から第2部「集結の百禍編」のシナリオ制作に着手していたと思います。

田口
第1部「幸福の魔女編」は最初の2~3年で制作だったのか。


はい。リリースのタイミングで3章くらいを公開していて、おそらく丸1年で8~9章くらいまで進んでいたと思います。第1部完結が、f4samuraiが今の秋葉原オフィスに引っ越してきてから少し経った頃だった記憶がありますね。

田口
確かに引越しから1週間後くらいに1周年を迎えて、オフィスにあるステージで記念写真を撮ったよね。


今調べたら、最終章の公開は2019年3月みたいです。田口さんが『マギレコ』専任だったのもそのくらいまででしたよね?

田口
そうだね。第1部完結までがっつり開発に関わっていて、そのあとは別プロジェクトの開発に移りました。最後にしっかり関わったのが、最終決戦イベント「ラストマギア」だったかも。


ワルプルギスの夜を撃退する レイドバトルイベントですよね。

田口
そうそう。あと印象的だったのは、選択肢によって迎える結末が変わる分岐イベントの「そしてアザレアの花咲く」かな。


分岐イベントはそれ以降も同じような形式でイベントをやっていました。今考えるとなかなか重い開発だったかもしれないです。

田口
最初の分岐イベント開催はリリースから2ヵ月後くらいだったけど、リリース時には設計すらなかったよね。内容的にもだいぶ難しいのに、すごいスピードで開発していたんだなと思う。


メインストーリーのシナリオを書きながらって考えるとかなりスピーディですよね。『マギレコ』は監修も必要なので、その時間も取りつつよくやり切っていたなと感じます。クエストを進めてエリアミッション達成を目指す大型系のイベントもありましたよね。

田口
あったあった。こちらとしては当時のできる限りの力で、凝ったイベントを作ろうと必死だったけど、楽しんでもらえたのかな。


当時遊んでいたユーザーさんに、改めて聞いてみたいですね。その後同じセットでイベントをいくつも作って、『マギレコ』の定番ゲームシステムになった感じはありました。ただシナリオを読むだけじゃない、ゲーム的面白さも感じてもらえるものになっていてくれたら嬉しいですね。

全部で小説70巻分!
大ボリュームシナリオ誕生の裏側

田口
第1部が開発開始から3年半で、それ以降は第2部ということだよね。


そうなりますね。第2部は2022年に完結したので3年ほどやっていました。その後、5周年を迎えてはじまったのが「ピュエラ・ヒストリア」です。「ピュエラ・ヒストリア」完結後は、メインストーリー周りは一旦終えて……という感じだったので、私もシナリオの確認はするものの、自分で手を動かすことは少なくなりました。

田口
文字数でいうと、最終的にどれくらい書いたの?


全然わからないです(笑)。

田口
何百万文字とかいっているかな。2017年10月にシナリオライター向けのセミナーを開催したことがあって、そのときの資料を見ると、『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』が340万文字、『マギレコ』が45万文字。

……当時リリース3ヶ月で45万文字はいっていたということか。


だとしたら数百万文字は平気で行きそうな気もしますね。正確な数字はわからないのでファイルサイズから逆算してみましょうか。

……ざっくりですが、『マギレコ』全体で839万文字ですね。私が直接書いたのはイベントと魔法少女ストーリーなども含めて300万文字くらいでしょうか。

田口
全部で839万文字もあるんだ。小説の単行本で考えると何冊分くらい?


文庫本1冊で大体8万~12万文字なので……全部で70巻分くらいです。

田口
チームでとはいえ、小説70 巻分書いているって考えるとすごいよね。


ひとつの物語と考えると大作ですよね。70巻かかる物語ってそうそうないですから。

田口
しかもゲームでということも考慮すると、書いて、監修チェックをしてもらって、それをスクリプトに指定して……って工程も踏んでいるし。


確かにそうですね。月間連載の漫画でさえ半年に1冊のペースで刊行されるのに、『マギレコ』がもし本だったら1ヶ月未満で1冊出した計算になります。改めて振り返るとすごいボリュームですね。

田口
839万文字の中で、森さんが1番思い出深い話とかある?


どれも甲乙つけがたいと言いますか、その時その時で思い入れの種類が違うかもしれないです。第1部のときは、走り出したばかりなので勢いがあって、当然熱も乗っていました。じゃあ第2部は淡々と書いていたのかと言われたらそうではなく、一気にテーマが深くなったことでシナリオ制作の難易度も上がったので、そこをどう表現していくかという、ある意味自分との闘いのような熱があったと思います。なので、思い返せば最初から最後までずっと情熱を持ってシナリオを書けていたのではないかと思います。

田口
「ピュエラ・ヒストリア」はどうだった?


原作に出てきたような歴史上登場した魔法少女を描くという発想からスタートしたのですが、最終的に他の過去の時代の魔法少女を描くという全く新しい取り組みになったので、シナリオライターとしては新鮮さや面白さがありました。さすがに歴史考証までは1人ではできなかったので、みんなでシナリオを分担してできたこともよかったです。

田口
歴史を全部調べながら書くのは「ピュエラ・ヒストリア」ならではだよね。


そうですね。ライターひとり当たり、いつもの倍以上の工数を取って書いていたのですが、それでも本当は時間が足りなかったです。今は、とにかく「みんなよくがんばった!」という気持ちですね。

田口
「ピュエラ・ヒストリア」は評判もよかったよね。


シナリオライターとしては、1キャラクターで1つの話が完結されるというところで、盛り上がりを作りやすかったなとは思います。面白さも考えやすいので、そこは「ピュエラ・ヒストリア」の強みだなと。

田口
確かに1話ずつ完結していく形は、話ごとの盛り上がりを作りやすいよね。基本的にキャラクターを欠くのが難しいのがソーシャルゲームの特徴だから、その中でキャラクターが亡くなるという展開も選択肢に入れられるのは珍しいよね。


そうなんですよ。漫画や小説、ドラマとかだと登場人物が亡くなってしまうというのはストーリー展開として全然あることですが、ソーシャルゲームは基本的にそれができない。だから、どんな場面でも「でも、結局生き残るんでしょ?」というハラハラ感がないストーリーになりがちです。

そういった意味ではメインストーリーは苦労しましたね。ある程度展開の予想がつく中で、ドキドキ感や面白さを作らないといけないので。

田口
しかも続けば続くほど、どうしてもマンネリ化してしまうし……そこもメリハリがつくように工夫しながら続けないといけないというのもあるよね。


そうですね。定期的にキャラクターをリリースするだけではなくて、“どういう風にキャラクターを魅せていくか”というのも運営が続くほど課題になっていったように思います。なので、できるだけキャラクターの掘り下げをしようという方針だったのですが、キャラクターが多すぎて全くできなかった子もいます……。

田口
全部で何キャラクターくらいいる?


スピンオフのキャラクターも含めると、おそらく150以上ですね。キャラクターごとに応援してくださるユーザーさんがいたので、できるだけ書きたいと思いつつ、キャラクター数的に限界もあって……。そういう描き切れない部分やキャラクターに関しては、イベントでピックアップして掘り下げるよう努めていました。

『マギレコ』の場合、パッと新キャラクターが出てきて盛り上がるというよりも、メインストーリーで走っていたキャラクターや物語がイベントなどで掘り下げられて、カチッとはまると盛り上がる感覚があったので、そういう作り方は意識していました。

田口
伏線回収の気持ちよさみたいな感覚に近いのかな。


そうかもしれないです。メインストーリーも1章ごとに深い考察が出てきていたのは印象的でした。

遠くから見ても“面白い”とわかるものを作る

田口
森さんが特に反響が大きかったなって思ったシナリオはある?


第2部のラスボス・瀬奈みことのストーリーは反響が大きく、印象に残っています。お気づきのユーザーさんもいると思うのですが、元々みことはラスボスにする想定は全くないキャラクターでした。そこからラスボスとして立てていく掘り下げをして、イベントで魅せることができたときはすごく盛り上がって嬉しかったです。

シナリオの完成度も高かったと思いますし、メインストーリーを入り口にするという興味の持たせ方もよかったのかなと。

▲ 瀬奈みこと


あとはやっぱり、『魔法少女まどか☆マギカ』の原作キャラクターが登場したときは盛り上がりましたよね。「『マギレコ』ではどう描かれるんだろう?」という期待や興味にも繋がったと思います。

田口
1周年のときにアルティメットまどかが登場したときの反響もすごかったよね。0時に出たけど、深夜なのにどんどんアクセスが伸びて。

▲ アルティメットまどか


すごい勢いだったので、現場にいたメンバー全員驚いていました。App Storeのセールスランキング1位を取ったのもそのときでしたよね?

田口
そうだね、そのときの1位はすごく印象に残っているし、施策としてハマった感覚があって。あの頃はよくプランナーに「大道具をちゃんと作ろう」って言っていた時期だったな。当時のプランナー陣は細かいことに目が行きがちで、大枠を作ることがなかなかできなかった。「神は細部に宿る」という言葉があるくらいだから、それももちろん大事なんだけど「まずは遠くから見てわかる面白さを届けよう」っていうのは伝えていた。


ゲームが遊園地だとしたら、まだアトラクションが揃ってない状態みたいな。

田口
そうそう。そういう時に細かいところを直しても面白くなっていかない。遠くから見て面白いとわかるものは、今のユーザーだけじゃなくて、ユーザー外にも面白さが伝わっていく。だからそれを意識しようって。1周年のときは半年前くらいからずっとそれを言い続けていたから余計に印象に残っているのかもしれない。大御所お笑い芸人の舞台を例に出して「席が遠くて、細かい芸が見えなくてもあの人たちの舞台は面白いでしょ?そういうことだよ」って言ったら誰にも伝わらなくてポカンとされたけど(笑)。


(笑)。

「気持ちが入って泣くこともあった」
最後まで模索を続けたシナリオ

田口
開発中や運営中、つらいタイミングはあった?


このとき、という具体的な時期はないのですが……振り返るとずっとつらかったと言えばつらかったかもしれないです。つらいというより、楽ではなかったと言いますか。自分で書く物量もこなしつつ、チームメンバーの書いたものへのフィードバックをしたり、色んな関係者と疎通を図るチーム運用の動きも求められていたので。

ライターとして大変だったのは、最後のいろはのストーリーでしょうか。いろはがいなくなってしまうという想定は元々あったものの、イベントシナリオとの兼ね合いや原作の設定など配慮することが多く、ラストへ向けて版元さまとやり取りを重ねつつ、どう終わるのがベストかは、関係各所とだいぶ模索しました。

田口
その結果、最後の後日談に繋がっていくと。


はい。はっきり具体的なことを書くのは違うよなと思いつつ、いろはが旅立つということはユーザーさんもわかっていたことだったので、ストーリーとしても読み手としても納得のいく状態を目指しました。なので、「お願い!行かないで!」といった感情的なラストではないですね。

田口
ちょっと話が逸れるけど、森さんはシナリオ書くときに感情で書くタイプ?それとも結構淡々と書いているの?


プロットまでは淡々と書くことが多いですね。やっぱりロジックで考えてしまうので。でも本文を書きはじめると……めちゃくちゃ気持ちが入りますね。

田口
泣きながら書いたこともあった?


正直ありますね。淡々と書いているとは言いましたが、プロットも流れを考えながらシーンを想像するとその時点でグッとくることもありました。あとはやっぱり担当ライターから上がってきた最後のシナリオを読んだときは「『マギレコ』終わっちゃうんだな」という実感が急にわいて、別の意味でグッと来ましたね。

『マギレコ』サービス終了を迎えて

田口
7月31日に無事にサービス終了したわけだけど、まずはユーザーさんと、劇団イヌカレー(泥犬)先生、芳文社さま、アニプレックスさまに感謝の気持ちを伝えたいよね。


そうですね。改めて世界観設定をするところから、シナリオやキャラクターの監修までしていただいて本当にありがたかったです。バックグラウンドがわかっていないキャラクターの設定について質問をしたら中編小説くらいの資料を送っていただいたことがあって、そのおかげでイベント化できたシナリオもあります。『マギレコ』は現在開発中の『魔法少女まどか☆マギカ Magia Exedra』に繋がっていくので、今後、ユーザーさんにはそちらを楽しんでいただけたら嬉しいですね。

田口
『魔法少女まどか☆マギカ Magia Exedra』には森さんはどの程度関わっているの?


私はナマエや灯台劇場に関する設計やシナリオ面で携わっている部分がありますが、ディレクションやチーム運用はサポートとして関わっているぐらいです。ただ、元のシナリオチームには引き続きシナリオの制作に関わっている方がいらっしゃいます。

田口
じゃあ今の森さんのメイン業務はf4samuraiで開発中の新規プロジェクトのほうがメインなんだね。

僕もなんだけど、運営期間が長くて、新規開発の仕方を忘れてない?(笑)


『マギレコ』の運営を通して監修周りなどは自分も勉強になったなと感じる部分が多いので、新規開発ではその培った経験を活かすチャンスだと捉えて頑張っています!ただ、運営と新規の開発手法の違いは日々実感していますね。

田口
運営プロジェクトでは今のリソースを考慮する必要があったり、それまでの経緯や失敗をふまえたり、物事を判断するための要素がある程度ハッキリしているけど、何もないゼロの状態からチャレンジしていくのが新規だからね。


シナリオも、新規開発の場合は“面白さの軸”のようなものを作るところからスタートするので、運営中に書くシナリオとはやっぱり違いますね。今後書いていくための方向性を決める感覚に近いかもしれません。

田口
そうかもしれないね。チャレンジすることも間違えることも勇気のいることだけど、みんなで乗り越えていいゲームを作りたいね。


はい!『マギレコ』のようにまた多くのユーザーさんに楽しんでもらえるゲームになるよう、今後もがんばっていきます。



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