美味しさの秘訣は空腹だから
一番お気に入りの焼肉屋さんが、私の地元にある。
特に、ネギ塩タンと特上ロースが絶品で、
口に含むと喋るのが惜しくなる。
タンの方は心地良い弾力と柔らかさのバランスが絶妙で、爽やかだけど、とても滋味深い。
ロースは舌の上でとろけるような脂を活かして、タレとしっかり抱き合って、それでも全く重たくはなく、芳醇な香りを口いっぱいに残してゆく。
この前、久しぶりに訪れた時、私はとっても空腹だった。
お昼ご飯は軽めに冷たい肉うどん、おやつは食べていない、19時半。
周りで既に焼かれているお肉たちの香りに包まれつつ、私の胃は確実な美味しさに向けた準備を始めていた。
ジュゥッーと焼いて、
ふぅふぅいいながら、食べる幸せ。
食べたら不思議な程すぐ身体中に元気が漲る、牛骨のテールスープ、シャキシャキ野菜がたっぷりのビビンバに、薄焼きで軽い食感のクセになるチヂミなんかを挟み、最後に冷たいコシコシ冷麺で〆るのがいつもの流れ。
なのだけど、
この日はとにかくお腹がぺこぺこな上に、久しぶりで待望の焼肉。
つい欲を出して、〆に入る前に、冒頭のネギ塩タンと特上ロースを再オーダーしてしまった。
ジュゥッーと焼いて、
ジュゥッーと焼いて、、
あれ?ワクワク、していない。
そう、私の胃は、全くワクワクしていない。
目の前で熱を帯びて照らされていくお肉を
もう気だるく見つめている、私の胃。
食べてみる。
あれ程、絶妙だった繊細な美味しさはもう感じられず、いや「美味しい」のだけど、まずは口の中の脂っぽさを冷たいお水で洗い流したくなる。
美味しすぎる、もっと食べたい、
お代わりしたい、
それが美味しさの、
幸せの、ピーク。
お代わりして実際に「もっと」食べた時、お腹一杯になった時にはもうピークは過ぎ去っているのだ。
どんなに美味しいものでも、
お腹一杯の時には美味しく感じられない。
美味しさの秘訣は空腹だ。
そんな当たり前の事実を目の当たりにする
30代の、夏の終わり。
一口目の、
「っ!美味しいっ!!」を
もっともっと味わうこと。
「もっと食べたい!」
という幸せのピークを簡単には流さずに、
「今が一番幸せなんだ」としっかり認識すること。
幸せを見逃さない。
もっともっと、のその先じゃなく、
随分手前に存在してる幸せを。
はぁ。
とりあえず、美味しかった。
美味しい記憶を文字にして、幸せを振り返る秋の夜。
サポート頂けましたら、自分へのご褒美スイーツを買いたいです!そして次なるパワーに変えて、もっと良い文章を書きます(^-^)/