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カーゴ・カルトと宅配便

先日、たまたまタイムラインに現れたこの記事を読んだんです。

南太平洋のメラネシアにユダヤ起源説が存在しているという、一般人には不思議としか思えない話を軸にされた人類学的な論考記事です。長文でもあり、さすが人類学と言うべき重層的・輻輳的な内容なので、ここでサクッと解説することはかないませんが(もとより江草にそんな実力もないですし)、人類学ぽい話が好きな人には刺さるかと思います。

ともかくも、江草的にもとても面白かったです。

で、特に、この記事に出てくる「カーゴ・カルト(積荷信仰)」という現地の信仰がまた非常に印象深いんですね。

白人たちが航空機や船で運んできたカーゴ(積荷)として様々な工業製品を島に持ち込み始めた結果、なんと一部の島民達はそのカーゴを信仰するようになったと。カーゴを得るために様々な儀式をしたり、「実はもともと白人の祖先は我々であり、すなわちカーゴは本来我々のものなのだ」と主張したり。カーゴの恩恵を求める気持ちがあふれた独特な信仰です。

西洋的物質文明に染まりきった現代日本の私たちからすると「まさか積み荷(カーゴ)を信仰するなんて」とつい思ってしまうのですけれど、当人達の立場からすると、確かに海の向こうから色んな物品がドカンドカン届いてきたら圧倒されて、畏敬の目を注いでもおかしくないのかもしれないなと。

人類の複雑な表情が垣間見える、興味深いエピソードでした。


そんな風に素朴な感想を抱きつつ記事を読み終えて、それでこの記事のことは一旦すっかり忘れてしまっていたのですが、その後、日常生活をしている中で突然この記事につながる場面に出くわしたのです。

家に居るときにインターフォンが鳴りました。こないだ頼んだネットショッピングの宅配便でした。「はーい」と答えて受け取りに玄関先に向かう時、ちょうど一緒にリビングで遊んでいたところだった3歳の娘もうれしそうについてきたんですね。

玄関に向かう途上、ピョンピョン跳びはねながら娘が言うには、「たくはいびんで○○ちゃんがあそびにくるの!」と。(○○ちゃんは保育園で仲が良いお友達の名前です)

以前も宅配便が届いた時に「おもちゃかなあ!」と目を輝かせながら言ってたことはあって、それなら理解は可能なのですが、「宅配便で友達が遊びに来る」というのはどういうことだろうと一瞬首をかしげてしまったのです。

しかし、ここで先ほどの記事が頭に浮かんで、ハッとしたんですね。

これ、もしかして、一種のカーゴ・カルトなのでは?

と。

大人である親目線で見れば、そりゃ自分が注文したネット通販ですから、それで宅配便が届くことに何ら不思議はないですし、中身も把握しています。

一方で、幼い娘からしたら、そうではありません。突然不定期にインターフォンが鳴って宅配便が届いたら、自分の想像を超えた様々な物品がもたらされる。時には憧れのおもちゃが届くこともある(こないだ娘の誕生日に届いたので本人も覚えてるはず)。子どもからしたら宅配便はまことに不思議な存在でしかないはずです。

玄関の向こうのどこかの未知の世界から時折予告なく届く豊かな可能性。それが「たくはいびん」に詰まってるように娘には映っているのでしょう。

それでついに、宅配便がもたらす最上級の福音として、「たくはいびんなら友達も家に呼び込んでくれるのではないか」と期待し、願ったと。

つまり、娘が玄関の向こうからやってくる宅配便に対して抱く大きな期待と信頼。ここに海の向こうからやってくるカーゴ(積荷)に対して崇敬の念を抱くカーゴ・カルトと通底するものがあるように江草は感じたのです。

実際、娘は「このカーゴ(宅配便)の所有権は我にあり」と言わんばかりに、届いた荷物を全て我が物顔で開けにかかりますしね。

今回、残念ながら友達が遊びに来る宅配便ではありませんでしたが、娘的には中に入っていたカラフルストローに大喜びで、幸いご満足いただけたようです。


そんなわけで、先の記事と今回の宅配便のことの合わせ技で、普段自分たちが何気なく接している物も視点が変わると全然違って見えるかもしれないということに改めて気づかされた経験になりました。

ひょっとすると、これ、ネットショッピングを多用するようになった現代家庭ならではの光景かもしれませんね。

しかし、これだけ娘が楽しみにしてるなら、ちゃんと○○ちゃんと遊べる段取りをつけてあげなきゃなあとも思いました。こないだちょうど○○ちゃんのパパとLINE交換したから相談してみようかなあ。

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