認知症の病理学的背景と予防について【エブリ塾より】
皆さんこんにちは!エブリ塾の陽川です。
今回は「認知症の病理学的背景と予防」についてまとめていきたいと思います。この内容は9月14日にエブリ塾で開催しました、かきぎ認知症しあわせクリニックの柿木達也先生による講義を受講して学んだ内容をもとに構成しております。
今回の内容は、
・認知症についてもっと詳しく知りたい!
・認知症の分類って何がどう違うの?
・認知症の予防が大事と言うけど、何をすればいいの?
と感じていらっしゃる方にはぴったりの内容です!今回の講義では、認知症と診断された方の脳が病理学的にどう変化しているのか、また、認知症の予防のために何が重要なのかということについて解説していただいています。
今回の受講で学んだことを、ポイントを絞ってご紹介していきたいと思います!
* 尚、本記事はエブリ塾事務局が講演内容をもとに編集したものですので、必ずしも柿木先生のご意見ではないことをご理解ください。
認知症の病理学的変化
ここでは、代表的な認知症の病理学的変化について解説していただきました。疾患名を聞くと、特徴的な症状についてはご存知の方も多いと思います。今回は、それぞれの認知症についてもう一歩踏み込んだ内容について学ぶことができました。その内容についてご紹介します。
1.アルツハイマー型認知症
1)画像診断
アルツハイマー型認知症では、海馬・海馬傍回の萎縮を中心に、大脳皮質の萎縮や側脳室の拡大が特徴となります。
海馬傍回の萎縮を調べる検査として、近年ではMRI検査と並行して「VSRAD ( Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer's Disease ) 」という検査も行われるようになっています。「VSRAD」では海馬傍回のボリュームを数値化することができます。それにより、アルツハイマー型認知症の特徴である海馬の萎縮を早期に発見することができるようになりました。ただ、ここで注意が必要なのは、正常圧水頭症との鑑別です。正常圧水頭症も側脳室の拡大が画像所見として見られるため、全体的な脳の萎縮を見て判断をすることが重要となります。
2)病理学的変化
アルツハイマー型認知症では上記で示したような画像診断上の変化の他にも、脳実質自体に老人斑の出現と神経原線維変化という2つの病理学的変化が見られます。
老人斑では脳実質にアミロイドβ蛋白が蓄積されていきます。この老人斑の蓄積が進行すると、脳内の神経細胞が障害され、神経細胞が死滅していきます。この死滅した神経細胞のことを神経原線維変化と言います。神経が死滅することによって、脳実質の萎縮が起こります。つまり、アルツハイマー型認知症では、必ず老人斑の出現と神経原線維変化が見られるということです。
ここで注目すべき点は、アルツハイマー型認知症で見られる老人斑はアルツハイマー型認知症と診断される約20~30年前から少しずつ蓄積されるという点です。日常生活にはほとんど支障がないけれども、この老人斑の蓄積が始まり、少しずつ脳の萎縮が見られるようになった時期をプレクリニカルADと呼びます。ここから少しずつMCI、アルツハイマー型認知症へと進行していきます。
ここで重要なのは、プレクリニカルADが発見された時点で「予防」に取り組むことです。「予防」とは、「病気にならない」ではなく、「症状の出現を遅らせる」ということでした。ここで予防的な取り組みをすることでいかに病気の発現、進行を遅らせることができるかということがとても重要になります。
また、最近では、脳血管性認知症の原因として知られている、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病がアルツハイマー型認知症への変化を促進する原因としても注目を集めています。脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の予防的取り組みとして、生活習慣や生活習慣病への取り組みが重要となっています。
2.レビー小体型認知症
1)病理学的変化
レビー小体型認知症では、レビー小体という異常蛋白が脳内へ蓄積されていきます。レビー小体の主成分はα-シヌクレインという異常蛋白です。レビー小体はこのα-シヌクレインが集まって神経細胞を死滅させ、病気の発現へと進行していきます。ですが、このレビー小体が脳のどこに蓄積されるかによって病名が変わってきます。中脳黒質への蓄積では「パーキンソン病」と診断され、大脳皮質への蓄積で「レビー小体型認知症」と診断されます。この2つの病気はお互いに関連しており、どちらの場所に先に蓄積するかで発症の優先度が変わってきます。中脳への蓄積が優位なためにパーキンソン病の診断が先に出て、後にレビー小体型認知症へと移行することもありますし、その逆もまた然りです。また、同時に発症することもあります。
3.前頭側頭型認知症
1)病理学的変化
前頭側頭型認知症では、異常リン酸化タウのPick球というものが脳内に蓄積されていきます。異常リン酸化タウはタウ蛋白の一種で前頭側頭型認知症も異常蛋白の蓄積によって引き起こされる認知症ということです。
異常蛋白の蓄積による予防の考え方
これまでは認知症の病理学的変化について説明してきました。
ここでは、認知機能の推移と予防の為に必要なことについてまとめます。
認知機能は加齢とともに少しずつ低下が見られます。しかし、先に示したようなアミロイドβやαシヌクレイン、異常リン酸化タウなどの異常蛋白の蓄積による脳の変性は少しずつ進行し、MCIを経て認知症へと進行していきます。
認知症の予防で重要なポイントは、3つあります。
①進行を遅らせる
②早期に気づく
③進行を緩和する
この3つをポイントに予防に取り組む必要があります。
上記の図からも分かるように、どの認知症もMCIの時点での対応がその後の認知機能の推移を決定します。MCIの時期に脳血管性や廃用性によるMCIであれば、この時点で生活習慣病に対して改善するよう取り組めば、認知機能を正常な状態に保つことができます。また、変性性疾患においても、MCIの時期に生活習慣病の改善に取り組めば、認知症の進行を遅らせることができます。高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が少ないほど認知症の進行を遅らせることができると言われています。つまり、予防的対応においては生活習慣を見直す、もしくは、今ある生活習慣病に対してしっかりと対応を取っていくことが重要であると言えます。
また、WHOが認知症予防に関して2019年に初めてガイドラインを発表しました。その内容を以下に示します。
以上のことから、認知症の予防には、生活習慣による「脳のダメージを減らすこと」、身体活動や社会的交流によって「脳の予備力の向上」の2点を柱に取り組むことが非常に重要であると言えます。
講義の最後に、認知症予防の有名な話としてシスター・メアリーのお話を例に出されていました。認知症の神経学的変化があっても、日ごろからの取り組みによって認知機能を保つことができる、とてもよい例でした。
今回は、認知症における神経学的変化について細かくまとめていきました。予防の観点においては、早期発見・早期介入がスタンダードとなっていますが、具体的にまず何に取り組めばよいのか、ということも理解することができました。
実際の講義では、研究論文の紹介もしていただきながら、それぞれのセクションについてもう少し詳しく、深いところまで解説していただいています。もう少し詳しく知りたい!という方は、ぜひ実際の講義動画をご活用ください!
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