幻のニッチカルチャーハンティングをオンラインで、 変形菌の世界をインタビュー
ニッチなカルチャー「変形菌」について“菌女”にインタビュー。
「えっ、〇〇好きの人っているの?!」と、世の中には、多くのファンはいないけれど、少数が深くハマっているニッチで強烈な世界があります。そんなニッチカルチャーは、知られていないだけで、そこかしこ。いつもの毎日の景色をどこか面白いものに変えてくれるのにも、おすすめだったりもします。
今春、ニッチカルチャーを知るニッチカルチャーハンターたちが好きなことを好きなように話し、それを聞き合う集い「ニッチカルチャーハンティング」を開こうと、イベントラボ100では、アートイベントなどを企画運営するBIRTH VERSE BERTH(バースバースバース)と企画を進めていました。
しかし、新型コロナ禍の影響により、イベントは中止に。リベンジに向け、まずは疑似的なオンラインでのニッチカルチャーハンティングを行おうと、今回はインタビュー記事をお届けします。
お話を聞いたのは、「変形菌」にハマっている永池雅子さんです。
変形菌は見た目が面白い!
「変形菌」と言われても、形も分からない人がほとんどでは。
小むずかしい話は抜きに、まずは変形菌の本を紹介させてください。
見てほしいのは、この色味。この『美しい変形菌』(高野丈 著、パイインターナショナル)という本の表紙に使われているのは、ルリホコリという変形菌です。
自然界には稀な、輝くような瑠璃色。頭のボールの部分の大きさは1ミリ程度。手の込んだミニチュア細工を観るような、ちょっと不思議な世界があります。
一生で“形”を“変”えていく変形菌
このルリホコリは、あくまで数ある変形菌の一つにすぎません。しかも、ルリホコリの中でも子実体という形だとか。どういうことなのでしょうか。
話してくれたのは、変形菌を面白がる「菌活」グループの発起人的存在、永池雅子さんです。ちなみに、菌活を楽しむ女子を、「菌女(きんじょ)」とも言っているそうです。
「変形菌は、変容することで一生を終えます。アメーバ状だったり、そこから枝が伸びて分かれるみたいになって、それが乾いて実体化して……。ルリホコリもアメーバ状のときと、子実体になっているときとでは形が全然違います。『これがあのコなんだ?!』という感じ」
形だけでなく、成長に合わせて棲む場所も移り、生態自体を変えていくようです。
変形菌は粘菌とも言われます。キノコやバクテリアなどとは、菌という字は同じですが、違うものです。
なんとも、つかみどころのない変形菌。
けれど、つかみどころのないミステリアスさって、実は魅力になったりしませんか。人でも物事でも。
変形菌との出会いは本屋さん?
そもそも、永池さんが変形菌と出会ったのは、2019年のこと。
普段の仕事は、高齢者や医療施設利用者(患者)、一般の方などにアートセラピーを行っています。そのネタ探しに訪れた六本木の書店「文喫」でのこと。特集コーナーに、冒頭に挙げたような、変形菌の本が紹介されていたそうです。まずは見た目に惹かれた永池さん。
「小さいものなのに、とてもきらきらしている。一個一個違う生態や見た目をしている。ものすごい世界観だった。そこから、変形菌について調べていきました。創作意欲につながるように、患者さんにも説明できるようにしないといけませんから」
調べるのはなかなか骨が折れたそうです。
「不思議な生き物すぎて、結構本気で調べないと分からなかった。それで調べて分かっていくうちに……『これは面白いぞ!』と」
賢い?ものぐさ?「なんか真逆」。
目も口も脳もない単細胞生物、変形菌。形や棲む場所が変わっていくユニークさは前述のとおりですが、さらに生き方もユニーク。
「なんか真逆なんですよね」と永池さん。
「私たちは、何かを得たいと思って、得るための道具を作ってきましたよね。自分の“外側”を開発してきた。けれど、彼らは形そのものを変える。食べたいときは、手を出して食べるみたいな。その都度、食べやすい形状になってしまうんですよ。賢い気もするし。ものすごくものぐさな気もするし」
“ゆるさの師匠”的な存在。
ものぐさな例は他にも。
「変形菌は自分から大きくなっていこうとはしていません」
たいてい、生物は繁殖し広がっていくことに使命を帯びているとも言えます。それは会社や国などの社会的な集団も同じ。大きくなろうという目的は共通しているのではないでしょうか。
「変形菌はそうじゃない。大きくなっていこう、広がっていこうという気はない。棲む環境に違和感があれば、活動を止め、数年でも固まる。環境が改善すれば、また何事もなかったように動き出すとか。普段はそこまで動かないのに、やる気を出すと、急にいつもの5倍移動するとか。1cmが5cmくらいの動きですけれどね(笑)。ゆるさの師匠というか。頑張っちゃう現代人には見習うと楽になりそうな存在というか。そういうのも魅力かなと私は思っています」
「#変形菌week」を開催。
永池さんはこうした変形菌の魅力をまわりに「布教」していった結果、面白がる人たちが集まって、「菌活」というグループをつくって楽しんでいます。
「見た目だけじゃなくて、面白い生命体で好きっていうところはあるみたいですね。あとは、こういうシュールな世界を共有してみんなでワイワイできるのが楽しいという気持ちが根本にはあると思います」
2020年6月6日から16日までは、「#変形菌week」と銘打ち、オンラインのハッシュタグ展示会を行っていました。鑑賞は、Facebookで「#変形菌week」と検索してみてください。
この記事でも掲載しているアート作品は、「#変形菌week」の作品のごく一部。写真から、そのバリエーションの豊かさや、菌活のメンバーの皆さんが楽しんでいる様子を感じてもらえるのではないでしょうか。
また、永池さんは、8月21日から24日までADDress小田原邸1階スペースにて「ミクロワールドアート〜変形菌〜」と題した展示も行います。
アートのモチーフに向いているポイント。
さて、実際のところ、変形菌とアートとの相性はどうなのでしょうか?
「ミクロとマクロの融合は、個人的にアートに向いている感覚があります。自分が見たことがあるものならば、『それを描かなきゃいけない』と思いやすいじゃないですか。センシティブな真面目な人ほど。だけど見たことがないミクロな世界のものなら、無責任に自由に描ける。上手い下手も発生しません」
余白の多い世界観だからこそ、想像力が入りこむ余地が生まれて、新しいものができてくる。さらに、永池さんは話します。
「普段見てるはずだけど見えていない世界に、美しいものがあふれていることを知ると、喜びを感じるじゃないですか。細胞の中もそうですよね。セラピーの場合でも、そういう至る所に綺麗なものがあふれて、その綺麗な細胞を自分も持っているということが、生きる希望になったり、元気が出たりもします。そうした職業的な狙いも、一応ありましたね」
しなやかにゆるく形を変えながら、それでいてたくましい変形菌。ちょっと面白くて、ちょっと楽しい。興味本位でのぞくと、その小さな世界に学べるものは大きいでしょう。
菌活の在り方だって、多種多様であることは間違いない。興味を持った人は、今から「菌女」(菌男:きんだん?)を名乗ってしまうのも良いのかもしれませんね。 キンジョにあるキンダンの世界なんて、楽しいにちがいありませんから。
【ゆるく繋がるmachico】
作品は上記URLでも観られます。
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