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ショート小説 : 大人になるということ
『大人になるということ』 執筆:かおすけ
ある程度まで、日々は輝いていくものだと信じていたものだが、歳を重ねて思う。
日々はただ色褪せていくものであり、たまに蛍程度の光がふよふよと浮上し、それを何となくいい思い出として生きていくもんだ。
いいことなんてたまにありゃ最高、ほぼ平坦に生きていく最高さ、後残りまあまあある苦行。
煙草を口に咥えながら思う。
こいつを3〜4本ガムにして食っちまえば、この面倒くささから全て逃げられるのに。
若い頃は良かった。
明日カレーを食べるのが楽しみ、明日友達と遊ぶのが楽しみ。
毎日が些細な楽しみでキラキラ輝いていた。
今はどうだろう。
明日の会議を乗り切ったら好きなもんくらい食っていいだろうか、明日家に着いたらフカフカの布団で22時に寝てしまってもいいだろうか。
楽しみという楽しみが些細どころかささやかになっている…。
昔は楽しく見ていたテレビや映画も、今は長時間画面に張り付いてるのがしんどくて見たくない。
人にあらすじを聞いてしまえば満足してしまう。
家からとにかく出たくない。
飯を食うのも億劫。
腹が減ったらとりあえず少し腹を満たすために、もやしにドレッシングをかけて数口食べて放置。
腹がまた減ったら数口食べるの繰り返し。
自分に全く興味が出ない最近、異性に興味が出るはずもなく。
こんな自堕落な自分に異性が興味を持ってくれるわけもなく。
なんで生きているんだろうとは思わないけれど。
だって死にたいわけではないし。
多分、明日も煙草を吸って同じことを考える。
きっとこんな考えができるほど暇で、毎日が幸せなんだろう。
だからこんなふうに思うんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1731302346-ukSAnxEPGDwfImgChzNH7ZJ3.png?width=1200)
一口煙草をふかしてカプセルを噛み潰す。
少しずつ秋に向けて落ちてきた気温は、パーカー1枚羽織っただけの自分には少し堪える。
ベランダから見える公園に、相変わらず散歩中の犬連れの人々が見える。
動物でも飼ったらまたこの気持ちは潤うんだろうか。
まあ、軽い気持ちで命を迎え入れる気はないけれど。
ああ。本当に無気力だ。
何かしたいけれど何もしたくない。
布団でゆっくり時間を潰して終わりたい。
こんなんでいいのか。
けど、悪くはないのかもしれない。
だから日々が何事もなくまわっているのだろう。
通学路を歩く制服姿が輝かしいことこの上ない。
自分もそんな時を過ごして今があるわけだけれど。
あの頃は何をしていたかな。
気になる子くらいいただろうか。勉強を頑張っていただろうか。
先生が少し苦手だったかな。
友達と下校時に寄り道して笑い合っていたかもしれない。
あの頃は日々を普通に過ごしているだけで輝いていたなぁ。
…今の自分、輝いてないな。
輝かなければいけないわけじゃないし、こう思うってことはやっぱり日々に何か潤いが欲しいんだろう。
「…寿司でも食べに行くか。」
煙をふかしながら空に息を放る。
とりあえず今日は自分を甘やかしてみよう。
友達を誘ってみるのもいいかもしれない。
元気かな、あいつ。
この歳ではやはり、輝くより褪せていく日々が多い。
でもそれでも今はいいのかもしれない。
たまに少しのいい思い出があれば、日常を重ねていけるのかもしれない。
でも。
やっぱり若い頃は良かったよなぁって思うあたり、歳、とったなあ。
【END】
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・執筆 かおすけ さん
・挿画 KH さん
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