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国際:脱炭素と電力
1月24日(水)、国際エネルギー機関/IEAが、世界の電力需要の傾向と2026年までの将来予想をまとめた報告書「Electricity 2024」を公表。その概要をまとめてみた。
記事要約
家庭や産業などあらゆるセクターでのElectrification/電化が脱炭素のカギ。電力需要は年々増加、電力供給も低・ゼロ炭素電力が増え、発電時のCO2負荷も改善傾向。
欧州に関しては、エネルギー危機の電力価格高騰により、特にエネルギー集約産業での電力需要が大幅減、一時的に閉鎖した工場をそのまま永久封鎖&生産域外移転するケースが増えている。
電力代に関していえば、欧州平均電力価格はUSや中国の2倍どまり、欧州産業の競争力に関わる問題。
1. 世界の電力需給傾向
脱炭素にはあらゆる分野での電力化/Electrificationが必須。2030年までに少なくとも30%の最終エネルギー消費/Final Energy Consumptionを電力化しなければならない(2030年時点で20%)。そのためには堅調な電力需要の伸びに対し、再エネや原子力をベースとした低炭素電力を供給し、需給バランスを取る必要がある。
①電力需要/Demandの動き
家庭や商業・産業施設などあらゆる場面で必要とされる電力。社会のあらゆる部門で必要とされる電力量をまとめた電力需要に関する世界全体の動きをまとめたのが下記の図。世界全体で22年比で2.2%増、特に中国や東南アジアの電力需要が相変わらず旺盛な一方、欧州を含む先進国の電力需要は景気後退のため減少。ただ、26年に向かってどこの地域も電力需要が大きく拡大する予測になっている(IMFなどの経済予測からはじき出してるっぽい)。
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②電力供給/Supplyの動き
IEA再エネレポートの記事でも書いたが、中国を中心とした再エネ発電の伸びが著しく、今後もその傾向が続くとのこと。下記の図は、年々の発電量の変化を発電源ごとに比較しているが、ここ数年増加傾向の石炭起源の発電量が、来年から徐々に減少&天然ガス由来の発電に切り替わっていくと予測している。中国は近年減少傾向にあるため、インドや東南アジア次第。なお、発電量総量で見ると、減少傾向が続いているとはいえ、まだまだ化石燃料による発電が多い(2023年時点で60%以上)
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原発由来の電力は、福島原発事故以後大幅に減少したが、近年は原発回帰の兆候が明確(原発潮流のお話は別記事でも紹介済み)。
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③電力供給にかかるCO2負荷/Carbon intensityの兆候
再エネ&原発導入により、発電時に発生するCO2量は年々減少傾向(2017-19年平均-2%)にあり、今後その流れは加速するとのこと(23-26年で平均-4%予測)。特に欧州、US、中国での改善が顕著。

④電力卸売価格の動き
ウクライナ侵攻を発端としたエネルギー危機により2022年の電力価格がスパイクして以来、価格は下落傾向とは言え、よく見ると各国間でかなり差があり、全体的にCOVID以前の価格に戻っていないことがうかがえる。
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2. 欧州における電力事情
EUにおける電力需要はここ最近減少気味(2022年: -3.1%; 2023年: - 3.2%)。景気後退による産業部門での電力需要低下が大きい。ただ、IMFの経済見通しによると欧州経済は今後持ち返すと予測されており、IEAも欧州における電力需要も、自動車電動化、ヒートポンプ導入、データセンターの拡大などの要因により再び拡大すると予測している。

なお、減少するEU産業部門の電力需要だが、2022年には前年比-5.5%、2023年には-6%。高止まりする電力コスト、低迷する消費者需要、弱い外需、在庫高などが要因。特に、アルミニウムや鉄鋼、製紙、化学品などのエネルギー集約産業がヤバいらしい。2022年のエネルギー危機時に一時的にシャットダウンした工場をそのまま閉鎖するパターンが増えているとか。
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例えば、電力コストが生産コスト全体の40%を占めるアルミ産業。工場閉鎖による電力消費減少が顕著なのが下記の図からうかがえる。アルミ自体の需要は減らない(というか増える)ので、生産が域外に移っていることを示唆。
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主要要因が電力価格。欧州における電力平均価格は、中国やUSの2倍となっている。
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3. 思ったこと
非常に興味深いレポート。特に欧州の電力需要低下とその背景にある景気後退と産業の競争力低下は興味深い。
欧州でも高止まりするエネルギー価格は問題視されており、つい最近もユーロゾーン国の財務省たちの会議にて本件が議題に上がった。EU加盟国内でも各国のエネルギーミックスやロシアガスへの依存度によって、エネルギー価格変動の影響が異なるらしいが、概ね、産業支援するにしても資金繰りに苦労する中東欧諸国が特に苦しいとのこと。今後どのような対策が打てるか要ウォッチ。
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