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国際: 世銀の排出権取引制度・炭素税レポート2023をレビュー
2024年5月、世界銀行がState and Trends of Carbon Pricing 2023なる年次報告書を発行、世界全体の排出取引制度や炭素税の動向をまとめているところ、その概要をサクッと整理。
記事要約
国際的なエネルギー危機やインフレの影響により、多くの国々が、家庭&ビジネス向けのエネルギー価格への介入を実施。
世界全体でETS&炭素税制度は計73を数え、それにより世界全体のGHG排出の23%がカバー。
ETSや炭素税制度から回収された税の40%は、環境対策、10%は家庭やビジネス支援に使用
1. 背景情報
排出取引制度/Emission trading scheme(ETS)とは、国や企業ごとに年間の排出枠/権(キャップ、CO2換算)を定め、それら国や企業はその排出枠の中で経済活動を実施し、削減努力によって余った排出枠/権を売却したり、頑張ったけどどうしても足が出てしまった炭素排出を市場から購入する制度(トレード)を指す。
国連UNFCCC下で開催される締約国会議(COP)にて締結された京都議定書の第17条に規定された京都メカニズムの一つでもある。
※COP詳細は以下。
また、国を超えた地域レベルで運用される排出取引制度として有名なものとしてEU-ETSがある。
※EU-ETS概要は以下。
一方、炭素税/Carbon taxは、環境破壊や資源の枯渇に対処する取り組みを促す環境税の一種。石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じて税金をかけて、化石燃料やそれを利用した製品の製造・使用の価格を引き上げることで需要を抑制し、結果としてCO2排出量を抑えるという経済的な政策手段。
2. 報告書概要
報告書へのアクセスはこちらから。
国際的なエネルギー危機やインフレの影響により、多くの国々が、家庭&ビジネス向けのエネルギー価格への介入(例:エネルギー税や化石燃料への補助金、価格コントロール、直接的な資金援助など)を実施。結果多くの国の債務が勢いよく増えている。
一方、エネルギー危機にもかかわらず、ETSや炭素税の導入を遅らせたり、介入したりする国は少く、炭素価格も比較的安定。
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(出典:報告書、p. 16)
炭素価格に影響を与える要因を短期的要因(例:ガス価格変動、インフレ、エネルギー補助など)、中期的要因(例:サプライチェーンの阻害による再エネ普及の鈍化、経済活動の鈍化)、長期的要因(例:構造的な変化、経済成長、気候変動対策)なものとして、価格押上げ要因と価格押し下げ要因に整理したものが以下の図。
![](https://assets.st-note.com/img/1713796999005-epSO3TyRB5.png?width=1200)
(出典:報告書, p. 19)
炭素価格を各国別に並べたものが以下。欧州ではリヒテンシュタインやスイス、スウェーデンの炭素税がトップ、その後にEU-ETS下で取引される排出権、さらにUK ETS、フィンランド、オランダと続く。結局高額な炭素価格となっているのは主に欧州諸国とカナダ。
![](https://assets.st-note.com/img/1713797264296-CdEuz7bPTd.png?width=1200)
(出典:報告書, p. 21)
この炭素価格を世界全体で俯瞰したのが以下。炭素価格は欧州がダントツで高いが、ETS&炭素税でカバーされるGHG排出量となると、アジアがトップ。
![](https://assets.st-note.com/img/1713797590358-h5sfIBCyZr.png?width=1200)
(出典:報告書, p. 30)
結果、世界全体でETS&炭素税制度は計73を数え、それにより世界全体のGHG排出の23%がカバーされている(特に高所得国/先進国に集中だが、新興国でも増加中)。それに応じて、ETSや炭素税制度からの国家収入は大きく増加。特にETSからの国家収入は、2017年以降7倍。
![](https://assets.st-note.com/img/1713797417904-f4pCtRuqo0.png?width=1200)
(出典:報告書, p. 26)
回収された税の40%は、環境対策、10%は家庭やビジネス支援に使用されている。
![](https://assets.st-note.com/img/1713797513114-H7cl0xJM2w.png?width=1200)
(出典、報告書, p. 28)
ほか、Carbon creditとかは割愛
3. コメント
非常に興味深いレポート。国際機関は各国から豊富なデータを回収できるのが強み。
色んな経済学者も主張する炭素税。ただ、数か国だけがやってても効果は限定的(国にもよるが)なので、国際炭素税なるものができるとベストなのだろうが、それは国際気候変動交渉を見ればわかる通り、かなり実現性は低そう。
やはりEUをはじめとした先進国が先行して厳しい規制を導入していき、新興国とかも巻き込んでいくという従来的なやり方しかないのだろうが、欧州含め先進国のビジネスや家庭に脱炭素疲れが見られる中、今後どうなっていくのか要注視。
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