国際: どうやって石炭から脱却するか
2024年3月国際エネルギー機関/IEA(於:パリ)が、石炭からの排出を抑制するための戦略や道筋を示した報告書Accelerating Just Transitions for the Coal Sectorを公表、その概要を整理した。
記事要約
植物起源の化石エネルギー資源である石炭、その濃集度合いに応じ、褐炭/Lignite、瀝青炭/bituminous coal、無煙炭/Anthraciteに分類、主に発電用や産業用(セメントや鉄鋼など)に使用。
石炭の世界的な需要は過去10年で高止まりしているのが現状、結果依然として、世界全体の総エネルギー供給の1/4(石油に次いで2番目に多い)
石炭火力の早期フェーズダウン・アウトが世界的に焦点となっており、欧州ではエネルギー価格が落ち着きを取り戻したこともあり、再び石炭火力発電所の閉鎖へのモメンタムが生まれつつある
1. 石炭と脱炭素の関係
気候変動の要因となっている温室効果ガス/Green house gases (GHG)排出。言わずもがなだが、石炭利用による排出は特に問題視されている。石油や石炭に比べ、GHG排出はバカでかい。
そもそも石炭は、大昔(数千万年前~数億年前)に植物が湖や沼の底に積み重なったものが、地中の熱や圧力の影響を受け、炭素が濃集してできた化石エネルギー資源で、昔は黒いダイヤモンドと呼ばれていた。
炭素の濃集度合いで、3つに分類。また、用途によっても一般炭(発電用や、ボイラー燃料、セメント精製などに使用される石炭)と原料炭(鉄鋼精製に使用されるコークスの原料となる石炭)に分類。
褐炭/Lignite or brown coal:水分や不純物を多く含む低品質石炭。
瀝青炭(れきせいたん)/bituminous coal:燃料や原料として使われ、石炭というと、瀝青炭を指す。
無煙炭/Anthracite, hard coal or black coal:最も炭素分が多く、発熱量も高い石炭。表面はキラキラと輝き、煙をほとんど出さずに燃焼。
石炭の原産地は、アメリカ、ロシア、中国、インド、オーストラリア、ヨーロッパ(ドイツ、ウクライナ、カザフスタン)など、世界各地に広く分布。石炭の確認可採埋蔵量はおよそ8,900億トンで、現在の生産量のペースでも100年以上採掘可能。
2. IEA石炭報告書の概要
2.1 世界の石炭利用の現状
石炭の世界的な需要は過去10年で高止まりしているのが現状、結果依然として、世界全体の総エネルギー供給の1/4(石油に次いで2番目に多い)を占めている。
その世界的な石炭需要の58%は中国で、特に発電部門で多く使用(中国では、総エネルギー供給&発電部門における石炭のシェアは60%)。続いてインド、世界の石炭需要の12%、中国と同様発電部門でその多くが使われる。つまり、中国とインドが世界の石炭需要の2/3を占めるのが現状。
先進国における石炭起源の排出量は2010年以降で-40%(火力発電所の閉鎖&排出対策&ロード調整)となっているが、中国やインド、その他新興国や発展途上国での発電部門における石炭需要がいまだに旺盛で、全体として石炭需要は増加傾向(世界の発電における石炭シェアは36%で増加傾向)。それがわかるのが下記の図。
電力部門における石炭シェアが大きい国を並べたのが以下。多くの国が何らかのアクションを約束している。
2.2 今後の予測 by IEA
今後の石炭需要について、IEAは3つのシナリオを出している。①STEPS: the Stated Policies Scenario(各国政府がアナウンスした政策を着実に実施した場合)、②APS:the Announced Pledges Scenario(各国政府がコミットした取組を実施した場合)、③NZE: ネットゼロシナリオ。どのシナリオにおいても、石炭需要は中国含め早期にピークアウトすると読んでいる。あとはその度合いだが、再エネ含めクリーンエネルギーに普及によりどれだけ石炭火力の利用を早期にフェーズダウンしていくか次第。
石炭需要の低下に伴い、当然石炭生産もフェーズダウンしていく。石炭生産の多いアジア・パシフィック地域含め、2020年中盤にはピークアウトするというのが下記の図(APSシナリオ)。
石炭需給のピークアウトに伴い、当然排出もピークアウトしていくだろう、という図が下記。
今後、石炭利用から代替手段へとシフトしていくためには、①政策や規制、②Financialインセンティブ(例:排出対策を施すための金銭的援助など)、③市場原理を利用した施策(例:炭素税、石炭火力の稼働を減らすための補償制度など)などを使って、既存石炭火力の改修&排出対策or early retirement、新築火力の減少などを進めていく必要あり。
他割愛。
3. コメント
COP28での決定(削減対策のとられていない (unabated) 石炭火力発電所削減の取組み強化など)もあり、石炭火力の早期フェーズダウン・アウトが世界的に焦点となっており、欧州ではエネルギー価格が落ち着きを取り戻したこともあり、再び石炭火力発電所の閉鎖へのモメンタムが生まれつつある。そんな中、石炭火力を推す日本政府はどのように立ち振る舞っていくのか要注視。
※石炭火力の閉鎖を一時延期していたドイツも、3月末での閉鎖に踏み切った。
※COP28会合の概要はこちらから
後思ったのが、IEAによる現状の分析はさすがの一言。色々と参考になる。一方将来予測になると、すごくポリティカルになってくる。石炭需要が早期にピークアウトし、そのまま急下降していくとか、もう希望的観測というか、もう夢物語に聞こえてしまうなあ、というのが正直な所。
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