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欧州: EU CBAMの実務上の問題

EUが域内での脱炭素施策を強める中、カーボンリーケージ対策として導入された炭素国境調整メカニズム(CBAM)、その報告義務が2023年10月にスタートしたが、実務上の様々な問題が指摘されているので、それを整理。

記事要約

  • 対象製品を欧州域内に輸入する企業/輸入者やその通関代理人CBAM遵守の義務を負うCBAM。

  • シュトゥットガルト商工会議所がCBAM導入により影響を受けた輸入業者にアンケートを実施したところ、そもそも情報共有・周知がしっかりされていない、EUポータルが機能しないなどの問題が浮上。

  • 毎度のことだが、結局迷惑をこうむるのはビジネス側。




1. CBAMとは

対象製品を欧州域内に輸入する企業/輸入者やその通関代理人CBAM遵守の義務を負うが、その対象製品や各種義務は下記を参照。

2. 実務上の問題

JETROさんもまとめているシュトゥットガルト商工会議所の記事が元ネタで、CBAM導入により影響を受けた輸入業者を対象にアンケートを実施したところ、各種問題が浮き上がった形。

第一にCBAM導入に当たってドイツやEU政府からの十分な周知や情報共有がなされなかったとのこと。十分な情報共有があったとする調査対象輸入業者は全体の3%にとどまり、多くの業者が不満を抱いているとのこと。

第二に、ドイツでは現状EUポータルにアクセスするシステムを確立できていない。そのため、ドイツ排出量取引局(DEHSt)は、暫定的に、ドイツのオンライン納税システム/ELSTERの証明書/Certificateを使用して、ドイツ税関のポータルサイトにアクセスする方策を取っている。しかし、63%の調査対象企業は税関ポータルにアカウントを持っておらず、新たに登録しなければならなかったが、その登録手続きすら非常に煩雑だったとのこと。

第三にEUポータル自体、エラーが多発してまともに入力できない上、多言語対応していないとのこと。結果、1月末時点で多くの企業が報告書を提出できずにいるとのこと。

第四に、中小企業への負荷が大きいこと。鉄ねじなどの製品を150EUR相当以上輸入しただけで義務を課されるため、輸入自体を見合わせる企業やケースも出てきたとのこと。

第五に、これらの問題は始まりに過ぎないこと。というのもCBAM義務が本格化するのはこれからだから。域外で生産された製品の排出は今のところ、既存の定数/Standard valuesを使っているが、2024年6月からは実データによる算定が求められるが、無論、域内企業ですら情報が少ないと言っているので、サプライチェーン上の域外企業/suppliersにとっては何が何だわからない、というのが実情とのこと。

ということでシュトゥットガルト商工会議所は、①EUポータルの早急の改善、②CBAM対象輸入業者を年間取引が150EUR以上から5000EUR以上の企業のみにすべき、③域外企業が協力してくれない場合にどうするかの代替案、を勧告。

3. コメント

まあ、この手の大きな法規は必ずその実施運用が問題になるのは仕方ない。問題は、実施運用するための準備期間をしっかりと盛り込まなかったEUポリシーメーカーたちにある。毎度のことだが、結局迷惑をこうむるのはビジネス側だ。

こういうことが積み重なっていくと、反EU、反脱炭素といった動きにつながっていくのだろうなと思わされる記事だった。


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