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【映画感想】ウエスト・サイド・ストーリー

「スピルバーグヤバイな…」というのが最初の感想でした。1961年公開の傑作ミュージカルを天才スティーブン・スピルバーグがリメイクした『ウエスト・サイド・ストーリー』の感想です。

ちょっとトピックが多過ぎて何から書いて良いのか分かりませんが、まず、『ウエスト・サイド・ストーリー』という名前くらいは誰でも知ってるミュージカルがあるわけです。当時のアカデミー賞を10部門も獲得する程の傑作で、もう知られ過ぎていて観たことないのに内容を知ってる気になるくらいの古典で、古典過ぎてわざわざ改めて観ないという。ただですね、観るとかなり革新的というか、たぶん、その時代にカウンター的に出て来た作品だったと思うんですよ。内容自体もアウトローな若者の話だし。だから、その時代にリアルタイムで観てしまった人にとっては強烈な体験となってしまっている(ある種の時代の熱みたいなものを取り込んでしまってる)映画だと思うんです。つまり、もともとはジャンル映画的というかカルト映画的な作品だったのが、時を経て雛型になり王道になったみたいなことだと思うんですね。で、そういう誰も手を出さなかった傑作に今回手を出したのがスティーブン・スピルバーグだってことなんですよね。もうひとつのトピックとして。

スピルバーグと言えば、もはや誰もが認める天才監督(個人的に80年代ハリウッド映画直撃世代なので今だに天才と言えばスピルバーグとキューブリックなんです。)だと思うんですけど、そもそもスピルバーグって人がジャンル映画の凄い人なんですよ。例えば、デビュー作の『激突』はワンシチュエーションのサスペンス・カー・アクションだし(2と言いながら全然違う『激突2』は犯罪ロードムービーですしね。)、最初に注目された『ジョーズ』は海洋サスペンス・ホラー(今となっては"サメ映画"というジャンルのハシリでもありますよね。)だし、『未知との遭遇』はサブカルチャーとSFのマッシュアップだし、それをジュブナイル化したのが『E.T.』だし、そこにメタバースの概念をブチ込んだのが『レディ・プレイヤー・ワン』だし。たぶん、スピルバーグ自身が映画から得た感動とか違和感を濃縮することで新たなジャンルを創作してしまっているんだと思うんですけど(例えば『プライベート・ライアン』だったら戦争映画の戦闘シーンに受けた衝撃を濃縮して"戦争サイコ・ホラー・アクション"にしてるし、『ジュラシック・パーク』もかつて観た恐竜映画で自分が受けた「恐竜ってほんとにいたんだ。」っていう衝撃を徹底的に映像化することでCGによるSFX映画っていう新たなジャンルを確率してると思うんです。)、それがその後スピルバーグが撮ったことによって王道になってしまうというのがあるわけで。まず、この成り立ち方に近いものがあるなと思ったんです。

で、一方、ちょっとこの手の娯楽作品とは違う色合いのがあるじゃないですか、社会派というか。『カラーパープル』とか『シンドラーのリスト』とか『リンカーン』とか『ミュンヘン』とか。スピルバーグ自身がユダヤ系の出自を持つのでこの手の人種問題についてはかなり早くからテーマにしていて、戦争を描く時もここからの視点で描かれたものが多いですし。僕がユダヤという言葉とその意味を子供の頃から知っていたのは完全にスピルバーグのおかげなんですが。で、こっちの感じも今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』にはだいぶ入っていて、というより、スピルバーグがリメイクすることによって、もともとはラブストーリーを語る上での設定としてくらいのバランスで入れていた差別とか格差とか社会的な問題が浮き出てくる作りになっているんですね。で、それはもともとオリジナルにありながら当時の娯楽作品としてはメインで語られることはなかった要素なわけで。これもやっぱりスピルバーグが『ウエスト・サイド・ストーリー』を観た時に自分ごととして受けた衝撃としてのバランスというか。だから、スピルバーグの映画のうまさってこういう風に自分が受けた衝撃を人に伝える時の繊細さというか、それを画として再構築することのうまさだと思うんですよ。

なので、そういう社会派の作品も娯楽作品もアクション映画に集約されていくのがスピルバーグの凄さなんですけど。キャラクターの立ち位置や距離感、そのキャラクター同士がどう動くか、それを追うカメラワーク(つまりアクションです。)みたいなことでストーリーを展開させていくんですよね(で、これを普通の監督がやっちゃうと単なるカッコつけの意味不明な長回しになったりするのでこの辺がスピルバーグの天才たるゆえんだと思うんですよ。)。しかも、それがスピルバーグ映画の一番の生理的な気持ち良さになっているという(ここが一番凄いところですね。)。で、そういうスピルバーグ的うまさを堪能するには最高の作品だったのが(ストーリーは誰もが知っていて、身体的表現とカメラワークで見せることが出来る)『ウエスト・サイド・ストーリー』だったってことだと思うんです(とはいえ、それをストーリーもテーマも思想も変えずにこれだけ現代的な映画にしてるのはほんと凄いと思うんですよ。)。

オープニングのスラムの街を長回しで映すところ、なんかで観た感じするなと思っていたら『レディ・プレイヤー・ワン』のオープニングでした。スピルバーグ映画の影響の一旦みたいなものを感じてとても良かったです。


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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ
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