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日本語教員試験2024体験記(「日本語教師による英文法用語研究その5」編)
この記事は、「日本語教員試験体験記」の第31回です。
前回までの記事は、noteのマガジンにまとめていますので、合わせてお楽しみ下さい。
学校英語「エキサイト」問題
今回は、英語の動詞「excite」から話をはじめたいと思います。中学1年、2年と、なんとか学校の英語の授業についていき、なんとかやっていけそうと思っていても、そこに立ちはだかる壁がこの「exite」という動詞なのです。
私が中学生のころサッカーJリーグが開幕しまして、まさにサッカー全盛期。テレビをつければサッカーの試合中継や、サッカー関係の番組ばかりです。「◯◯選手がエキサイトしました!!」みたいな実況を多く耳にしました。また、スーパーファミコンのゲームで「エキサイト・ステージ」というものがありました。めちゃくちゃハマってやり込んだのを覚えています。
excite、エキサイト、を直感的に日本語にすると、「興奮する」と言いたくなりますが、これが大問題になります。動詞としては「を興奮させる」という意味がスタート地点なので、過去分詞形で受け身を作って、「興奮させられた=興奮した」という展開が必要です。具体的にやってみましょう。
✕ I was exciting.
✕ 私は興奮した。
This game excites me.
①このゲームは私を興奮させる。
This game is exciting.
このゲームは<興奮させるような状態>だ。
→このゲームは「面白い」。
I am excited.
②私は<興奮させられた状態>だ。
→ ③私は「興奮している」。
このように、exciteという動詞は、「を興奮させる」という他動詞です。他動詞とは、「を」の目的語を取る動詞です。「を」の目的語を取らないものを、自動詞と言います。厳密にはいろいろありますが、「を」の有無で他動詞と自動詞を識別していけば、中学生の段階では問題ないでしょう。
①興奮させる → ②興奮させられる → ③興奮する
①は、「〜させる」という「使役」表現の世界です。②で、「使役」と「受け身」が結びついています。③では、②の「使役」と「受け身」を融合して解釈し直して、もともとの「興奮させられた」側の目的語が主語に入れ代わりました。
「使役」、「受け身」、「使役受身」の世界は「態(ヴォイス)」と呼ばれます。する人、される人、させられる人が、「誰かの声(Voice)」で入れ替わるからこういうのでしょうか。態には能動態、受動態などがあって、中高生を悩ませるものです。
一般的には、「be動詞+過去分詞形」 → 受け身文 として覚えるでしょう。「する」は「される」に、「叱る」は「叱られる」、「呼ぶ」は「呼ばれる」といった具合です。exciteの例で言えば、元の意味が「を興奮させる」ですから、be excitedは「興奮させられる」ということになりますね。そして、「興奮させられた」ということは、結局は「興奮した」ということですから、I am excited.は、「私は興奮している」という訳になります。ここまで、大丈夫でしょうか。amは現在形なので、「興奮した」と書くと、過去形や完了形を想起してしまいます。あくまで現在形(る形)なので、解釈上は過去や完了を挟まないように注意したいです。
どうして、英語には「〜させる」系の動詞が多いのでしょうか。ちょっと考えただけども、excite「興奮させる」、move「感動させる」、surprise「驚かせる」というように、いかにも試験に出そうなものがたくさんあります。語尾を「ed」や「ing」にすると「分詞形」として、動詞を形容詞的に使うことができますが、これがbe動詞と結びつくことで、受身形や進行形を作れるのでした。しかし、ここでの態(ヴォイス)の変換が紛らわしいんですね。「〜させる」から解釈が出発するので、「〜させられる=〜する」まで持っていく必要があるので、大変です。
「興奮させる」という日本語を分解すると、「興奮する」という自動詞に対して、「させる」という使役の助動詞を付け足してます。結果的に、使役の表現により他動詞的な使われ方になっていますね。ここが、今回の一番の肝です。ざっくり言うと「日本語には自動詞が多い。対して、英語には他動詞が多い。」ということです。私の感覚で申していますので、アカデミックな価値はありません。「多い」と表現したのも、多少の逃げ道を考えて、全てそうとは言い切れないという逃げでもあることはお許しください。しかし、私の感覚としては、「英語は他動詞が多い」どころか、「英語はそもそも全てが他動詞出発である」と考えていいのではないかと思ってます。
「英語はそもそも全てが他動詞出発である」というのは、確かに乱暴な命題です。しかし、キリスト教的な一神教の宗教観を背景に考えれば、すべては全知全能の神の御業ということで、勝手に「興奮する」というようなことはなく、文中で神のような存在の「主語」が、「目的語(対象)」を、「興奮させる」と考えるのかもしれません。これに対して日本は多神教で、自然を崇拝するような宗教観です。「自発」表現というものが日本語にはありますが、自然に「興奮する」ことが可能で、「興奮させる」には、やはり意図的に「させる」という助動詞をつけなければならないのは、「日本語は自動詞出発である」という考えにも繋がります。
ここで、runという動詞を考えてみましょう。「走る」という「自動詞」と読めます。
【A】
He runs fast.
彼は速く走る。
しかし、英和辞書でrunの項目をずーっと下に追って行くと「自動詞」だけじゃなくて「他動詞」も登場します。
【B】
He runs a sumall business.
彼は小さな会社を経営している。
runが「を経営する」という言葉になるのは、TOEICなどのビジネスシーンでの英語では定番の知識です。「を」が見えますので、「他動詞」ということになります。
結局のところ「自動詞」か、「他動詞」かは、形式的にみて感覚で捉えるしかないように思えます。全ての動詞について、辞書を隅から隅まで把握しておくことは不可能ですよね。文や発話を見て、この場合はrunを「自動詞」で使っている、またこの場合では「他動詞」で使っているというように、結果論で分析するくらいしか学習者にはできません。
ここで、runを思い切って「他動詞のみ」と考えます。すると、【B】の文はいいのですが、【A】の文はどう処理すればいいのかということになります。唐突ですがここで大きく脱線して、スペイン語の話に突入します。
スペイン語の「〜は〜という名前である」という動詞に見る、「主語自身」
不定形(原形)が、llamarseという動詞がスペイン語にはあります。意味は、「〜は〜という名前である」ことを意味する動詞です。llamarの部分が、英語のcallに該当します。「〜を〜と呼ぶ」という他動詞です。seは、再帰代名詞といって、主語に合わせて変化し、主語自身を目的語とするものです。いきなりこんなことをいっても分かりづらいので、活用をやってみましょう。説明を簡単にするために、単数形のみ書き出します。
1人称単数(私は)
Yo me llamo Tom.
- Yo(私は)
- me(私を) se → me に変化
- llamo (私は 呼ぶ)
- Tom (トムと)
→ 私は、私を、トムと呼ぶ。
→ 私はトムという名前です。
→ 私はトムです。
2人称単数(キミは)
Tú te llamas Tom.
- Tú (キミは)
- te (キミを) se → te に変化
- llamas (キミは 呼ぶ)
- Tom (トムと)
→ キミは、キミを、トムと呼ぶ。
→ キミはトムという名前です。
→ キミはトムです。
3人称単数(彼は)
Él se llama Tom.
- Él (彼は)
- se (彼を) se → seのまま
- llama (彼は 呼ぶ)
- Tom (トムと)
→ 彼は、彼を、トムと呼ぶ。
→ 彼はトムという名前です。
→ 彼はトムです。
llamarse、「(主語)は(自身)を(〜と呼ぶ)」という動詞を書き出してみたら、とんでもないことになってしまいました。スペイン語に馴染み方にはかえって分かりづらいですね。肝として、英語のcall(呼ぶ)と同じような動詞の目的語が、主語自身に矢印が帰ってくるような構造になっていることを示したかったものです。「自分を目的語として帰って来る動詞」ということで、このようなタイプの動詞を「再帰動詞」と呼び、主語自身に帰って来るように見える部分の代名詞を「再帰代名詞」と呼ぶのです。
(Yo) (me) (llamo) (Tom).
これを、英語で置き換えてみましょう。
(I) (myself) (call) (Tom).
私は、私自身を、呼ぶ、トムと。
語順がおかしいので、英語の正しい語順にすると、
I call myself Tom.
となります。
ここまでほぐすと、スペイン語の文がどういう構造であったかをおわかりいただけたのではないでしょうか。myself、yourself、に当たるところが再帰代名詞の部分ですね。「自分が、自分自身を、トムと呼ぶ」から、「私はトムです」となることが、整理できました。
スペイン語を学んでいくと、このような「再帰動詞」がとにかく出てきます。活用を覚えるのが大変ですが、規則的ではあるので、練習すれば覚えることはできます。文型を覚えれば、すぐに会話で使えるようになるところが、スペイン語の面白いところです。私は、スペイン語の動詞に触れていくうちに、se(〜self)の部分から、「英語の自動詞は、実は『自分自身』が目的語なのではないだろうか」という仮説にたどり着いたのです。
runの文に戻ります。He runs fast.は、私は「走る」という自動詞なのですが、「もともと全部他動詞仮説」に基づいて、runが「走らせる」と考えると、
(He) (myself) (runs) (fast).
(彼は) (彼自身を) (走らせる) (速く)。 という他動詞的な形式から、
→ 彼は速く走る。 という自動詞的な解釈が導けます。
いかがでしょうか。runが「〜を経営する」というパターンは、当然「他動詞」ですから、何も考える必要はありません。「もともと全部他動詞仮説」から出発して、
「目的語(を)」らしきものがない
→主語自身が目的語(再帰代名詞的なものが省略、埋め込まれている
→日本語訳において「自動詞」として解釈、訳出することができる
ということです。
学習者は試験中に困ったとき、ストラテジーとして無理矢理「こうなっているのではないか?」と法則の存在を推測します。先行研究があるかもしれませんが、私なりに「もともと全部他動詞説」を考え出しました。間違っているかもしれないが、「他動詞」と「自動詞」を納得するためのものです。
exciteに戻りましょう。「興奮する」と自動詞的な訳をあてたくなるのですが、「もともと全部他動詞説」に基づいて、「を興奮させる」と考えることに慣れるようにします。すると、最初に考えた文をすっきり解釈できます。
This game is exciting.
→ このゲームは、(人々を)興奮させるような状態(形容詞、現在分詞形)だ。
→ このゲームは、面白い(エキサイティングだ)。
I am exited.
→ 私は、興奮させられた状態(形容詞、過去分詞形)だ。
→ 私は、興奮している。
態(ヴォイス)の問題と、「他動詞」の感覚から、excite問題を解決しました。これらの例文に、「オブジェクト指向」を加味してもう少し整理します。文法用語について考えるための「オブジェクト指向」については、以前の記事をご覧ください。文法用語の世界で主語はサブジェクト(subject)、目的語(object)はオブジェクトと言いますが、これから使う「オブジェクト」は、プログラミングの用語であって、「モノ」と読み替えてください。
This game is exciting.
この文で捉えられるオブジェクトは「This game」です。「このゲーム」というオブジェクトがあって、その性質(プロパティ)が、「exciting」という状態です。「This game」という名詞を、「excitng」という形容詞(現在分詞形)で、修飾(限定又は説明)しています。「このゲーム」は、「excite」の意味上の主語となっています。
I am excited.
この文で捉えられるオブジェクトは、「I」です。「私」というオブジェクトがあって、「私」を「excite(興奮させる)というように操作(メソッド)しています。非常に分かりづらいですが、「私は」、(何かが)「私を」「興奮させた状態」であると解釈できます。「私」が、「excite」の意味上の目的語になっています。
(図)
これらの検証により、「exciting」という「現在分詞形」が「主語オブジェクトのプロパティ」であることとや、「excited」という「過去分詞形」が「主語オブジェクトに対するメソッド」であることが推定されました。次のようにまとめます。
「excite」を「exciting」として使うと、「名詞『が』どんななのか」ということで、「excited」として使うと「名詞『を』どうしたのか」ということで厳密に解釈できます。
抽象的に書いたほうが伝わりやすいのか、具体的に書いたほうがいいのか、私にはわかりません。読者の方の感想をお聞きしながら、また今後わかりやすく表現していきたいところです。
まとめ
学校英文法で定番となる「エキサイト問題」についていろいろと考えました。「他動詞」を考えるためにスペイン語の動詞まで持ち出してしまいましたが、「もともと全て他動詞仮説」「自動詞の目的語は主語自身仮説」が整理できました。考える過程は小難しくなっていますが、材料としては、「名詞」、「形容詞」、「副詞」「動詞」の4品詞分類と、「オブジェクト指向」という考え方なので、全て導入済みの概念で説明しています。「態(ヴォイス)」についても触れました。次回は、「アスペクト(相)」、「テンス(時)」、「ムード(法)/モダリティ(法性)」を一体的に捉えながら、文法用語の日本語についてさらに考えていきたいと思います。
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