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日本語教員試験2024体験記(「文法用語」と「オブジェクト指向」編)

この記事は、「日本語教員試験体験記」の第26回です。
前回までの記事は、noteのマガジンにまとめていますので、合わせてお楽しみ下さい。

「文法用語」という日本語を考える

日本語学校で日本語を学ぶ学習者にとって、初級の時期の大きな壁に「文法用語」があります。もちろん日本語を母語としている人にとっては、「文法用語」なんて意識して話すことはありませんが、学習者のにとっては知っていたほうが勉強が捗りやすいのは間違いありません。「」には基本的に、「名詞文」、「形容詞文」、「動詞文」があります

  • 「これはペンです。」は、「名詞文」です。

  • 「空は青いです。」は、「形容詞文」です。

  • 「コーヒーを飲みます。」は、「動詞文」です。

日本の学校での英語教育においては、「副詞」や「副詞的要素(句・節)」は重要な要素です。例えば、「時・条件の副詞節では、いつも現在形」などというようなルールがあって、文法問題で問われます。「」すなわち、文の中の「部分的な文=部分文」のうち、どれが「副詞節」か識別できなければ、正解を導くことができないからです。

一方、国文法における「副詞」は、少々寂しい立ち場にあります。英語における副詞(adverb)は、そういうものだと理解しやすいのですが、国文法での「副詞」は、これが副詞ですよというはっきりとした定義とともにあるものではなく、他の品詞分類におさまらなかったものが「副詞」というカテゴリに押し込められた感じがします。この辺は町田健氏の本に詳しいのですが、国語の「副詞」はちょっと仲間外れという程度の認識で進めていきます。

改めて、「名詞」を定義しましょう。あくまでも、受験テクニックです。アカデミックなレベルで厳密に定義をするのではなくて、家庭で子どもに教えるとしたらこの程度ということでお許しください。「名詞」は、想像通り「もの・こと」の名前です。名前ということでもありますが、そこにある物、存在そのものですね。プログラミングの考え方に「オブジェクト指向」というものがあります。これは、プログラミングでアプリを設計していくときに、あらゆるものを「モノ(オブジェクト)」として、捉えていく考え方です。AIの解説を紹介しておきます。

(加筆)
言葉を教える教師にとって「オブジェクト」というと、SVOの「O」、Object(目的語)として捉えてしまいますが、ここでの「オブジェクト」は、単に「物・モノ」と捉えた方がいいです。一旦「目的語」という感覚を忘れていただいて、「名詞」として読み進めてください。

1. オブジェクト
オブジェクトは、現実世界の「もの」をプログラム内で表現したものです。
例: 「犬」というオブジェクトを考えると、犬そのものをオブジェクトとしてプログラム内で表現できます。
現実世界の例:犬(オブジェクト)
プログラム内の例:オブジェクトはデータと操作をまとめたものです。たとえば、「犬」を表すオブジェクトには名前や年齢などの情報が含まれます。

2. プロパティ
プロパティは、オブジェクトの「特徴」や「状態」を表します。オブジェクトが持つデータです。
現実世界の例:犬の名前、年齢、色など

3. メソッド
メソッドは、オブジェクトができる「行動」や「操作」を表します。これは、プロパティに基づいて動作する「関数」のようなものです。
現実世界の例:犬が「吠える」、「走る」、「寝る」などの行動

ChatGPTによる概要

「文法用語」と「オブジェクト指向」

「車」というオブジェクトを考えて見ましょう。「車」が「名詞」だということは簡単にわかります。私はBMWが好きなので、頭の中には新車のBMWの3シリーズが浮かびました。新車で買うと「高い」です。ここで、「車」という名詞に紐づけられるのは、「高い」という「形容詞」です。軽自動車に対してBMWは重いですから、「重い」という形容詞も紐づきます。日本語教育では「〜い」で終わる形容詞は「い形容詞」といい、「豪華な」という、「〜な」で終わる形容詞は、「な形容詞」と呼ばれます。「な形容詞」は、国文法では「形容動詞」といいますが、言い方が違うだけで、同じく「性質や属性」を説明するものと考えていいですね。

では、その「車」をどうするの?その「車」で何をするの?というように、「動作」の面で考えていくと、「車」についてあるいは「車」に対して「動詞」が紐づいてきます。「車」を買います。「車」に乗ります。「車」を売ります。などですね。唐突ですが、オブジェクトが「雲」だった場合は、「雲を売ります」という表現は考えられないので、「売ります」という「動詞」は、「車」に紐づけられる「動詞」と考えることができます。

名詞に対して紐づけられた形容詞で表現できる設定値(色、数量、価格)のようなものを、プログラミングでは「プロパティ」と呼んでいます。パソコンを使っていると「プロパティ」という言葉がよく出てくるのですが、辞書を引くと「資産」という訳語が先にきて、よくわかりません。実際には「値、設定値」と読み替えたほうがしっくりきます。そして、名詞に対する動作を「メソッド」と呼びます。プロパティはデータ、メソッドは命令ということで、各オブジェクトについて、プロパティとメソッドが寄せられていて、これをうまくつかってプログラミングしていくことが、「オブジェクト指向」ですね。

「オブジェクト指向」以外になにがあるのかというと、私が詳しく語るのは難しいです。Java、Javascript、Exce VBA、Python、PHP、Rubyと、私が名前を知る限りのプログラミング言語を挙げましたが、どれも「オブジェクト指向」の言語だそうです。あらゆるものを「モノ」に見立てて、プロパティとメソッドで書いていくんですね。ここが分かれば、プログラミングが楽しくなってくるのですが、最初はなかなか大変です。

もう一度、車の例をまとめてみましょう。

「車(名詞)」オブジェクト
プロパティ(データ)
  ーーー「大きい(い形容詞)」
  ーーー「かっこいい(い形容詞)」
  ーーー「高い(い形容詞)」
  ーーー「豪華な(な形容詞)」
メソッド(動作・命令)
  ーーー「を運転する(動詞
  ーーー「に乗る(動詞)」
  ーーー「を売る(動詞)」

もちろん、オブジェクトに紐づくプロパティやメソッドはこの他にもいろいろあるのですが、そこは自分でどんどん設定していくのです。プログラミングは英語で書かれているように見えるのですが、内容的には日本語で書いても、考え方をつかんでいれば同じことを表現できますね。

では、「副詞」要素というのはどう定義していけばいいでしょうか。国文法の世界での「副詞」は定義や分類が難しいと書きました。しかし英語の方は、then、howに置き換えられる要素が「副詞(的要素)」ということになり、案外わかりやすいです。プログラミングでいうと、「もし〜ならば(条件分岐)のif節」、「〜回繰り返せ(for ,while)節」がこれにあたそうです。。

そもそもプログラムってなに?ということに立ち返ると、①順番にやりなさい、②条件で分岐しなさい、③繰り返しなさい、の三つがプログラムの基本です。こどもに歯磨きをさせることを考えましょう。まず、歯ブラシと歯磨き粉を手に持ちなさい。歯磨き粉を歯ブラシに少しとりなさい。ここまでは、順番どおりです。ここから、1つの歯について、10回ずつ繰り返してゴシゴシしなさいと繰り返させます。仕上げにパパかママが子どもの歯を見て、まだ磨きかりなかったら、またもう一回磨くという条件分岐です。

パソコンやスマホのアプリやゲームはこのような考え方の積み重ねでできていると言われますが、にわかには想像しにくいですね。しかし、自分が全て開発しなくても他人によって既に作られてあるプログラムを借りてきて(ライブラリをインポート)、自分のプログラムを広げていくことできるのがプログラミングの便利なところです。言語を学習するときに、他の教科書、辞書、ノートをひっぱりだしてくるようなものです。様々な知識を借りてきて組み合わせるところが、言語の学習とプログラミングと類似点だと思います。論文を書く時ときは、先行研究からたんくさん引用しますから、勉強ってそもそもこういうものですよね。

「名詞」「形容詞」「副詞」「動詞」を整理

ここまでの話を前提にしつつ(読み飛ばした方はここからで結構です)、私が長年「名詞」「形容詞」「副詞」「動詞」について整理するために描いてきた概念図を紹介します。


4つの詞の関係図

「名詞は形容詞を修飾する(説明する)」という関係で、「名詞」と「形容詞」を結ぶことができます。「名詞 is 形容詞」という文は、叙述適用法、「形容詞(い・な)→名詞」は、限定用法と呼ばれます。受験生を悩ませた「形容詞の定義」です。

「名詞」が進化すると、「動詞」になります。waterという名詞は、動詞で使うことができて、そのときは「水をまく」という意味になります。日本語の「〜する」という動詞などは、名詞につければ何でも動詞化できるものなので、「名詞を動詞に進化させることができるという感覚」は理解していただけるでしょう。Xerox(ゼロックス)というコピー機のブランド名を使って、I Xeroxed it. (それをコピーした。)と言えると聞いてビックリしました。

「副詞」は、英語的には、「名詞以外を修飾する」と言えます。veryという「副詞」は、「形容詞」bigに結びつくと、bigが、very big(とても大きい)というように、程度を表現することができます。slowlyという「副詞」は、「動詞」walkに結びつくと、walk slowly(ゆっくり歩く)です。「副詞」が「動詞」を修飾していますね。最後に、walk very slowlyの、veryに注目すると、slowlyを修飾していると言えるので、「副詞」は「副詞」も修飾することができます。まとめると、「副詞は名詞以外を修飾する」と言えますね。

ここまでで、4つの品詞をまとめることができました。私自身、日本語教育とプログラミングに出会うまでは、ここまでの整理ができていたのですが、最近では「オブジェクト指向」でも図式化するようになりました。


「オブジェクト指向」で4つの詞を整理

いかがでしょうか。「名詞」「形容詞」「動詞」「副詞」の概念が整理されたでしょうか。「名詞」には、「名詞的要素」を代表させているので、実際には、語(詞)→句(文ではないかたまり)→節(部分の文としてかたまり)というようにそれぞれの進化版を含んでいます。形容詞節、副詞節なども同様です。ここまで導入できれば、「」、「」そして「」の中の「時制(テンス)」や「相(アスペクト)」を検討することで、英語や日本語の分析がもっと進むのですが、一度には書ききれないので、それは次回以降に譲ります。少しずつ導入しているつもりですので、毎回の記事の内容を積み重ねながら読んでいただけると幸いです。

英文法において「時制(テンス)」や、「相(アスペクト)」を語るには、まだ材料が足りません。次回は、今回導入した「名詞」「形容詞」「動詞」「副詞」が組み合わさって、さらに新しい材料が生み出されることについて書いていきます。また、あくまでも日本語教育文法を基礎として、英語と日本語を同時に分析していこうということが狙いですので、日本語におけるテンス(過去・非過去)の概念も重要です。最近の英文法の解説は「未来の表現」はあっても、「未来形」というものはない考え方が主流のようですが、日本語の方でもテンス・アスペクトについての考え方を抑えておかないと、結局なんのこっちゃわからなくなります。

まとめ

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。「日本語教員試験2024体験記」と称したこのシリーズ、しばらく英語の話に脱線しながら続きます。日本語教員試験合格発表まであと10日を切りました。私が日本語教師として言いたいことを整理して書けるようになるために、日々少しずつアウトプットしていきます。読者の皆様、引き続き一緒にお楽しみください。


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