レーザービームを使って極限までモノを冷やす方法
毎日暑い日が続いていますが、みなさんはものを冷やすときどうしますか?
おそらく多くの方は冷蔵庫に入れるという選択を取るでしょう。それではマイナス20℃よりも低温まで冷やしたい場合はどうでしょう。
冷凍庫でも太刀打ちできない場合、思いつくのは液体窒素ですね。しかし、それでもマイナス196℃までしか下がりません。
それではもっと冷やしたいときは?
低温に魅せられた科学者たちは、いかに温度を下げ、物質の最低温度であるマイナス273℃(絶対零度)近くまでものを冷やすことの尽力しています。
さて、物質を冷やしたいときは冷蔵庫のように熱機関によって熱を奪い取るか、液体窒素のように対象物よりも低温の物質にさらすという方法が採られますが、それでは絶対零度近くまで到達することは難しいのです。
そこで使われるのがレーザービームです。
レーザーを使うと逆に温度を上げてしまうのでは?と思いますよね。確かに固体にレーザーを当てると温度が上がり、激しい音を立てながら焼き切れたり焦げたりします。
しかし、ある条件を満たしたレーザーを気体原子にあてると摩訶不思議なことに温度が下がるようです。
今回はそんなレーザー冷却について紹介していこうと思います。
レーザー冷却とは
レーザー冷却とはその名の通り、レーザーを当てて気体原子の温度を低下させる手法の総称です。主要な方法がいくつかあるようですが、ここではレーザードップラー法という方法を紹介したいと思います。
もしかすると、ドップラー効果という言葉を聞いたことがある人はいるかもしれませんね。
わかりやすい例はサイレンを鳴らしたパトカーや救急者が近づいてきて、横を通り過ぎて遠ざかるときです。人生で一度は経験したことがあると思いますが、パトカーや救急車が横を通るときサイレンの音が変わったように聞こえたはずです。この現象がドップラー効果です。
なぜそんな現象が起きるかというと、音が波の一種であるからなんですね。音は空気の振動です。振動、つまり波の波長が変わると音の高低が変わります。
サイレンを鳴らしたパトカーが近づいてくると波長は短くなり、逆に遠ざかると波長は長くなります。そのため、近づいてくるときと遠ざかるときで音の高さが変わって聞こえるのです。
このドップラー効果が冷却とどう関係してくるのか?と思いますよね。
まずレーザーは光の一種ですが、光は電磁波という波でもあります。
ここでレーザーと気体原子の関係を考えてみましょう。
気体原子は空間中を動き回ることができます。レーザーに対して向かってくるときと離れるときで、原子とってレーザーの波長が変わって見えます。
気体原子がレーザーに近づくときは波長が短く、逆に遠ざかるときは波長が長くなります。ここまでがドップラー効果ですね。
そして冷却にはもう一つ重要なポイントがあります。
それは、気体原子が特定の波長の光のみを吸収するという特徴です。原子は特定の波長の光=特定のエネルギーを吸収し、安定な状態から興奮した状態に変化します。これを科学の言葉で基底状態から励起状態になるといいます。
この時、何が起きているかというと原子のもつ電子の軌道が変化しているのです。
そしてもう一つ押さえておきたいのは温度とは何か?ということです。このときの温度というのは気体原子の運動エネルギー、つまりどの程度激しく動き回っているかです。
つまり、この原子の動きをおさえてやれば温度が下がるということですね。それに役立つのがレーザーということです。
これらの物理現象を利用することでレーザードップラー法を実現します。
まず、原子が吸収できる波長の光より少し長い波長のレーザーを用意します。気体原子は空間中を飛び回っていますが、レーザーと反対向きに動いており、レーザー光に近づくとき、見かけ上の波長は短くなります。
このとき、原子はレーザー光を吸収することができます。原子は光を吸収するとともに反対向きの運動量を受け取ります。要するに、動きが抑えられて、温度が下がるということです。
逆に、レーザーの進行方向と同じ向きに原子が動いている場合、原子が吸収できる波長よりも光の波長が長いため、何も起こりません。レーザーは後ろから原子を押すことなく、正面からぶつかるときのみブレーキをかけるということですね。
つまり、温度は下がる一方です。
これがレーザーを用いた冷却方法、レーザードップラー法です。
参考:ヨビノリ動画
最後に
今回はレーザーを使って原子を冷やす方法を紹介しました。感覚的には想像するのが難しいですが、こんな技術がこの世にあると思うと面白いですよね。
世の中には摩訶不思議な技術がたくさんあります。今後もそんな興味深い技術を紹介していくのでお楽しみに!