タンパク質から透明で柔軟な耐熱冷却フィルムを作る 前編
タンパク質、プロテインというと筋トレ好きの人が飲むアレを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?
そんなタンパク質を使って、透明で柔軟なフィルムを作るというのが今回紹介する研究です。
しかも、このフィルムは電気を使わず水分を吸収・揮発させるスマートクーリングウィンドウとして応用されるんです。
なぜタンパク質を使うのか
そもそも、どうして私たちが普段食べる肉や大豆に多く含まれるタンパク質を使う必要があるんでしょうか?
少し前にレジ袋が有料化されたことを発端にか、特に話題になっている海洋プラスチック問題などは石油から作ったプラスチックごみが原因となっています。
そのため、現在石油製品を使わずに、エビやカニの甲羅の成分であるキチンや木材の成分であるセルロースを使った生分解性の材料が研究されています。
しかし、キチンやセルロースは水に溶けにくかったり加工しにくいという課題があるそうです。
そこで水に溶けやすく加工もそれほど難しくないであろうタンパク質を粘土と混ぜることで、透明でかつ高い強度を持つ材料を作ろうとしたのが今回の研究になります。
タンパク質を粘土と混ぜてスーパーマテリアルを作る
少し話が脱線しますが、皆さんは複合材料という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
複合材料とはただのプラスチックや金属とは異なり、材料の強度を高めるために複数の素材を組み合わせて混ぜ合わせたものです。
例えばカーボンファイバーを樹脂で固めたCFRPと呼ばれる材料はロケットのボディへの応用が期待されており、軽くて強いで有名です。
今回の研究では、粘土(といっても非常に小さな砂粒)とタンパク質を混ぜて処理をすることで、めっちゃ強い素材を作りました。
参考文献より引用
具体的にはラポナイトと呼ばれる粘土鉱物とBSA(ウシ血清アルブミン)を混ぜるようです。なんのことかさっぱりわかりませんよね。
このラポナイトは層状の構造をした非常に小さい砂みたいな物質です。それに対してBSA はタンパク質なので小さくて柔らかい物質ですね。
この2つを上手に混ぜ合わせると 硬いものと柔らかいものが絶妙にくっついてくれるようです。さらに、ここで化学的な処理を加えてやると、柔らかいタンパク質の構造が変化し、全体としてより強くなるようです。
参考文献より引用
最後に、この混ぜものを基板に塗って乾燥させると、基板の表面に薄いフィルムが出来上がります。
このタンパク質と粘土の混ざった透明フィルムですが、ただのタンパク質をフィルムにしたときに比べて50倍もの強さになったようです。
どうしてそんなに強いのか?
このフィルムの強さを調べたところ、その構造に秘密が隠されていました。
βシート構造と呼ばれる層状のものが重なったような構造を作り、その複雑ながらも規則的な層構造によってフィルムは強くなったようです。
wikipediaより引用(左の青い部分がシート状になっており、それが重なっている様子)
論文では、このフィルムの微細な層構造は真珠層の構造に例えられています。以前の記事でも紹介しましたが、真珠の貝殻はナノサイズの物質がレンガのように積み重なることで力を上手に分散させる強い材料となります。
それと全く同じとは言えないかもしれませんが、今回作られたタンパク質フィルムもまた似たような原理で強くなっているものだといえるでしょう。
最後に
ちょっと脱線もあり、かつ非常に面白い研究だったので、少し長くなってしまいましたね。そして、まだ肝心の耐熱・自然冷却機能については紹介が始まってもいません…
ということで、次回はこのタンパク質と粘土でできた透明フィルムのすごい特性について紹介したいと思います。
参考文献
Biomimetic Amyloid-like Protein/Laponite Nanocomposite Thin Film through Regulating Protein Conformation