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【科学による光の魔法】レーザーを使って生み出す光格子とは

このnoteでは、これまでいろんな種類の結晶を紹介してきました。結晶というのは原子や分子が規則正しく並んだ物質です。そして、それらは自然の力によって組みあがったいわば自然の賜物とも言えます。

それでは、完全に人間の力によって生み出された結晶はどうでしょうか。人類の科学の進歩はすさまじく、光を操って結晶のようなものを作ることができるようになりました。

今回はそんな摩訶不思議な光格子について紹介したいと思います。

まるでレーザーによる空間魔法:光格子とは

少し回り道ですが、わかりやすく原子から構築された通常の結晶を考えてみましょう。おそらく一般的な結晶と比較する方が光格子のことも理解しやすいはずです。

原子はプラスの電荷を持った原子核とマイナスの電荷を持った電子でできていますが、この電子に注目してみると面白いことがわかります。

これは物質によりけりですが、多くの場合、マイナスの電子はプラスの原子核に引き寄せられるという性質があります。電子の気持ちになってみるとそこら中に規則的な落とし穴があり、気を抜くとそこに落っこちてしまうというわけです。これをポテンシャルとも言ったりします。


それがわかると何が面白いんだ?と思いますよね。実はこのポテンシャル、いわば電子にとっての落とし穴の位置や深さというのが直接、結晶材料である半導体などの性質につながってくるわけです。

つまり、私たちのスマホの中に入っているチップの中で無数の電子たちは落とし穴に落ちたり、抜け出したりしながら旅をしているといっても過言ではありません(さすがに過言か?)

さて、これで一般的な結晶の中で電子に何が起きているのかイメージがつかめたと思います。

ここからは本題に戻って光格子の紹介です。

実は、近年レーザー技術の発達に伴い、人工的にこのミクロな落とし穴を生み出すことができるようになりました。それが光格子です。

wikipediaより参照

光の波長などを制御することで電子ではなくて原子自体を対象とした落とし穴を空間中に作り上げることに成功しました。しかもその落とし穴の位置や深さはレーザーを操ることで自由に制御することができるのです。

光格子で作った空間中の落とし穴に原子は落ち込み、非常に小さいもののあたかも結晶のような規則構造を作るようになりました。

実際にはこんな感じでレーザーを当てるらしい

光格子の応用例

モット絶縁体

光格子は光の力を使って気体原子を空間中に捕捉することができます。これは光格子ポテンシャル呼ばれる原子に対する落とし穴のような構造を生み出すことにより、ポテンシャル的に原子が落ち込むというものです。

光格子の面白いポイントはこの落とし穴(ポテンシャル)の深さを自由自在に変えることができるということです。

このポテンシャルが深いとき、気体原子は周期的に特定の位置に捕捉(束縛)されます。これは原子が隣の格子点に飛び移ることができないため、似たような物理現象を例にモット絶縁体と呼ばれています。

結晶におけるモット絶縁体では原子の電気的な束縛と電子間の反発力のせいで、電子が隣の格子点に移動することができません。電子が自由に隣の領域に移動できないため、電気が流れない絶縁体になるというものでしたね。

光格子では、電子を気体原子に置き換え、隣の格子点に移動できない状態をモット絶縁体と呼んでいます。そして光格子を使ったもう一つの状態が次に説明する超流動です。

超流動とは

逆に、光格子ポテンシャルを弱くしたらどうなるでしょうか?つまり、気体原子を捕縛するための落とし穴が浅くなっていてがんばれば原子が外に脱出することができる状況です。ポテンシャルの谷から抜け出した原子は結局隣の格子点に捕捉される(隣の落とし穴に落ちる)ため、遠目に見ると気体原子が、光格子をあちこち飛び回っている状態になります。


超流動からモット絶縁への変化

もちろん、原子を直接観察することはとても難しいので、干渉という物理現象を使って、モット絶縁体か超流動のどちらの状態なのかを調べます。

最後に

今回は光格子とその中で現れる2つの特徴的な状態、モット絶縁体と超流動について紹介しました。

普通の物質では観測することが難しい状態を生み出せる光格子というのは非常に面白い物理現象だなと思います。

この光格子という技術は、光格子時計や量子コンピューターといった次世代の技術に利用が期待されています。

この研究は学術界だけでなく、今後の経済にも大きく影響を与えるはずなのでこれからも時々ウォッチしていきたいですね。

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