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X線を使って骨の内部構造を可視化する


概要

今回紹介するのはX線小角散乱法(SAXS)とテンソルトモグラフィーを組み合わせて骨の繊維構造を可視化する論文です。

骨は無数の繊維が向きをそろえて並んで(配向)おり、その微細な構造が骨の強度に影響することが知られています。この繊維の向きを知ることができれば、骨のような軽くて強い材料を人工的に作れるようになります。

Nanostructure surveys of macroscopic specimens by small-angle scattering tensor tomography,
Marianne Liebi, Marios Georgiadis, Andreas Menzel, Philipp Schneider, Joachim Kohlbrecher, Oliver Bunk & Manuel Guizar-Sicairos , Nature 527, 349–352(2015)

X線小角散乱(SAXS)についてはこちらから▼


テンソルトモグラフィーとは

テンソルトモグラフィーは主にMRIなどに使われている計算方法です。
拡散テンソルイメージング(DTI)と呼ばれる水の拡散方向をテンソルという概念を用いて記述することにより、血流の方向(血管の位置)などがわかるようになるようです。

このかなり複雑なテンソル計算をX線小角散乱(SAXS)法に導入したところがこの研究の肝心なところになります。


何ができた?

研究チームは実際に骨のサンプルを使ってSAXSとテンソルトモグラフィーを組み合わせた新手法で内部の微細な繊維の構造を可視化しました。
細く絞ったX線ビームで骨全体をマッピングしてデータを集めます。さらにそのデータにテンソル計算を応用してかなり重たい計算を回すことで、骨全体の繊維の方向を取得しています。

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https://www.chalmers.se/en/departments/physics/calendar/Pages/Docentforelasning-Marianne-Liebi.aspxより引用

すごいところは、骨の繊維方向を知ることができたこと以上に、この手法が多くの材料に対して利用可能であるという点です。細かい繊維が集まった物質はいろいろな分野で期待されており、例えばカーボンファイバーを用いた複合材料は飛行機やロケットなどにも使われている素材です。
このテンソルトモグラフィーはまだ実験的な制約が多いもののサンプルの制約がほとんどない点にあります。


感想

比較的、近い領域の研究をしているとかなり衝撃的な内容でしたね。この領域ではタイコグラフィー(X線回折イメージング)に匹敵するレベルの分野が出たことになると思いました。

骨のような自然の物質を模倣して新しい素材を作るためには、まずは理解が必要になります。理解するためには当然観察(観測)しなければなりません。

新しい測定手法が未来の”ものづくり”を変えていくことになるでしょう。

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