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奥が深い乾燥の物理~洗濯物からフリーズドライまで~
乾燥というと、衣類の洗濯物、食器乾燥機、肌の乾燥など私たちの生活の密接にかかわっていますが、物理現象としては非常に奥が深い分野でもあります。
今回はそんな乾燥について説明したいと思います。
そもそも乾燥とは?
水分がなくなることです
誰もが知ってることですね
それぐらい当たり前の水がなくなるという現象ですが、私たちのそのほとんどを理解していないのです。
私たちは直感的に、よくカラッと晴れた日は洗濯物が乾きやすく、反対に湿度が高くてジメジメしてると乾きにくいということを知っています。
基本的に乾燥とは水の移動(蒸発や拡散)に大きく依存しており、温度が高い、湿度が低いと水が蒸発しやすいため、早く乾燥します。
また、水は蒸発しても洗濯物の表面に水蒸気の薄い膜(層)を形成してしまい、この膜があるとなかなか次の蒸発が進みません。そのため、風を当てることで、水蒸気の膜を吹き飛ばしてしまうというのも乾燥の上では有効な手段です。ドライヤーで温風をあてるというのは、この原理を使っているわけです。
ここまでの話は私たちが経験的によく知っている話です。
それでは乾燥を知ると何の役に立つのでしょうか
結局乾燥を知ると何かいいことはあるの?
乾燥という現象は非常に難しく、また幅広い領域で研究されている内容になります。
最も馴染み深いのは食品関連ではないでしょうか
何かの本には乾燥というのはある意味で鮮度を保つことになるようです。これは腐らなくなり、食材を保存するという観点ですね。
また香り(匂い)の成分は乾燥の際に消えて(揮発して)しまうため、乾燥前の品質を保ったまま水分を抜くということがいかに難しいかわかります。
他にも建築分野では、木材やコンクリートの乾燥が重要になります。生き物である樹木は切った時点では水分を含んでいます。
これを不用意に乾燥させると反りなどが起こって、ひどい場合は割れてしまうそうです。
またコンクリートははじめ生コンと呼ばれる水とセメントと砂を混ぜたドロドロの状態のものを流し込んで、それを乾燥させることで普段見かける固いコンクリートになります。これも木材同様、乾燥に失敗すると割れが生じます。
また材料分野では水を多く含むウェットマテリアルにとっても乾燥は重要な現象です。
例えばこんにゃくに代表されるゲルという材料はやわらかいけども丈夫な機能性材料としても有名です。
このようなプルプルした水をよく含むゲルにとって乾燥は大敵です。
ゲルの骨格はやわらかい高分子でできているので、乾燥に伴う毛管力により構造が壊れてしまいます。
この毛管力は大きな力であるため、様々な分野で利用されますが、乾燥においては材料を破壊してしまいます。
そこで多くの科学者が知恵を集めて、新しい乾燥手法を開発しました。
現在の乾燥技術
毛管力はもともと、気・液・固の三相が同時に存在するときに生じる現象です。
もう少し簡単に説明すると、乾燥に伴い固体であるゲルの骨格や木材の繊維の隙間に水と空気が同時に存在します。この時、毛管力がはたらきます。
(水に完全に水没している場合は関係がありません。)
そして毛管力の最大の原因は水の表面張力の強さにあります。水は他の液体の中でも比較的表面張力が高く、反対にエタノールは表面張力が低いことが知られています。
そのため、エタノールで浸しても問題がない(耐性がある)材料に関しては、水をエタノールで置換したのちに乾燥させることで、毛管力を抑制するという方法があります。
ここで重要な点は水が水蒸気になるとき(液体→気体)に、毛管力が発生します。つまり、水を直接蒸発させなければ、毛管力は発生しないのです。
ここでは、水を直接蒸発させない有名な乾燥技術を2つ紹介したいと思います。
凍結乾燥(フリーズドライ)
フリーズドライというと聞いたことがある人がいるかもしれません。その名の通り試料(材料や食品)を凍らせて、乾燥させる方法です。
この方法では水→水蒸気の変化ではなく氷→水蒸気の状態変化であり、液体が存在しないので毛管力が生じません。
しかし、水は氷に変化するとき体積が膨張してしまいます。この体積変化により試料が壊れてしまう可能性がある場合は使用できないのがネックになります。
おそらく濡れた本を冷凍庫に入れるとシワになりにくいのも、非常に弱い紙の繊維に毛管力を与えることなく乾燥させることができるという理屈だと思います。
先ほど紹介した水を多く含むゲルを普通に乾燥させると収縮してしまいます。
ゲルの乾燥に凍結乾燥を用いることでゲルの骨格構造をなるべく壊さずに乾燥させることができるそうです。
このようにしてできたものをクライオゲルといいます。
超臨界乾燥
超臨界乾燥とは、乾燥させるもの(材料や食材)を超臨界状態にしてから水を抜く方法です。
超臨界状態とは固体・液体・気体とは異なる高いエネルギーを持つ第4の状態とも呼ばれています。こちらも水→水蒸気の変化ではなく、超臨界状態→水蒸気の変化なので毛管力がはたらきません。
超臨界流体自体はコーヒーのデカフェなどに使われていますね。
この超臨界乾燥は壊れやすい微細構造を持つ半導体の乾燥に重宝されているようです。
ゲルの乾燥において超臨界乾燥を用いると非常にスカスカなほぼ空気でできたゲルを作ることができ、これをエアロゲルというそうです。
まとめ
このように乾燥は身の回りの生活に始まり、素材・食品・建築・医療など様々な分野で重要な役割を果たす物理現象です。
私も乾燥について勉強するまではここまで奥が深いものだとは思っていませんでした。
まだまだ乾燥について分からないことがたくさんあるので、もう少し深入りしてみたいですね。