ナノの力で環境にやさしい緑色蛍光材料をつくる
いつの時代も蛍光材料というのは重宝されます。
今では1日の内、ディスプレイを全く見ないという人は少ないのではないでしょうか。テレビにスマホ、パソコンといった様々なディスプレイがありますよね。
今回は、そんなディスプレイなどに利用される環境にやさしい蛍光材料が開発されたという研究を紹介したいと思います。
蛍光材料の現状と課題
赤や緑に輝く材料は現代でもたくさんあります。あまり身近には感じないかもしれませんが、少し考えてみれば赤い光や緑色の光をディスプレイなどで見ることは多いはずです。
これはディスプレイの内部に赤や緑に光る材料が入ってるってことなんですよね。
このように私たちの生活に欠かせない蛍光材料ですが、実はその材料は鉛やカドミウムといった水に溶けだすと人間の体に悪影響をもたらす有害物質を含んでいることが多いようです。
また、このような蛍光材料は高温、高圧下が必要だったり、有機溶媒を使ったりと、全体的に環境に悪い方法で作られています。
そこで今回紹介する研究では、もっと省エネかつ有害物質を含まない形で蛍光材料を作れないかと頑張っています。
緑色の蛍光材料
近年、蛍光材料界隈では有名になっているセシウムマンガン(II)ハロゲン化物ナノ結晶という全く馴染みのない材料をつかうことで、もっと環境にやさしい材料ができたようです。
もっと具体的にいうと、Cs3MnBr5ナノ結晶だそうです。もう意味不明ですね…
ここでは深いことを考える必要はありません。要は有害な鉛やカドミウムが入っていない小さな粒を使うことで、何やらきれいに光る材料ができましたよ!って研究です。
ここで重要になってくるのはその作製方法です。
それでは新しい蛍光材料の作製方法を一緒に見ていきましょう。
蛍光材料の作り方
まずはじめに大切なポイントは、この光る物質がもともとは小さな粒で液体の中で浮かんでいるということです。光学顕微鏡でも見ることができないぐらい小さな粒がたくさん集まって緑色に光る蛍光材料となります。
そして、この粒はなるべく均質であってほしいんです。なぜなら、粒のサイズや種類が違うときれいな同じ色にならないからです。
もう少し真面目な表現をすると、この蛍光材料の発する光の波長の幅を狭めるためには均一な粒子が必要ということです。
例えば、”緑”の光が欲しいというと520nmという波長の光だけ出す材料が欲しいということになります。しかし、材料が不均一だと490nmの青緑っぽい光が出たり、560nmの黄緑っぽい光が出たりします。実際はそれらが混ざった緑っぽい色が出ることになるわけですね。
そのため、この小さな粒をフィルターでろ過して、粒のサイズをそろえます。中でも200nmのフィルターだときれいにサイズがそろって不純物も少なくなったようです。
こうして得られた小さな粒はまだ液体の中でプカプカと浮かんでいる状態です。当然粒は見えないので緑色の液体といった感じです。
この液体を蒸発させることで、光る粒だけを取り出して固体の材料に変化させます。
新しい蛍光材料の特徴
新しい方法で作られたこの蛍光材料は、その作り方や微妙な素材の違いによって特徴が大きく変わります。
例えば、液体を蒸発させるときの温度が変わると色や蛍光効率が変化するということがわかっています。実際に良質で高効率な緑色の蛍光材料を作るためには150-190℃で加熱しながら蒸発させると良いということが、この研究によりわかったようです。
また、蛍光材料に含まれるセシウムとマンガンの組成の違いによって、蛍光効率に違いが出てきます。
組成が変わることで、いったい何に影響するのでしょうか?
冒頭にも少し登場したように、この蛍光材料はナノ結晶といって原子が規則正しく並んだ結晶構造を持っています。セシウムとマンガンの組成が変わることで、この原子の並び方(結晶構造)に少し違いが出てきます。
これにより、蛍光効率が変化するということです。ナノよりももっと小さな原子の位置の微妙な違いが材料の特性に影響を与えるって面白いですよね。
最後に
今回はとっても地味だけど、私たちの生活を陰で支える蛍光材料について紹介してみました。
環境にやさしくという言葉は近年メディアや企業で騒がれていますが、こういった基礎研究がたくさんあることで、成り立っているんですよね。
なので、長らく大学にいた身からすると、基礎研究は不要だなんてことは言わずに、もっとお金を出してくれても良いのかななんて思います。なかなかそういうわけにもいかないようですが…
参考文献
Synthesis of Cs3MnBr5 Green Phosphors Using an Eco-Friendly Evaporative Crystallization Process
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