【ロイヤルパープル】3000年前から色あせない布の秘密
現代では色とりどりの洋服が当たり前の時代となりましたが、私たちのご先祖様はどんな衣類を身にまとっていたのでしょうか?
紀元前のまだ歴史もない時代、もちろん科学の発達はありません。鉱物を砕いた顔料はあったかもしれませんが、糸や布を染めるような染料は一筋縄ではいかなかったでしょう。
しかし、実はそんな何前年も前の時代から、化学染料を使わずに、色とりどり布を染めていたようなんです。
それも、貝から取り出してきた生物由来の染料を使ってです。
ということで、今回は貝紫という摩訶不思議な染料について紹介したいと思います。
貝紫とは
貝から取り出した紫色の染料である貝紫について紹介する前にその時代背景を少し深堀してみましょう。
時代は紀元前10世紀、地中海フェニキア人と呼ばれる人たちが今回の主人公です。
紀元前10世紀と言えば、今から3000年も前になりますね。
フェニキア人は、現地で取れたアッキガイ科の巻貝を使って紫色の染料を生み出していました。
しかし紫の染料は貝の中身を取り出せば、簡単に入手できるような簡単な代物ではありませんでした。
ここからはフェニキア人がどのように貝紫を作り出していたのか見ていきましょう。
アッキガイ科の貝は肉食で、獲物を捕食する際に使用する筋弛緩作用のあるコリンやエステル類の分泌液を出します。その中に貝紫の元となる前駆体チリンドキシルという物質がが含まれているそうです。ただ、この物質自体は紫色ではなくて黄色っぽいクリーム色の物質でした。
このクリームような物質は日光の紫外線が当たることで化学変化が起こり、見た目の色が変わります。段階的に黄色→緑→赤紫と日光の照射量によって変化します。
これだけでも科学的に面白い貝紫ですが、実は糸や布への染色となると更なる技術力が求められます。というのも、このクリームのような物質は水に溶けないため、布を均一に染める染料には適していいないのです。
そこで貝紫の元となるクリームのような物質を還元させて水に溶かすという方法がとられます。化学が発達した現在は、還元剤と呼ばれる物質が手に入りますが、古代にそんなものはありませんでした。
当時のフェニキア人は貝に含まれる酵素と糖分を利用して、発酵により還元反応を進めていたようです。
この貝紫を還元して水に溶かした液体は黄色になるようですが、この液体で布を染色して日光に当てるときれいな紫色に変化します。一方で、この黄色い液体に日光を当てて光反応をさせると貝紫からインジゴに変化します。インジゴとは日本でもおなじみの植物アイから採られる藍色のことですね。
貝から生まれた物質と、植物から採れる物質が化学的に同じというのは興味深いです。
このような光反応を貝紫に適用することで、紫から藍色、青までさまざまな色を生み出すことが可能になります。貝紫から生まれた染料は色褪せることがなく、3000年前に染められた布がいまだに紫色であるというのは驚きですよね。
この素晴らしい染料である貝紫は時代をへてローマ帝国でも寵愛されていました。
時の皇帝ネロの時代には貝紫を無許可で利用したものは、処刑されていたというというぐらいですから、その貴重度合いは感じられますね。
そのため皇帝の紫として、ロイヤルパープルと呼ばれていたそうです。
また、日本でも貝紫は使われており、貝塚には不自然に穴の開いた貝殻が残っていたと言われています。
最後に
今回は貝から生み出した貴重な染料貝紫について紹介しました。
世の中には不思議な物質がたくさんあります。最近では人類の科学力によって生み出された物質も多いですが、古代から生物由来の材料をあの手この手で有用な物質に変えていたというのは本当に興味深いですね。
貝紫に関する記事は意外と多いので、興味がある方は是非調べてみると面白いかもしれません!