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心の中にある汚さとは?

人間の汚さとは何なのでしょうか。私は次の歌詞を見たときに疑問に思いました。

誰か覗いてよ 汚いもの見る目でさ

――KANA-BOON「白夜」

泥やほこりにまみれているわけでもないのに、一体何が汚いのか。それを解き明かすのがこのコラムの目的です。

(読了時間:約4分)

タブーには触れてはならない

汚いものを社会学の眼差しから見ると、そこには禁忌(きんき)すなわちタブーが関わっています。タブーとは集団の決まり事(ルール)という意味です。本来、タブーは義務と禁止(「○○しなければならない」と「○○してはならない」)の両面を持っていますが、もっぱら禁止の意味のみで扱われることが多いです。

さらにルール自体ではなく、その対象をタブーと呼ぶこともあります。タブーとされがちな対象の具体例は次の通りです。

・死 ・出産 ・生理 ・食物 ・貴種(高貴な家柄に属していた人のこと) ・被差別民 ・魔物 ・個人の名前

タブーの対象は、綺麗な場合も汚い場合もあります。綺麗な場合はなるもの、汚い場合はのものとして扱われます。どちらにせよ、それらには触れてはならないことになっています。

たとえば、ハリー・ポッターシリーズに登場する大悪ヴォルデモート卿のことを、魔法使いたちは「名前を言ってはいけないあの人」と呼んでいます。彼もまたタブーな存在の一人なのでしょう。


社会学におけるタブーには、ある重要な共通概念があります。それは「その禁忌を犯したときに自動的に災厄に見舞われるもの」というものです。タブーの対象自身やタブーに触れた人の意志に関係なく、悪いことが起こるというのがポイントです。

加えて、タブーに触れた人自身もタブーの対象になるとされます。その観念があるから「穢れを清める」必要が出てくるのです。タブーと「えんがちょ!」をすることによって、関係を断ち、元通り(俗の世界)に戻ってくるようにするのです。

タブーの本質は例外だ

集団のルールに当てはまらない「例外」こそが、タブーの正体です。聖なるものも、魔のものも、原則に対する例外であることは共通しています。

よって、それに触れることはルールそのものに対する挑戦となり、ひいては集団そのものに対する対決にもなります。なぜなら、ルールを守ることが集団を維持するための方法だからです。ルールを外れることは集団を外れることにつながり、ルールを変えることは集団の再定義につながります。

汚さの正体は矛盾

どうして、ルールに当てはまらない例外が存在するのでしょうか? それはルールそのものが不完全だからです。不完全とは、一般性と普遍性、すなわち「誰でも当てはまる」と「いつでも当てはまる」を欠いているということです。

みんなが守っているルールと矛盾を起こしているために、ルールの例外たちは、タブーとされます。たとえば、ユダヤ教において「豚」や「うなぎ」を食べてはいけないのは、カシュルート(≒食べてもいいものリスト)のルールの例外にあたるからです。

カシュルートには「4つ足の獣のうち、蹄がわかれていて反芻(はんすう)をするもの」は食べてもいいというルールがあります。豚は、足を4本持っていますが、牛やヤギのようなハッキリした蹄を持っていませんし、反芻しません。「海・川・湖に住むもので、ヒレと鱗のあるもの」というルールもありますが、ウナギは鱗があるんだかないんだかという見た目をしてます。

そのようなものたちは、ルールでハッキリ規定できないものたちなので、ある種の矛盾をはらんでいます。なので気持ち悪い(=違和感を感じる)。触れないでおこうと考えて、矛盾を回避するのです。

すなわちタブー、特に穢れとされるものにはルールとの矛盾が関わっているのです。

まとめ

汚さはタブーと関係しています。タブーとは、本来は集団のルールという意味ですが、特に禁止のルールの場合のみを指します。

タブーの本質はルール(原則)の例外です。例外は、ルールと矛盾しているために生まれます。タブーは「その禁忌を犯したときに自動的に災厄に見舞われるもの」という基本概念を持っているため、触れてはならないし、触れたら「清める」必要があるとされます。

おわりに

心の中にあるほの暗いものを、汚いと表現することはよくあります。しかし、その本質はルールに対する矛盾です。矛盾だと分かれば、汚いから触れたくないと避ける必要もなく、矛盾を解消するためにルールを見直せばいいんだ!と考えられるようになります。

矛盾を解き明かすということは、言い換えればサスペンスや推理ものを読むのと同じです。自分自身が心の名探偵になるんだと考えると、ちょっぴりわくわくします。

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