■いつか、なれる
街を歩いているときに、不意にぴりっとした違和感が刺さってくることがあります。
「ここって何があったっけ?」
「あれ、いつもこんな風だったっけ?」。
どれほど記憶をほじくり返そうとしても、引っ張り出せず。その正体がなかなか言語化できなくて、もどかしい思いをすることって、案外多いです。でも、そんなとき同時に、目に入っていないようで、ちゃんと意識には残っているんだなと、我ながらほほえましく思ったりもします。
先日、久しぶりに地下鉄の乗り換えのために歩いていました。何日かぶりに名古屋城へ向かおうとしていたのです。そのとき、ふと目に留まった駅の行先案内版が、不意にぴりっとした違和感を刺しこんできました。
名古屋以外の方が見ても何のことやら?だと思います。画像にある「名古屋城 大曽根方面」という表示。以前は、「市役所 大曽根方面」だったのです。
2023年1月4日に、名古屋市営地下鉄名城線のうち4駅が駅名を変更しました。そのうちのひとつ「市役所駅」は、「名古屋城駅」に名前が変わったのです。
名古屋で屈指の観光施設である「名古屋城」。実は、駅名が変更されるまで、最寄り駅は「市役所駅」でした。つまり、「名古屋城」を感じさせるカケラが一つもない名前だったのです。しかも、一つ向こうには「名城公園駅」があるのです。
知らない方からすれば、「『名古屋城』なんだから、最寄り駅は『名城公園駅』だろう」と思っちゃいますよね。
でも、実際に名城公園駅で降りてしまうと、名古屋城の東門まで、最も近い入口からでも軽く10~15分歩く羽目に陥ります。どう考えても、都市部にある観光施設の「最寄り駅の距離」ではありません(笑)
それがようやく、名古屋城の最寄り駅だと誰にもすぐ分かる「名古屋城駅」という名に変更されたのです。他の名称変更のあった駅も、観光される方に分かりやすいようにという意図のもと、なされたようです。
先日、久しぶりに名古屋城へ伺うために歩いていたときに見た駅の行先案内板。いつもは気にも留めずにいたのに、不意に「名古屋城 大曽根方面」の文字が、大きな衝撃を伴って目に入ってきました。
1月4日に駅名が変更されたのですが、私が登城した日は直近で1月3日。まだ、「市役所 大曽根方面」とありました。その後、何日かお家に引き籠もっていたので、その日になって初めて「名古屋城 大曽根方面」の文字を見たのです。
私自身は、駅のホームにある看板で駅名変更を実感するのだろうと予想していました。
でも、そうじゃなかった。
どちらかと言うと、見逃し勝ちな行先案内板で「あ、名古屋城駅になったんだった」と思ったのです。そして、そのことに、わりと大きめの驚きがあったのです。
でも、記憶とか意識とかって、普段は気には留めないけれど、意識のなかにスンっと摺りこまれていたモノたちが、かなりの部分を占めているのではないでしょうか。そして、その風景に細やかであろうと変更があれば、違和感を生じる。
今回は事前に駅名変更することを知っていたので、細やかな部分に対する違和感でも、すぐに解消できましたが(笑)いつもだと、そうでないものの方が絶対的に多い。
以前、ここが何であったか。
どういうものがあったか。
思い出せそうで思い出せないもの。そのうち、「ま、いっか」と日常のどこかへ流れていってしまうもの。
この風景もいつか見慣れてしまって、無意識のなかに刷り込まれるのでしょう。もしかすると、「市役所 大曽根方面」の文字に上書きされてしまうかもしれない。そうしたら、「市役所駅」であったことも記憶の奥の方にしまわれて、二度とは取り出せなくなる可能性だってあるわけです。
それは少し寂しいことだなと感じながら。でも、こうして書き留めておけば、あるいは、忘れずにいられるのかもと一抹の希望も持ったりするのでした。
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