【読書日記41】『看護師に「生活」は許されますか』
第1波がやってきていたある日、
私はひとりで名古屋城にいました。
いつもなら、観光客で賑わい
武将さまが陣笠さんを従えて闊歩し
其処此処に
楽し気なざわめきが漂う名古屋城。
でも、そのときお城にいたのは
私ひとりでした。
桜の咲き始めたお城を歩いていると
いつもは天守閣の屋根に屯している
カラスたちが我が物顔で城内を闊歩しています。
その光景を見ていると
通い慣れているはずなのに
初めて訪れたような錯覚に陥りました。
そして、
時間も空間も歪んでしまったような
そんな困惑を抱えて、私は歩き続けたのです。
・ ・ ・
読みながら、ふと
そんなことを思い出したのが
コチラの本です。
■『看護師に「生活」は許されますか』
□木村映里
□日販アイ・ビー・エス株式会社
□2022年11月初版
□1580円+tax
著者 木村映里さんの前著
『医療の外れで―看護師のわたしが考えた
マイノリティと差別のこと』を読み
いろいろ考えたことを鮮烈に覚えています。
そんなきっかけがあり
書店でコチラを見かけたので
迷わず購入したのでした。
・ ・ ・
本書は
「ごく普通の看護師がCOVID_19流行中に
どんな生活を送ってきたのか
そして、その中で何を考えてきたのか、
……個人的な出来事を中心に書き進めた」本です。
そうして、
「COVID_19流行下における
医療と差別をテーマに
私達医療従事者がどのような差別を受け
また私達医療従事者が
どのような人々を軽んじてきたのかを
私の看護師説いての視点で書き留めた本です。」
感染症禍の波が
実感を伴わない上滑りの言葉としか思えず
昨今では、波の中が
「自分の日常」になってしまった感覚さえあります。
でも、それが続いてしまえば
感染症禍だから起きた差別だけでなく
感染症禍で浮き彫りになった差別さえも
イヤな形で日常化する危険だってある。
だからこそ、今ここにある差別について、
目を背けず、考え始めることが必要だろうと
本書は教えてくれているようにも思えます。
■耳も目も塞いだあの頃
私は、感染症の情報を
基本的にTwitterで得ています。
が、実は、それらの情報を
シャットダウンしていた時期があります。
ちょうど、第1波が襲ってきたころでしょうか。
フォローを外したり、ミュートしたり
Twitterそのものを開けないようにしたり。
とりあえず、耳も目も塞いで
自分の平穏を保とうとしていたのです。
なぜなら。
TwitterのTLにある言葉や空気が
どんどん荒々しく、棘を含んだものに
変わっていったから。
それらを見ているのが
ほんとうにしんどかったから。
私は違和感も棘も全部放り投げて
殻に閉じこもることを選んだのです。
でも、著者の木村さんは現役の看護師です。
殻に閉じこもるとか言っていられない場所で
働いている人なのです。
日々、ぎりぎりのところで
何とか踏み止まりながら
そこで持ちえた「違和感」について
木村さんは都度立ち止まり、検分し
容赦なく言語化していきます。
そんな風に
医療従事者と市井の人々との
認識のギャップに改めて気づいたり。
あるいは、
「医療従事者に感謝を!」のような
差別とは真逆の、英雄視するような視線に
を見出したり。
また、SNSで
医療従事者への口撃が激化する風潮に
と、その奥にある怒りや苦しみに
思いを致したり。
ほんとうに容赦はありません。
そして、私は
「差別に対する認識は
目の前の環境次第で容易に揺らいでしまう」
どこかに自覚はあったけれど
見ない振りをしていた差別という感情を
本書によって、見事に炙り出されました。
つまり。
情報に対して耳も目も塞いだのは
自分のなかにある差別感情に
気が付きたくなかったのも絶対にあると
否応なく突きつけられたのです。
だからこそ、読みながら、
相当鋭い痛みを感じていました。
でも、それだけではなく
私はどこかに
清々しさを感じてもいたのでした。
それはやっと自分に向き合えたという
安堵感だったのかもしれません。
■目を背けないということ
本書の凄まじさは
著者である木村さんが
返す刀で自分の思考をも
ざっくり容赦なく斬っていくところにあります。
私の言葉は
誰よりかを傷つける刃を孕んでいないか
きっとずっと
そのことを考え続けていらっしゃるのだと
思います。
そしてそれは、文章を書くことを選んだ私も
考え続けるべきことなのだと改めて思うのです。
小さな違和感の奥にあるものから
目を背けぬこと。
そんな鋭敏さ、丁寧さを心に置いて
自分にできることを粛々と続ける。
結局はそんな風にして
続いてく日々を過ごすのが最善なのかなと。
読み終えた今、そんなことを思っています。
・ ・ ・
慣れてきた今だからこそ
読みたい一冊です。
今を、もう少しだけ
やさしさ濃い目の世界にするための一歩を
踏み出すきっかけに。
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