■大河ドラマ『光る君へ』第41話「揺らぎ」感想―私の命委ねる、それは、私だけに。
えりたです。
すっかり締切仕事に追われる日々に埋没し、もはや視聴さえ周回遅れをぶちかましています。えぇ、私が第41話を見たのは、第42話の放送日の午前中でした……
今、しれっと「第41話」「第42話」と書きました。ということは、1月以来ずっと見続けてきた大河ドラマ『光る君へ』もあと6話なんですね(ワタクシ的には7話ですが)。
ついこの間まで、道隆さまがすてき過ぎて…(感涙)とか、道隆さまが狂気に陥ってもうつくしくて…(感涙)とか、道隆さまがうるわしいまま天へ召された…(号泣)とか。多くの時間を道隆さまの優美さに涙し、愛でることに全力投球しながら見ていた気がするのですが。
気が付けば、「今日の中関白家」も第39話で終焉を迎え、『光る君へ』の物語そのものが終わりを見据えた、最後の疾走を始めています。
ほんとうにあっという間でした。ここまでの決して少なくない時間が一度瞬きしたくらいの、思いがけない速さで過ぎたように感じます。きっとここからの疾走は、もっと早いことでしょう。
そう考えれば、今まで以上に一話ずつを大切に見ないともったいないなぁ…と改めて感じ入ります。えぇ、その前に私はリアタイできる生活に戻りたいですが(絶望)。
そんなこんなで、第41話の感想です。第42話の復習がてら読んでいただければと思います。
■うるわし男子列伝
そろりと始まったこちらの項目が、とうとう記事の先頭を担うことに! えぇ、もう第41話の公任さまもうるわしすぎて、何かしらのもろもろがダダ漏れていて、何度か「一時停止ボタン」を押したですよ……
■胸鎖乳突筋がだな…
初っ端から不穏なタイトルを付けていますが(滝汗)。第41話では、たくさん公任さまの声を拝聴することができました♡ 低く抑えた声のもたらす響きが、画面越しにコチラのからだを震わせに来て、大変にごちそうs……幸せでございました。
そうして、もう一つ。みなさま、ご覧になりましたか? 公任さまの胸鎖乳突筋!! この文脈でこの語彙を出してしまうと、一種の変態みしかないない気がいたしますが、私は負けません(何に)。
ふと横を向かれたときに、ずいっと現れるあの筋。第41話では、公任さまのそれを愛でる時間をいただいたのですが……いやぁ、マジで身悶えました……あれは、やばい。うるわしい。同じ生きものとは思えない。
そんな公任さま?ですが、第41話でもいろいろな思惑に引っ張りだこでした。
■泥船への乗船に誘われがち
第40話で一条天皇のご退位があり、三条天皇が即位しました。そうして、第41話では、権大納言でいらっしゃる公任さまに「内裏遷御」を取り仕切るよう、三条天皇が要請します。
公任さまご自身は、自分よりも官職が上の大納言ロバート実資さまが適任であると辞退しようとなさいますが、結局三条天皇に押し切られてしまうのです。
このことについて、公任さまはひそひそ話レベルではありますが、「三条天皇側に自分を取り込もうとしているのではないか?」という疑いを持ちます。
考えてみれば。公任さまってそういう……ある種の「泥船」に誘われがちなんですよね(泣)
最初は、目覚める前の道兼どん。ここは公任さまご自身がいろいろ見誤って、自ら乗船切符を買いに行った感がありますが。酔いどれ道兼どんに居座られて、とんだ迷惑を被りました。
次が、出家後の定子さまにあてがわれた職御曹司での宴。魅了の魔法にかかっているような一条天皇や、魅了の魔法すら要らない伊周さまに仲間ヅラされて、正直辟易していらっしゃいました。
もちろん、三条天皇の側につくことが「泥船まっしぐら」であることは、後世に生きる私たちだからこそ知ることです。
あれを「現実」として生き抜くためには、きっと情報だったり、自分の武器だったり、胆力だったり、決断力だったりが超必要で。そう考えると、「貴族」で居続けることの困難さって私たちが想像する以上なんだろうなと思うのです。
さて、ここから話を広げます。
■一条天皇のいない世だから
これら一連のできごとを三条天皇側から考えると、「vs 左大臣」という思いはマストでしょう。あともう一つ、三条天皇の思惑として「自分は一条天皇とは違うのだ」と世に―あるいは、貴族たちに知らしめたいということも考えられます。
三条天皇(居貞親王)は、一条天皇より年上です。つまり、一条天皇の御代(25年)=三条天皇の東宮時代という等式が成立します。
一条天皇は、いわば「バランサ―」でした。人の話を聴くことのできる、それゆえに苦悩も深い賢帝でした。ご自分の意志を貫いたのは、ただ一度だけ。天変地異を起こしてまで(え)貫きましたが、最後は……最期は貴族たちの意思にすべて跳ね返されたのです。
一方で、三条天皇はそんな一条天皇の姿を、東宮御所から「自分ならそんなことはしないのに」と歯がゆく思っていたことでしょう。
帝なのだから。
人々の頂点に立つ、神にも近い存在なのだから。
私なら存分に辣腕を振るい、誰にも文句など言わせず、自分の思う善政を敷くのだと、きっとぶるんぶるんと鼻息荒く息巻いていたのだと思います。
ただ、近くにいなければ「現実」など見えない。
一条天皇は幼くして即位させられた現実もありましたが、ただ手をこまねいていたわけではありません。なんとかしようともがいてあがいて、死力を尽くしました。できるだけ、民に寄り添おうと貴族たちを諫めようともなさったのです。そんな一条天皇の一生は、母も含めた貴族たちと戦い続け、そうして、敗れた果てに終わったとも言えます。
そう考えれば、幼い頃からそんな父の姿をそばで見ていた敦康親王の「父を見ていると……」の発言は本音でもあったようにも感じられるのです。でも、まだ即位したばかりの三条天皇に、一条天皇が直撃を喰らったそんな「現実」が見えているはずはありません。まぁ、これ以後に、ものっそい勢いでカウンターを喰らうことにはなるのですが(´;ω;`)ウッ…
ともあれ、そんな思惑もあり、三条天皇は即位直後にぶちかますことにしたのではないでしょうか。
私は一条天皇とは違う。
臣下に過ぎない左大臣の思惑などに振り回されない。
私は私の思うように人事も動かす。
そのことを明に暗に示すために、内裏遷御の指揮を公任さまに任せると宣った。そうして、公任さま含めた貴族たちも「まずはお手並み拝見」的な、あるいは、「とりあえずやらせてみるか(帝だし)」的な視線で三条天皇の手腕を見ていたのではないかと思うのです。
…そう考えていくと、三条天皇の御代って、始まりからして不穏な空気しかないのですね…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
■そうして、皇統図大好きな私が通ります
ついでに、もう一つ三条天皇の思惑―貴族たちと超対立するやつがあります。それが「皇統」の問題です。
以前から、何度も書いていますが、この時期は摂関政治云々以前に「両統迭立」の駆け引きがものっそいえげつなく行われています。そのことは、物語でも円融天皇(坂東巳之助さん)、花山天皇(本郷奏多さん)の即位/退位のあたりで示されていました。
「①村上天皇」は同一人物です。〇番号は即位順。そうすると、両方の流れがうまいこと、交互に天皇を輩出していることがわかります。
物語の現在は「⑥三条天皇」です。そうして、皇太子は彰子さま所生の敦成(あつひら)親王ですから、三条天皇としては敦成親王即位後の皇太子に、息子である「敦明(あつあきら)親王」を据えることが必須の勝利条件となるのです。
あ、ちなみに、妍子さまが「好き♡」と迫っていた方が敦明親王です。そりゃ、母上の娍子さまが慌てて間に入りますよね……ここで息子に不祥事など起こされたら、三条天皇側の「皇統」がぶっ潰されますもの( ノД`)シクシク…
また、何といっても、一条天皇の皇子は三人。そのうち、二人(敦成親王、敦良親王)は時の最高権力者である左大臣の血脈です。
つまり、自分の息子敦明(あつあきら)親王を立太子させる下地を十全に盤石に完全に無欠に整えなければ。貴族たちの気持ちをきりりとこちらに向けておかなければ。皇太子の座が、息子敦明ではなく、敦良(あつなが)親王(敦成親王の弟君)に行ってしまう可能性があるのです。そんなことになれば、冷泉天皇から続く、自分の皇統は途絶えてしまいます。
三条天皇からしてみれば、左大臣や貴族たちの敦康(あつやす)親王への仕打ちを見れば、その可能性を打ち消すことなどできません。
だって、三条天皇の息子である敦明(あつあきら)親王も、敦康親王と同じく、既に元服していますもの。左大臣や貴族からしてみれば、めちゃ意志を持っている成人天皇など、貴族たちの言うなりにはならなくて、めんどくさいだけ。そりゃあ、三条天皇が焦るのも理解できようというものです。
結果的には、前代未聞の出来事(詳しくは次回以降に)が起き、「冷泉―花山―三条」の皇統は途切れてしまいます。それでも、今の段階では、そんな未来は絶対に見たくない三条天皇は自分の在位中にできるだけの布石を打とうと奮闘するのです。
その一つとして、公任さまへの指示も読めるのではないかと思います。内裏遷御の指揮をするとか、かなり名誉なことですしね。
■というわけで、話は公任さまに戻ります
ここまでで、既に3500字を超えているのですが(笑) 公任さまのことをもう一つだけ。
今回の紀行で『北山抄』が取り上げられていました。活字では見たことがありますが、公任さまの直筆草稿が残っているのですね……超見たい……
この時代の政治は、基本的に前例どおりに儀式をつつがなく行うことを最上とします。何かあったら、「前例は?」となるのはその所為ですし、ロバート実資さまがたびたび「前代未聞だ!」とぷんすこされるのも、ごく当たり前の感じ方なのです。
そのため、各時代の識者たちは儀式にまつわる書物を著しました。もちろん、ロバート実資さまがマメに書き続けた『小右記』や、行成さまの『権記』などの日記も大切なのですが。もう一つ、儀式の正しい在り方を示す指南書としての儀式書も、とても重要なものでした。
今回紹介された『北山抄』は、公任さまの手になる儀式書です。
公任さまは官職こそ権大納言で止まりましたが、それでも、稀代の文化人としての名声はたいへんに高い方です。歴史物語『大鏡』に残っているように、管弦も漢詩も和歌もすぐれていらっしゃいましたし、実は、三蹟である行成さまに隠れてはいますが、書にも通じていらっしゃったのです。
また、公任さまの祖父実頼(さねより)さまは、有職故実を深く研究し、行事儀式において「小野宮流」を創始した方です。その祖父が遺した日記をしっかり読み込み、(物理的に)自分のものにし(ロバート実資さまに激怒され)たのも公任さまです。
物語の現在において、三条天皇が「内裏遷御」という大きな行事に関し、その指揮を公任さまに命じたというのは、「私はおまえがそういったことに造詣が深いことを理解しているし、評価している」というメッセージを暗に伝えるものでもあったのです。
■まとめ
■今日の彰子さま
字数が既にアレなので、彰子さまのことはちょっとだけ。
第41話の見どころの一つに、「女主人」として自立していく彰子さまのお姿がありました。
生贄として入内されたときには、「仰せのままにbot」でしかなかった彰子さま。前話である第40話では、最愛の夫を喪い、「女」であることの限界を突き付けられ、絶望の淵に追いやられます。
それでも、彼女はそこにとどまることをなさいません。ここまで学んだものを自分の血肉とし、これ以上ないほど使いこなし、稀代の女院へと花開いていくのです。
そのために必要だったのが、「帝と歌を交わし合いたかった」「一緒に語り合いたかった」「笑い合いたかった」というもう取り戻しようのない後悔だったとすれば、これ以上せつなく悲しいことはないようにも思いますが……
考えてみれば、この「~し合う」って、絶対にひとりではできないことなんですよね。二人いてこそ「~し合う」ことができる。また、彰子さまが「~し合う」ことを望むのは亡き一条天皇だけ。もう二度と叶うことのない「夢」なのです。
そうして、彼女は最愛の夫を喪った後、息子たちを守るために立ち上がります。もちろん、その息子たちのなかには敦康さまも入っていましょう。魑魅魍魎の跋扈するこの宮中で、彼等を守るために彼女は少しずつ地盤をつくりはじめるのです。
そのために彼女が喰らったかなしみも大きいものではありますが、それは後のお話。
もしかすると、貴族のだれよりも政治的手腕にすぐれていたのが彰子さまではなかったかと、その片鱗を見せる第41話でした。
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今回も読んでいただき、ありがとうございました。周回遅れ気味ではありますが、ここまで来たら感想の完走を目指して書いていきます。
これからもどうぞよしなに。
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