【読書日記61】『SF作家の地球旅行記』
旅行記を読むのが好きです。
行ったことのない場所へ
行ったような気持ちになれたり
同じ(ような)場所へ行っても
目の付けどころがシャープだったり。
自分が極まった出不精なこともあり
作家さんたちの旅行記を読んでは
その時々の思いをお裾分けしていただいてます。
今回ご紹介するのもそんな一冊です。
■『SF作家の地球旅行記』について
■柞刈湯葉著
■産業編集センター
■2022年9月
■1600円+tax
旅行に行く理由って十人十色です。
お友達と思い出を作るため。
聖地巡礼のため。
鉄道に乗るため。
私などは、
我が最愛の推しさまの遠征に付いていくためが
理由の殆どを占めます。
そんな中、著者である柞刈湯葉さんは
特に理由はないけど、敢えて言うなら
「不意に思いついたから」。
まるでコンビニに行くような身軽さで旅に出て。
そんな旅の様子をまとめたのが
本書『SF作家の地球旅行記』なのです。
■旅先との距離感
「コンビニに行くような身軽さ」と書きましたが
柞刈さんは、旅先でもそんな感じです。
全体的に淡々とした書きぶりで
ごくまれに
「気分が爆上がりしてるんだろうな」と
想像されるとこもあるのですが(笑)
でも、それもう次の瞬間にはスンってしてる。
だからと言って、楽しくないわけじゃなくて
多分、全力で楽しんでいらっしゃる。
でね。
それってね。
日常の延長で出かけて行って
ふとした瞬間に、ひょいっと
非日常に踏み出してく感覚なのかなと。
日常/非日常の境界の曖昧さ、というか。
非日常な場所で過ごす時間に
日常の思考をマーブル上に流し込んで
そこで起こるグラデーション模様を楽しむ。
こう書きながら
「これって、SF小説の醍醐味じゃん」と
今更『SF作家の地球旅行記』という
タイトルの醸すモノに納得したりして(笑)
ともあれ、熱狂しすぎず冷めすぎもしない
その土地との距離感とか
旅に対する温度感がすごく心地よいんです。
でもね、それと同時に、読んでて
自分が旅に出たときに感じる疲労感が
ちゃんとあるのも面白いなと思ったんです。
移動したり
慣れない空間/時間に入ることで
感覚に訴える情報が多すぎたり。
旅先だからこそ感じるそんな疲れ。
本書を読んでると
それらをじわっと感じるんです。
それはきっと
読むことで柞刈さんの旅を追体験してるから。
そして、これも
旅行記を読む醍醐味だなと
そんなことを思うのです。
■知識とか比喩とか
本書を読んでいるとき
いちばん強く頭にあったのは
知識ってこう使うんだなという納得でした。
なにせ、比喩が知識系なんです(笑)
しかも、ツボに相当深く差し込んでくるので
外で読む時は注意が必要なレベル(笑)
・ ・ ・
柞刈さんは
旅先の風景を知識でつないだり
知識や情報を旅先の空気で立体化したり。
知識/景色でおぼろげに見えていた像を
景色/知識で、明確化するような。
双方を織り込んで
奇想天外な織物を広げるような
そんな知識の使い方をなさるんです。
それって多分
みんなやっているんですが
柞刈さんはそれを
さらに鋭敏に、リアルに
ある種ななめな方に極振りして
言語化なさっているんですよね。
だから、読んでてものっそい面白いんだなと
勝手に納得しておりました。
■まとめ
この旅行記には
最後に小説が置いてあります。
現実の旅行記を読んだあとに
それらを読むと
仮想世界の筈なのに
ものっそいリアリティ。
月でもそのテンションなんだと微笑みつつ(笑)
積み重ねの面白さをも
最後に気前よく放ってくる
読み応えのあり過ぎる旅行記でした。
ちょっと閉塞感を感じるとき
日常とは少し違う風景を見たいとき
おススメの本です。
■こちらもおススメ
・上出遼平
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
なぜか頭に浮かんじゃったので…
記事をお読みいただき、ありがとうございます。いただいたサポートはがっつり書籍代です!これからもたくさん読みたいです!よろしくお願いいたします!