オリジナル小説│3月14日
「会いたいなぁ」
本日3月14日はホワイトデーでもあるが、
僕の誕生日である。そして、
大好きな妻と交際を始めた日でもある。
そんな日なのに、今日は妻に会えない。
ツアー真最中で、地方にいるのだ。
日付が変わった瞬間に妻から
〈お誕生日おめでとう〉
というメッセージが届いていた。
嬉しい。今日もドラマの撮影があると
言っていたので、残念ながら
ツアーに招待できなかった。会いたいのに。
会いたいのは僕だけなのかな、
なんて思ったり。
連日、昼と夜の2公演をこなしていると、
疲れきって妻と電話越しに
話すこともできていない。
公演日と誕生日がカブると、
大体MC中にケーキが出てくる。
大きなケーキには僕の顔が
プリントされており、メンバーが
大きなスプーンですくってくれる。
はい、予想通り
顔面にクリームを付けられました。
たくさんの人に祝われることは勿論嬉しいが
やっぱり、ね、
一緒にお祝いしたい人がいるわけだから。
今まではそんな人が居なかったから
気にしていなかったけれど、
大切な人ができると
こうも記念日って大切なものなんだね。
「麗(れい)、そんな落ち込むなって」
日付が変わる少し前、
メンバーの和翔(かずと)に呼ばれた。
「落ち込んでねぇし」
「良い所に連れてってやるよ」
アイマスクが手渡された。
─何これ?動画でも撮ってんの?ドッキリ?
抵抗する元気がなかったので、
大人しく着いていくと
どうやらどこかの部屋に着いたようだった。
「アイマスク外していいよ」
そう言われて外すと、
目の前には会いたかった妻が。
「なんで?紗楽(さら)、撮影は?」
とりあえず抱きしめてみる。
大好きな妻の香りがする。夢じゃない。
後ろから扉がガチャリと閉まる音がした。
「頑張って巻いてきた。明日はこっちで
撮影があるから、前乗りついでに来たの」
会いたかった、なんていう甘い言葉を
囁いてくれないが、そこも好き。
愛おしい。会えたんだから何も要らない。
「ねぇ、麗。入口じゃなくて中にはいろ?」
身体を離されてちょっとムッとしたが、
右手に彼女の温もりを感じて
単純だが嬉しくなった。
長めの廊下を進むと、
そこはとても広い部屋だった。
スイートルームだろうか。
大きなベッドがある。
キッチンから妻が何かを持って来た。
「これ、誕生日ケーキ。麗が好きなやつ」
おめでと、と言いながら
無造作に渡してくる。うん、悪くない。
箱を開けると、ロールケーキが丸々1本。
夫婦共にお気に入りのカフェの
米粉ロールだ。
「苺はいってる!最高!!」
通常は何も入っていないシンプルな
クリームだけのロールケーキだが、
これは嬉しい。
「特別に作ってもらったの。
絶対美味しいやつ。記念日でもあるしね」
肌が荒れるからと小麦を控えてきた時期に
出会ったスイーツ。小麦粉を使わなくても
ケーキってできるんだね。
贅沢に、厚めに切る。一口食べると
「んま」
シンプルに美味しい。
一番好きなフルーツと好きなケーキ。
これは、最高の誕生日だ。
「あ、日付かわってるよ。
誕生日終わりだね」
立ち去ろうとする妻を引き留めると、
「ねぇ、明日早いんだけど」
そう言ってくるくせに、満更でもなさそう。
久しぶりの妻。会いたかった妻。
この状況で我慢できるわけがなく、
夢中で口づけをした。
なのに、妻は寝息を立て始めた。
相当お疲れだったようだ。
お預けを食らってしまったが、
このまま抱きしめて眠るだけでも幸せだ。
仕事が一段落したら
また二人でどこか行きたいな。
見えなさそうなところに
こっそり赤い印をつけた。
この二人が出てくる物語はこちら。
完結済の長編です。
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