アートのある暮らし
近年、アートを身近に感じられるサブスクや
マルシェ、アートイベントなどが
増えてきたように思うが、それでもアートを
飾る習慣のある人間は極一部だろう。
私自身、自分が絵を描く立場でなければ
それほど興味を示さなかったかもしれない。
一方で、夫は私と出会うまでアートとは
無縁の生活をしてきたが、意外にも
作家性の強いものを好んで購入したりする。
我が家の玄関に飾ってあるのは宇髙明氏の作品。
以前ご縁あって展示をさせていただいた
伊勢現代美術館へ再訪したとき、
ちょうど個展を開催しているところだった。
私が美術館を訪れたのは2021年の春。
「心傷風景」をテーマに、四面楚歌・
八歩塞などの精神的な意味合いを持つ
“壁”をイメージした作品を制作し、
内と外・人と人との関わり・時代における
価値観の違いなどを表現した展示構成だった。
美術館やギャラリーを訪れる醍醐味のひとつは
作家本人と対話できる点だと考えている。
幸運なことに当日在廊していた宇髙氏に
話を聞くことができた。
彼は過去5年間ほど仕事の関係で
アメリカで生活していたそうだ。
工場裏のトラックヤードの後ろが国境線で、
24時間ボーダーパトロールが監視している
という光景を日々目にしていたという。
当時拠点としていたサンディエゴのホテルからは
クロスゲートを渡り、毎日メキシコ人が働きに
来ている様子が見えたとのこと。
朝、目覚めるとここは何処なんだろう?と
ずっと幻想を見てるような感覚を覚えたそうだ。
そんなところから壁へ意識が向き、
対人関係や多様性について壁の素材を用いて
表現する制作スタイルに繋がっていったという。
バックグラウンドを知った上で作品をみると、
凹凸があり、歪とも言える壁の材質が
人の個性のようにも感じられるから不思議だ。
アートについて、正しい理解はない。
作家も観覧者も、その時の心情や知識、
社会情勢や時代背景によって作品への
心象や評価が変わる可能性を孕んでいる。
それが面白さであり、難しさでもある。
作家の問題提起に対し、議論が沸き起こること
こそがアートの本質なのかもしれない。
宇髙 明
大阪芸術大学芸術学部美術科を卒業後、
各地で壁材を用いた作品を発表。
四面楚歌・八歩塞などの精神的な
意味合いを持つ“壁”をイメージした作品を
制作し、内と外・人と人との関わり、
時代における価値観の違いなどを表現している。
伊勢現代美術館
〒516-0101 三重県度会郡南伊勢町五ヶ所浦102−8
Open 木曜-月曜 10:00-16:00/Close 火曜-水曜
※開館情報はホームページをご確認ください。
入館料:一般¥700/学生¥500/小学生以下無料
0599-66-1138