お面を付けないとダメなアパート【ユーモアエッセイ】
ならば、お面をつけて玄関を開ければ良いのではないか?と、母と妹と私の意見が一致した事があった。
国道4号線は車通りが多い。
ラッシュ時などの渋滞はひどいもので、ちょっと進んで止まり、ちょっと進んで止まりを繰り返し、目前の信号を何度も見送る。
あの信号を越えれば少しは流れが楽になるのに、焦ったい。
先の方で事故でも遭ったのではないかと心配になるほどだが、事故はなく、単純に渋滞している。
ある時刻になると、するする流れないS字結腸でつまずく糞づまりのような場所が必ずあるのだ。不思議なものだ。
そんな渋滞が発生しやすい国道沿に、長細い一階建てのアパートがある。
特別目を引く外観でもないにも関わらず、車道との距離間が近いがため、目立つ。
玄関ドアの密接度から、間取りはワンルームくらいだろうと推測がつく。
目立つのは玄関である。
国道向きのため、住人の出入りが車からバッチリ丸見え。タイミングが重なれば、内観もお邪魔できそうだ。
渋滞中、私はそのアパートを見つめ、ひとつ心配事が湧いた。
「ここに住むとなったら覚悟が必要だ。玄関を開けたら、渋滞で退屈している人たちから大注目を浴びてしまうじゃないか」と。
助手席や後部座席の人は、自然と外へ視線がいくもので、渋滞ともなれば、運転手含めて複数人の視線が一斉に住人の行動を追うだろう。
玄関開けたら顔見られ、「ここに住んでるのかぁ」などと無意識下で想像され、施錠する行為も見られ、さて右か左かどっちへ歩むのかと見届けられ、トボトボと歩く姿をジーッと追われる羽目となる。
きっとそうなったら、人の目が気になる性分の私は耐えられない。
恥ずかしくて家から出れなくなっていまう。
同一人物に何度も目撃されてしまえば、顔を覚えられてしまうし、服も同じようなものばかり着てると思われそうだから、格好にも気を使わなければならないだろう。
そんなことを母と妹に話すと、二人も強く同意してくれた。
「お面が必要だねココは。お面をつけないと住めないね」
と、私が言うと、車内で笑いが渦巻いた。
どんなお面が良い?
おかめさんやひょっとこは論外だろう。
キャラクターのお面も変態となる。
では、団扇か?覆面マスクはどうだ?目出し帽は?
一通りマスクの話題で持ち切りとなった車内は、さらなる問題と直面した。
いや、待てよ。外出時は良いとして、帰りはどうする?
アパートの数メートル手前からお面を付けるしかない。お面は必需品になる。アハハのは🤣
などとくだらない議論を半ば本気でしていた。
しかし、玄関から出てきた人間が謎のお面をつけていたり、遠くからテケテケ歩いてくる人間が被り物をしている光景こそが、異様で余計に目立つと気づき、全てが却下となった。
大きな傘で顔を隠して帰宅する以外にないのではないか?
とアホな結論が出たが、そんな傘を常に持ち歩くのが邪魔でしかないし、いかなる時も傘をさしている変な奴になってしまう。
議論は難航に向かったが、
結局、普通にサングラスとマスクとキャップで良いのではないかと落ち着き、私たちの気持ちもクールダウンし、現実に着地したのだった。
もしかしたらあの建物は、アパートそっくりの倉庫なのかもしれない。
それでも私は、出入り姿を晒す勇気は持てないと思った。
偶然にも知っている人が私の存在に気づいたら、無駄に気まずいではないか。『見たよー』なんて後に言われたらたまったものじゃない。
どうしても住まなければならない指令が下されたら、サングラスにマスクにキャップの装備でしのぐ他ないだろう。
最後までお読みいただきありがとうございます♪
また来てね♡
〜おまけ〜
大雪の日、渋滞で、会社に遅刻したことが何度もある。
ほぼ雪は積もらなく、積雪があっても薄く、午後には溶ける地域だから余計に渋滞するのだ。
要するに皆が雪慣れしていない。
ちょっと雪が積もっただけで、渋滞を越えての大大大渋滞となる。スタッドレスタイヤは必須な地域なのに。
私は今の車が4台目だが、全て四輪駆動車にした。
時々くるドカ雪やアイスバーンが怖い。
四駆は安心材料にもなるし、馬力が二駆とは全然違う。
それでも何かと恐怖症の私は、緊張しながら運転して、会社に着く頃にはクタクタなのだった。