会社は、どこまで「家族」になれるのだろうか。 人事や採用で、私が大切にしていること。
人に雇われたことがない私
私は会社をつくった創業者なので、人に雇われたことがありません。
だから、このことを100%理解できているかはわからないのですが、「組織」対「個人」のテーマは私がとても大事にしているものです。
マザーハウスは現在、9カ国に600人のスタッフがいますが、組織と個人の価値観をどう一致させ、異なりをどう尊重していくかは、すべての国にとって共通のテーマ。
この大きな"二項対立"をいろいろな場面で感じています。
創業当初の写真
会社を 店舗を、「帰る場所」に
少しステレオタイプ的な見方ではありますが、あえて言うと、これまでの日本の会社は「組織」の方を大事にして成長してきたんじゃないかと思います。
会社のゴールを優先させて、個人の幸せを犠牲にしながら働いてきた人もいたかもしれません。
組織につぶされながら、我慢をして満員電車に乗っているのが、漫画や映画で描かれてきた「典型的なサラリーマン像」ですよね。
その反動からか、世の中では「個人主義的な働き方」というのがここ数年で流行ってきたようにも感じます。
自分の給料やスキルアップをきちん優先し、働いている職場が合わなくなってきたら転職するという人も増えてきました。
そうやって、人が会社と会社の間を行き来したほうが経済は元気になるし良いことだと思います。最近では大手企業でも副業を認めるところが多くなって、自分らしく働く環境が整ってきたと聞きます。
でも、私はどうしても一抹の寂しさを感じてしまうのです。会社という場所が、バラバラの個人が単に一時的に「集まる場所」になっていくのだとしたら…。
同じ時期に、同じところで働くようになったというのも何かの縁。できれば会社が個人を成長させ、メンバーに安心感を与えられるような空間にしたいと私は思ってしまいます。
会社のゴールを強制的に押しつけるのではなく、個人を支えるようなコミットの仕方ができないだろうか。
この問いに私は経営者として常に向き合ってきました。
マザーハウス の社員
家族的な組織とは
私が会社づくりにおいて、目指してきたものを思い切って言語化してみると、「企業第一でも個人の力だけでもない、両者のいい部分をかけ算した"家族的"な組織」なんだと思います。うまく伝わるといいのですが…。
振り返ってみれば、もともと「マザーハウス」という社名にしたのも、「帰れる場所になる」という意味を込めたかったからでした。
「会社」は働く場所。「家」は住むところ。世の中では一般的に、この二つを区別する人も多いと思いますが、私は最初から「ハウス」を会社の名前に入れたかったのです。
会社は「働きに行く場所」。
だけど、「守る場所」にもしたいし、「帰れる場所」にもしたい。
働いている従業員のみならず、お客様にとっても、ブランドを「家」のような存在にしたい。
そんなことを、ビジネスの根っこの部分で願ってきました。まだまだ立ち上げて13年の新しい会社ですが、色々とがんばっています。
デザインと効率性のぶつかり合い
みんなにとって「家」みたいな場所にしたいという思いは、組織づくりだけでなく、お店づくりについても同じです。
マザーハウスのお店の内装デザインを考えるとき、「リラックスして、家に帰ってきたような空間」をいつも目指しています。
店づくりの途中では、デザインと効率性がいつもぶつかり合います。
売り上げを大きく伸ばすためには、バッグや服は小さくたたんで、狭いスペースも無駄にせずに、できるだけ多くの商品を並べないといけません。でもマザーハウスのお店は広々とした空間だと感じられるよう、「スペースの空き」にこだわっています。
空間だけじゃなく、働いているスタッフたちの姿勢も同じ。必要以上に「売ることばかり考えている」と目指しているような空気にはしないように努めています。
大変嬉しいことに、お店にモノを買いに来たというより、友達や家族の家に「帰ってきた」という感覚で時間を過ごしてくださるお客様も今ではいらっしゃいます。
人を大事にする組織って?
さて、この理想はキレイなことばかりではありません。
従業員を「家族」みたいに考えて、組織を動かしていくと決めたら、それなりにお金がかかることも覚悟が必要です。
「人を大事にする組織」にするためには、給与、休暇、制度の充実が不可欠です。多くのベンチャーや小規模な企業の場合、「そんなことやりたいけれど、やれない」というのが本音ではないでしょうか。もどかしい思いを何度も味わっている経営者は少なくないはず。
反対に、お金をかけて社員一人ひとりに対して、あの手この手で一生懸命サービスをする、というのとも少しニュアンスが違いますよね。
本人の意思にできるだけ耳を傾けながら、組織として目標としている理想像につなげる方法を探る。すごく難易度が高いことだけれど、そういう姿勢が大事なのだと思います。
個人の声に、まずは耳を傾ける。
ちょっと唐突に思われてしまうかもしれませんが、マザーハウスが新しいスタッフを採用するときに面接でよく聞く質問があります。
それは、「あなたの人生が一つの物語だとしたら、クライマックスはどこですか?」というもの。
話しながら泣いてしまう人たちも多いし、なかなか言えないようなパーソナルな悩みを打ち明けてくれる子もたくさんいます。
こんな時、私はいつも、残念ながら日本の組織はまだまだ「みんな同じ」というモノカルチャーに染まっているところもある、と感じます。その中で、目の前にいる彼ら・彼女らは生きづらさを感じてきたのだろうと。
個人を理解する。個人のパーソナルな思いを聞く。
「家」みたいな会社を作るために、まずはこれが大事なのだと思います。
まず、ここから始めてみよう。
私はいつも、そんな風に自分に言い聞かせています。
*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。多くの方々に「ThirdWay」の思考法をお届けしたくて、本の内容をいくつかのパーツに分けて再編集して、noteで公開していきます。本やnoteの感想を「 #私のThirdWay 」というハッシュタグをつけてぜひ投稿してください。一つ一つ大切に、すべて目を通すつもりです。どうぞ、よろしくおねがいします。
(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)
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