見出し画像

「らしさ」を維持するために、迷わず成功体験を捨てよう。

「らしさ」と「変化」のさじ加減

「ものを作って売る」という仕事を13年続けてきて肌で感じるのは、世の中のニーズが多様化して、多くの人に爆発的に広まる「マスのヒット」が生まれにくくなったということです。

10年ほど前なら「森ガール」の流行と同時に、マザーハウスではキャメル色のバッグが全店で売れる、という現象が起きていたりしたのですが、今はそうしたことはもうありません。

ブームのパイが小さくて、個人のこだわりも細分化している。

こうなってくると、「うちはこの色で、この形」と、ごく限定的なアイコンを特色にしてきたブランドは苦しくなってきます。戦術が一つしかないと、それが受け入れられなくなったときには衰退しかなくなってしまいます。

すべてのブランドにとって「らしさ」と「変化」のさじ加減がとても難しくなってきているともいえます。変化しすぎると「らしくない」と言われ、「らしさ」に固執すると時代を捉えていないと思われてしまいます。

ブレない哲学と柔軟な戦術

私は、この答えなき問いの向き合い方の一つとして、こんな風に考えています。

ブランドの「らしさ」の部分は「内面=哲学や価値観」。一方、それを伝えるプロダクトやお店づくりは、時代の「変化」をふんだんにキャッチする。

つまり、ブレない哲学を持ち、戦術は柔軟に変えていくということなんじゃないかな、と思うのです。

マザーハウスの場合、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という根本の哲学には、どんな局面においてもこだわってきました。一方で、戦術、アプローチの仕方、すべてのHOW TOはカメレオンのように変化してきたつもり。

迷わず捨てる。これも大事。

ヒット商品が生まれると、そこに頼りたくなるし、安心材料になりますよね。

でも、もしブームが去ったとき、新たな手を打っていなかったら何も残らなくなります。

よく言われることかもしれませんが、ブランドの衰退は、「成功体験を捨てられない弱さ」に起因する、とやっぱり思います。

だから私は、迷わず自分の成功体験を捨てるべく努めてきました。

デザイナーとして、自分が最初に手応えをつかんだ「HANABIRA」シリーズは、私に自信をつけてくれたし、ブランドの名刺がわりになるアイコンアイテムになってくれました。(HANBIRA誕生秘話はこちらのnoteを是非ご覧ください)。

その後に発売した「YOZORA」は多くの芸能人の方にも愛用いただいています。

ヒットをつくるほどに、そのアイテムに資源は集中投下され、カラー展開、サイズ展開が企画されます。それはある意味とても正しい。ビジネスとしては正しい。

でも…。私はデザイナーとして、この順調な期間にいかに栄養を蓄え、次なる種をまいておくかが、非常に重要だと感じるのです。

画像2

YOZORAシリーズ

社員に怒鳴って後悔した、あの日

私のこうした考え方は、自社の社員にですら伝えるのがとても難しく、日々葛藤しています。

マザーハウスのジュエリー商品の中で最大のヒットは「しずく」という二つのカラーストーンを組み合わせたものです。

これはジュエリーづくりを始めて2年後、スリランカの色とりどりの天然石の美しさをお客様に楽しんでもらいたいと思い、対称的な色の二つの石を一つのモチーフとして形づくった作品。

おかげさまでたくさんのお客さまに愛していただき、毎年クリスマスになると「しずくのポスターを送ってほしい」と店舗から本社にリクエストが来ます。

でもある時、私は、そんなリクエストに対して「いい加減にしろ」と怒鳴ってしまったんです。

「そういうメンタリティでは、新作はいつまで経ってもスポットライトを浴びない。なぜ、タネを育てようとしない? 育てなければ『しずく』だって生まれなかったはずだよ?」。

変化をもたらす「タネ」を育てるうえで大事なのは、時間のタームです。

今年ではなく、数年先を見据えて"主人公"を増やす姿勢が大事なんです。

今年、来年の数字を見る姿勢では、新しいものは何も生まれません。

チームのメンバーには、どうしてもそれを伝えたかった。

世の中の多くのアイディアをつぶしているのは、短期的な時間感覚ではないでしょうか。どしっとした長期的視野を持ち、「いつか花開くタネをまこう」「実験をしてみよう」という気持ちを持ってみる。目の前の数字と、大事にタネに水をあげる作業は並行して取り掛かっていく必要があることだと信じています。

そのためにはやっぱり(リーダーこそ率先して)自分の成功体験を迷わず捨てられるようにならなければいけないません。捨てるというより、「乗り越える」気概、かな。

何年経っても新鮮な気持ちでチャレンジする。その快感を覚えたら、いつだってチャレンジャーでいられるんです。それほど強いことはない、と私は思います。

画像3

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?