【13】プリントアウトの体裁を変えると視界が変わる
前回の「仲本ウガンダ本」執筆プロセスはこちら(↓)。
最初から最後まで赤字を入れ終わったら、プリントアウトします。画面での推敲には限界があります。まるごと一冊分ならなおさら。
紙に印刷すると、画面で見えなかったものが見えてくる
一度読めば読み返すことはほとんどない「情報を得るための本」や、さらっと読むことが前提のSNSやnoteのような場所に書く文章ならそこまでしない人も多いかもしれません。わたしもnoteに書いた記事をプリントアウトすることはないです。
でも、児童書や文学作品のように、同じ人に繰り返し何度も、またバックグラウンドやニーズがさまざまに異なる人にも読まれることを前提とした本では、推敲の際に紙でじっくり読むことが必須。
紙にプリントアウトして推敲すると、意外なほど、画面では見つからなかった粗が見えてきます。誤字脱字を探しだす、ミクロの目の解像度が上がるだけではなくて、視界の広さが変わるんですよね。
最初はミクロに、そのフレーズや文章単位、あるいはその段落内で緻密に検討します。なぜか、画面では見逃していた誤字や、行き届かない表現がぽろぽろ見つかります。
次は、前後の段落や前後のパートとの流れを見ながら、その段落やそのセクションがいまの位置で最適かどうかを検討。書いた時の流れのままがベストということがほとんどなんですが、たまに、段落ごと移動するとあら不思議、わかりやすくなった! とか、あら不思議、説得力が増した! なんてことがあるんです。
逆に、ちょっと動かしてみたことで、「あれ、このパート、論理に無理があるんじゃない?」と気づいたり、「あれ、くどくない?」とハッとしたり。実際に動かしてみて、目で確かめる、という操作がどうも大事なようです。手書きの時代には容易にできなかった(手間がかかりすぎる)はずの推敲スタイルですが、画面上なら楽々。
最後に、本全体を見渡すマクロの視界から、あるくだりが別の章で重複して出てきてるだとか、あるくだりが入る位置を章をまたいで移動させるとか、新たな記述をどの章に入れるかなどについて検討します。
画面では、せいぜい4〜5段落しか俯瞰できません(pomeraを使ってたら視界はさらに狭く、2〜3段落)。でも紙に印刷すると、小見出しでくぎったセクションの単位で俯瞰するのも楽になるし、章単位まで視界を広くして、章ごとの位置関係を考えるのもずっと楽です。
要するに、見えていないものを頭の中で操作するのと、見えているものを操作するのとでは脳の負荷が違う、ということなんじゃないかな。操作にかかわる負荷を下げて、その分を、「どうしたら説得力が出るか、どうしたら読み手に伝わるか、どうしたら心を動かす表現にできるか」を考えるほうに回したほうがいい。とわたしは考えています。
目が滑るときは、横組み原稿を縦組みに変えて印刷する
さて、紙での推敲が終わり、その赤字も入力しました。編集者さんに渡す前に、もう一度、仕上がった原稿を通読したい。赤字がすべて正しく入力されているかどうかもわからないし(いくら注意深くやってもミスは出るものですから)。
ただし、その前段階ですでに一通り読んでしまっているので、二度めになると「目が滑る」という現象に直面します。
画面だろうと、紙だろうと、するーっと読んじゃうんですね。いいところも不具合も目に入ってこない。単に目が文字を追ってるだけの状態になってしまう。悪くすると、読みながら別のことを考えてたりする。意味ない!
昔はこれを自分の「やる気がないせい」とか「集中力が虚弱なせい」とか「寝不足のせい」と思っていましたが、ぜんぶ違いました。何度も同じ文章を同じ体裁で読んだら、チェック機能が働かなくなるのは、ごく自然なことなんです。根性のせいじゃない。
そこで、二回目に通読するときは体裁を変えます。わたしは初回の印刷は入力したときのままの「明朝体・横組み」で出すので、二回目は縦組みに。なんなら、フォントも明朝からゴシックに変える。
すると、うまい具合に目が滑らなくなります。なんだか単なる気休めみたいなtipsに見えるかもしれませんが、効果は絶大です。
体裁をドラスティックに変えることで、自分の脳に、「その原稿を自分が書いたものではないように見せる」ことができるんじゃないかな。それで、他人の原稿を読むような気持ちで客観視できるようになる。
三度目はどうするかって? 単発の数千字の記事原稿で、あまりうまくいかなくて書き直しを重ねたときは、教科書体を使ってみたり、2段組にしたりもします。
ただし、本の原稿は、ひとつの段階の原稿を三度は読まない。あんまり手元に持ちすぎてもよくないので(いじり過ぎて、良しあしがわからなくなってしまうので)編集者さんに渡します。
わたし(第一稿)→編集者さん→わたし→仲本さん→わたし(第二稿)→編集者さん→わたし(第三稿)まで来ました。
第三稿を編集者さんに渡すと、いよいよ、試し刷り(ゲラ)の段階に入ります。
(【13】終わり)