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【14】「ゲラ」の段階で、関係者に確認してもらう

前回の「仲本ウガンダ本」執筆プロセスはこちら(↓)。

ゲラが上がってきました。ゲラとは、本番の本とほぼ同じレイアウトで原稿を組んだ「校正用の試し刷り」のこと。昔はこの工程で人が活字を拾ってページとして組み、印刷機で刷ってましたが、いまはDTP(組版)ソフトで作ったデータをpdfにするだけです。


実際のレイアウトで、ルビや行の折り返しを確認する

だったら文字はWord原稿と同じじゃん、わざわざ出す意味あるの?と思うかもしれませんが、Wordファイルのテキストデータ以外の情報は本番のレイアウト作業に使えないので、たとえば傍点・イタリック・ルビなどはここで初めて確認することになります。

送られてきたPDFは、実寸でプリントします。本で読む人の気持ちに沿うためには「実物大」で読んでみることが大事なんです。改行が最低でも何行おきぐらいに入っていると読みやすいか、とか、漢字が多過ぎて紙面が黒々していないか、とかを確認します。

また、1行あたりの文字数も決まるので、あまりおさまりのよくないところで改行になっていたら、前後に文字を足したり引いたりして調整します。

たとえば、

こんなことになってしまったのは、〇〇のせいではないのに……。

という原稿で、たまたま「……。」の前で行が折り返しになって、

こんなことになってしまったのは、〇〇のせいではないのに
……。

となっていたりします。そこで切れてほしくないなあ、読みにくいなあというときは、ちょっと調整します。

こうなったのは、〇〇のせいではないのに……。

などなど。もちろん、言いたいことを曲げてまで体裁を優先することはしないのですが、ささいな調整で読み手のストレスを減らせるなら、この段階でトライしてみます。

ルビの間違いも探します。たとえば「株式会社」に「かぶしきかいしゃ」と振ってあったりすることもあります。

関係者に原稿を確認してもらうときに気をつけていること

同時並行で、この本に登場する方や取材させていただいた方に該当の箇所をお見せして、わたしが誤解して書いた箇所がないか、あるいは言葉足らずで読み手をミスリードしてしまうような箇所がないか、確認していただきます。

仲本さんにはこれまでにも二回お見せしているけれど、そのほかの方にお見せするのはこれが初めて。

以前に仲本さんにお見せした工程(こちら)でちょっと触れましたが、原稿の関係者校正はけっこう神経を遣います。どうしても、「ここが明らかに間違っているから直してほしい」だけじゃなくて、「自分は全体像をこのように理解している。だからその理解の通りに書かれているべきだ(あるいは、書かれていてほしい)」というフィードバックが来てしまいがちだからです。

その人が言っていない、していないことを書いていたら、それは「間違い」あるいは「誤解」ですので直しますが、ジャーナリズムだと、解釈や表現に関する指摘や要望には応えないのがふつうです。

しかしこの本は、ノンフィクションではあるけれど、ジャーナリスティックな目的で書いているわけではありません。後者の指摘があったときには一つ一つ、「江口はこのように理解しています」とか「客観的な事実はこうですよね」と説明して、お互いが納得できるポイントを探します。

そういうやりとりはお互いの間に不信感があるとうまくいかないので、最初から可能なかぎり誠実に、丁寧にやりとりをするように心がけています。

幸い、本書ではもっとも多くのご要望があるはずの仲本さんが、常に「私の理解はこうですが(あるいは実際はこうでしたが)、最終的なまとめ方はお任せします」というスタンスでフィードバックをくださっていました。あとは比較的ピンポイントな確認を残すだけでした。

とはいえ、本書特有の配慮が必要なパートもあり、仲本さんを含めて今回は7人の方にゲラを確認していただきました。数人の方とは何度かやりとりをさせていただいて、関係者の方にもわたしにとっても納得のいく表現にリライトすることができました。よかった。

ゲラへの書き込みは無印良品の赤ペンで

関係者確認で関係のなかったところもざーっと読んで、不自然な表現を見つけたら赤字で直します。

赤字はいつも、消せる赤ペン「フリクション」で入れます。もはやフリクションが登場する前を思い出したくないぐらい、フリクションにべったりです。

わたしがふだん使っているのは無印良品の「こすって消せるボールペン」(赤・0.5mm)。中身はフリクションらしいです

ここでは、修正作業をしてくれる人が迷わないように、意図や文字を明確に書き込むことを心がけます。そういうのを「だいたいわかってくれるでしょ」とおろそかにすると、最終成果物である本に誤字脱字が残ったりする。結局、嫌な思いをするのは自分ですしね。

編集者さんへのメモは鉛筆で書きこみます。シャープペンシルより鉛筆が好きです。

短くなった鉛筆はホルダーに入れて限界まで使います。ホルダーはいろいろさまよって、「クツワ」製の鉛筆ホルダーに落ち着きました。どんな断面形状でもがっちりホールドしてくれる感じがいい

長いフレーズや文章まるごと書き換えのときは差し替え用のテキストデータを作ります。差し替えデータをつくるほうが、直した後の文章を通して読めるので、自然な文章になりやすいという利点があります。

ひたすら作業を続けていたら……

……………!! 終わった! 

これでようやく、本文は一段落です。山の頂上はたしかに越えました。

登山と違うのは、越えたとたんに下り道が始まること。頂上に着いた瞬間に一番いい景色を見る、という具体的な報酬はないんですよね。「越えたぞ!」という達成感だけが報酬です。抽象的だわ~。

赤字を書き込んだゲラは宅配便で、データはメールで、編集者さんに送ります。このときにはすっかり「登頂の高揚感」は消え、「赤字はこれで十分だろうか…見逃してないかな…」と気になりはじめます。

ただ、この段階になると、手を入れれば入れるほど完成度が上がるとも限らないので(かえってダメにしちゃうこともある)、えいやで送ります。

祈るラッコ(いや貝を持ってるだけ)

(【14】終わり)


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江口絵理
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